「コロン」というのは、わたしが通った語学学校のこと。
ひとクラス10人前後で、和気藹々として居心地の良いクラスだった。
確か、10人が全員違う国の人だったように思う。
結局そこに通ったのは音楽学校が始まるまでの1ヶ月ちょっとで、ほとんどはドイツ人の友達から教えてもらったのだけれど、その学校でふたりの友達ができた。
ひとりは、同じクラスのカタリーナというスペイン人の女の子。
とても利発そうな顔立ちの愛らしい笑顔の中に親しみを感じて、わたしから話しかけた。
お互いにカタコトの英語でコミュニケーションを取っていたのであまり言葉は通じなかったものの、実際には気が合ったのだと思う。
ベビーシッターをしながらドイツ語を勉強しにきているという彼女の家がほんの2駅しか離れていないと判明して、その家の家主が食事に招待してくれたこともあった。
わたしたちは色々な話をした。
お互いの国のこと、言葉のこと。
スペイン語もいくつか習ったのだけれど、もう忘れてしまった。
ちゃんとメモを取っておけば良かったな、と今更ながら思う。
誕生日に贈ってくれた、黄緑色の可愛い一輪差しは大切に持ち帰って、今でも飾ってある。
もうひとりは、日本人の男の子。
最初学校で見かけた時には、日本人だとは思わなかった。
ある時、授業の後に入った本屋さんに彼もいて、日本語の本を手にしているのを見た。
その時に目が合ったので、とっさに日本語で挨拶をした。
そこから顔を合わせればひと言ふた言話すようになり、わたしたちはすぐに意気投合した。
彼は、ひとことで言うと、とても変わった人だった。
中性的というか無機質な感じの人で、一緒に食事をしていても「楽しくないのかな?」と思うことが良くあった。
けれどそれは誤解で、ただ単にマイペースなだけなのだ。
頭が良く、授業の後にカフェに寄っては教えてもらったりしていた。
後になって聞いたことなのだけれど、最初はもの凄く警戒されていたらしい。
確かに考えて見れば話しかける時はいつもわたしの方からだったかもしれないけれど、「なんか企みがあるんじゃないかと思って」なんて言われたらさすがに笑ってしまう。
企みって。
へんなひと。
しばらく会っていなくても、どちらからともなく電話をかけ「元気?食事にでも行かない?」と久しぶりに会うと、短かった髪の毛が長くなって、一筋だけ赤いメッシュを入れていたりする。
わたしは、彼の自由さが好きだったのだ。
自分の世界を生きている、その在り方が。
カタリーナも彼も、今はそれぞれの国に帰ったのだろうか。
なんとなく、もうあの街にはいない気がする。
いつの間にかふたりとは連絡を取らなくなってしまった。
あの頃はそんな風にしか人と関わることができなかったし、若さのせいにするつもりはないけれど、足りないことがあまりにもたくさんあった。
無知で、そのことをちっとも恥ずかしく思っていない、ある種なつかしいあの頃。
けれど今だって、ほんとうはあまり変わっていないのかもしれない。