かなり昔の話だが、高齢者Yさんの事をふと思い出した。
看護師資格を持たず、まだ介護の仕事を始めたばかりの事だけど、今となっては笑える思い出でもあり
慣れって怖いなと思う反面、私も成長したなと思わずにはいられない事があった。
当時、認知症と言うものがどういったものなのか、多少の知識はあったものの、器も小さく技術も未熟な
私にとっては毎日が刺激的な日々であった事は言うまでもないけど、認知のある方の対応は
みな同じ対応ではやりきれないだけあって、いつもはダンディなお爺様が、ある日突然変わってしまった時は
経験の浅い私にとっては、物凄く頭を抱えた存在となり、部屋に入る事自体がストレスとなっていた時もあった。
そのお爺様は、どことなく私の祖父にも似ていて、日本人離れした顔つきに親近感を覚えた。
常に礼儀正しく、育ちが良いのも見てわかる。きっと上流家庭のおぼっちゃまだったに違いない!と
私は勝手に想像していたのだが、実際そうだった。 89歳になった当時でさえ童貞であり、
女性と話をするだけで顔を真っ赤にしてしまうような純粋なお爺様。
それがある日の事。
いつもと同じように部屋に入り声をかけてオムツ交換に入ろうとした時だった。
「 初めまして。とても素敵なお嬢様ですね。失礼ですが年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
初めましてって毎日会ってるのに・・・と思いながらも、初めましてと挨拶を交わし、「 年齢ですか?
私の年齢は28歳です。」 と答えると、「 いやぁ、お若いですね。」
ここまでは普通の会話と言えば普通の会話。
「 そうですか? でも、もうじき30歳です、若くはありませんよ。」と答えると、「 いえいえ、私には十分です。
私の年齢は38歳ですけど、お恥ずかしい話、まだ童貞です。女性経験はありませんからご迷惑をおかけして
しまうと思いますが、何とぞ優しくご教授頂ければ幸いです。」
うん・・・何かおかしい。 何かおかしいと感じながらも、「 そうですか、ではオムツを交換させてもらいますね。」
と、ズボンを下ろそうとすると、「 すみませんが、このような事は私は初めてだもんで電気を消して頂けない
でしょうか?」 と来たものだ。 角部屋でとても明るい居室だったので、どうしたものかと思いましたが
カーテンを閉める振りをし(既に閉めてあるが)、「 失礼します。」 と声をかけた。
排便をしていたので、便を綺麗に取り除き、陰部洗浄を行い、きれいなオムツに交換する私。
その間も、「 初めてですので優しくお願い致します。緊張しますね、ドキドキしますね。」 とブツブツ
お爺様は発言なさっている。 オムツを交換し終わったのでズボンをあげ、「 では、失礼しますね。」と
その場を立ち去ったわけですが・・・・。
「 こら~!まだ抜いてはおりませぬぞ~!」 と大声でどなり始めたのであります。
「 お嬢さん、聞こえてますかー! 私が童貞だからって分からないとでも思っているのですかー。
どなたかおりませぬかー。 まだ抜いておりませぬぞー。」 と。
お爺様・・・・私、風俗嬢ではございませぬ。
オムツを交換するのが私の仕事でもあり、抜くのは私の役目ではございませぬ。
廊下に鳴り響く声を聞きながら、私は風俗嬢じゃありませぬ~~!と心の中で叫びながら、
次の部屋に移動したわけですが、先輩職員から、「 あ~あ、スイッチ入れちゃったね。」 と一言。
スイッチ入れるも何も私は何もしておりませぬ!と答えましたが、本当に色んな方がおります。
にっこり笑ったと思った瞬間、オマタを鷲掴みしてくる爺様もいれば、抱きついてきてベッドに押し倒そうと
する爺様もおります。ボケ方も人それぞれでありまして、今でこそどんな事にも華麗にスルー出来る程の
スキルと技術を身につけましたが、冷静に考えると、若い子には務まらない仕事だなと感じます。
世の中の風俗嬢も身体をはったお仕事をしていると思いますが、介護の仕事も似たり寄ったりです。
でも、慣れって本当に怖いもので、当時は凄く嫌な思いをしましたが、今はもう何とも思わなくなって
しまいましたね。不意におっぱいを握られても、「 そこ、おっぱい♪」 と淡々と言ってのけてしまうので
女らしさも恥じらいも無くなってしまったような気がしてならない。