賑やかだった街も
今は声を静めて
少年は一人屋根の上
流れ星をひとつ待っている
それが月の裏への連絡線
今夜ここに降りてくる
予定時刻までもう少し
ふと思い出した忘れ物をとりに
すすっと公孫樹の樹を下りる
とくとくと幹の中を流れる水
枝から零れ落ちた銀色の水を
ひとすくいだけ瓶につめる
床の間に戻って
今朝方届いた千羽鶴を
そっと握り締める
そこで眠る父のために
もう一度屋根へ上る
吸い込まれるほどの星空
呼吸するたびに胸が詰まる
こみ上げてくるものがとても大きくて
青白く燃えている胸を感じる
彼方から
小さな光がやって来る
その瞬きを合図にして
鶴が羽根を拡げはじめる
銀の水を詰めた瓶に
もう一滴気持ちを込める
最後の最後に
伝えきれない気持ちがこみ上げる
それは積荷の紐を結べないまま
渡せずじまいになってしまう
蛇口をひねったように
溢れる想いは
地上に残される
その瞬間鶴は伸ばした羽根を羽ばたかせ
星空の中にゆっくり溶けてゆく
まるで彼ら自身が星になるように
流れ星は光を連れてゆっくりと飛び去ってゆく
それをゆっくりと見届けてゆく
夜風が小さな声を運ぶ
確かな声を運ぶ
少年はゆっくりと屋根から下りてゆく
床の間に残された
空の蒲団を見つける
抱きしめられない空間がそこにあって
決壊したように涙が零れて
滴る雨が蒲団を濡らしはじめる
それを月が残さず見届ける
同じ光景が同じ日に何度も
それが毎日続いてゆくとしても
しっかりと見つめ続ける
生れる場所は遠い浜辺
帰る場所は誰も一緒
月の裏側でまた会える
だから明日がやって来る
少年が
全力で飛び出す日を待っている
* タイトルはチューリップ"someday, somewhere"から
1行目、2行目のフレーズはチューリップ"心の旅"から引用しました