これはフィクションです。
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長い間その業界が潤ってきたのには、さまざまな理由や事情があった。
他の場所では見られない、氷上を滑りながらの舞踊に魅せられた観客がいたことも。
競技として四年に一度の祭典の花形だったので、各国が力を入れていたことも。
その五輪という場での熱狂を冷めないままに披露することで、興味を惹きつけ続けてきたことも。
注目されて、見たいと望まれてきたこととつながっていたのだろう。
それでもやがて、それが日常に存在していることが当たり前になると、飽きることも他と比較することも違う刺激を求めることも出てくるものだ。
ただ一人の、他に代えることのできない氷上の舞い手以外。
そう、彼だけは、氷上で舞っていたのだ。
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氷上で踊れるようになるまでには、何年もの練習が必要になる。
練習環境も、そのための費用も、必要になる。
氷上に図形を描き、音楽に合わせて滑れるようになり、さまざまな技術を憶えていかなくてはいけない。
そんな苦労を乗り越えても、国内外の大きな舞台で輝けるとは限らないのだ。
それどころか、そんな大舞台に出場することすら叶わないままになるほうが圧倒的に多い。
まして、四年に一度の祭典に出ることは至難の業。
そんな中で、彼だけは別格だった。
初めて出場した五輪で頂点に立ち、さまざまな苦難を乗り越えてたどり着いた二度目の五輪で連覇を果たした。
彼が得た栄光と賞賛と人気は、その実力と実施の賜物だった。
だが、やがてそれが彼一人に集中していることを妬むモノたちが随所に現れてくるようになった。
彼が生まれ育ち、所属している国でさえも。
いや、その国の競技連盟こそが、彼の障壁になろうとしていた。
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それまで潤ってきた業界では、暗黙の了解、不文律があった。
五輪が頂点であり、その覇者が主役だったのだ。
それは四年ごとに交代するということでもあった。
また、五輪の表彰台に立ったあとは出演と収入が約束されているということでもある。
五輪が最高峰の場であるなら、そこを退いたあとの実力は下がっていっても仕方ないものという固定概念も、業界の中で出演者の安泰を意味していた。
身体能力が向上していく時期には限りがあり、五輪で最高の輝きを見せたあとは年齢的にも鍛錬し続けるのは困難だという事情もあったから、それほど実情とかけ離れていたわけではない。
彼以外は。
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数十年ぶりに十代の若さで頂点に立った彼は、実力を高め続けて連覇を成し遂げ、さらに向上していった。
このままでは三度目の五輪でも彼に栄冠を持って行かれてしまう。
そう危惧したモノたちは、あらゆる手段を使って彼を追い落とそうとした。
だが、得点を、順位を、恣意的に歪めて、得られるはずの栄光を彼から奪い取っても、氷上の主役は常に彼だった。
それは彼が競技に出場しなくなってからも同様だった。
そして彼は、もう誰とも得点を競うことがなくなってなお、実力を高め続けている。
むしろ、得点に反映されないような細部にまでこだわって、より美しく舞っている。
これでは、業界内の不文律が脅かされるではないか。
五輪が最高峰、競技に出場しなくなったら実力は下がっていくものだというこれまでの固定概念は、単に、栄冠を得た後までは努力を続けなかっただけと思われてしまうではないか。
そう恐れたモノたちは、彼の評価を落とそうと画策した。
捏造誹謗中傷で貶めようとした。
だが、彼はそういったモノたちの障壁を越えて、今もなおそれまで以上に燦然と輝いている。
他の誰にも代えられない、氷上の舞い手として銀盤に君臨している。
そしてまた、氷上の奉納舞を天に捧げるのだ。
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これはフィクションです。
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ちょっとだけ、今日のことを。
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羽生結弦選手の氷上舞が見られる日を楽しみにしています。
読んでくださってありがとうございました。