これはフィクションです。


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彼の人気を利用して儲けようとするモノたちは、これまでもことごとく失敗してきた。


まずは手始めに、大手の事務所に所属させることで契約に縛りつけようとしたが、それを断られてしまった。


ならばと、広告業界と手を組んだモノたちが、さまざまな嫌がらせを続けてきた。


彼への過小評価もそのうちのひとつだ。


彼は、愛する競技の採点が歪められていくことに心を傷め、また、自身の技術や表現に衰えが出てきたのかと思わされて精神的に追い詰められ、競技への情熱を新しい技への挑戦でのみ保つような日々が続いた。


四年に一度の祭典でそれに挑んだ彼は、完成形を見せることは成し遂げられなかったけれど、最後まで正攻法で挑戦したことに誇りを持って競技よりも高いところに向かった。


彼の四年間の挑戦により、その「成功まではできなかったけれど果敢に挑んだ」姿に心動かされ、それまでよりもさらに多くの支援者を得ることになった。


競技の主催側は最初、彼が出場しなくなっても観客や視聴者は試合を見るだろうと思っていた。


それは希望的観測にすぎず、やがて、彼のいない氷上には華も見応えもなく、閑散とした観客席からは熱意も感じにくくなっていった。


それでも、競技に出なくなった彼が、別の形での活躍を望むなら、氷上で共に舞う人材は必要だろうと予測していた。


その人材を派遣することと引き換えになら、彼からも何らかの譲歩を引き出せるだろうと。


だが、彼は単独での氷上舞を披露するという、前代未聞の試みに着手した。


競技のしがらみから解き放たれた彼の氷上舞は、満員の観客に熱狂的に支持されて、国内外への配信や放送なども行った。


彼を何とか自分たちの支配下におきたいモノたちは、それからもあらゆる手段を駆使して彼を大手の事務所に所属させようとした。


家族を含めた私生活を覗き、盗撮し、揶揄し、曲解させる見出しをつけ、さまざまな媒体で印象操作をして、彼を精神的に追い詰めようと、また、支援者を減らそうと画策したのだ。


だが、それまでの経緯を彼の支援者たちは知っていたのだ。


桁外れの人数を駆使して、その経済力と拡散力で対抗したのだ。


彼もまた、その唯一無二の氷上舞を見せることで、さらなる支援者を得ていった。


彼を屈服させたいモノたちは既に、なりふり構わず悪口雑言を撒き散らし、それまでそのような経緯を知らなかった人たちにまで、これまでのことも含めた悪行が見えてきている。


それでも喚きちらすさまは、魑魅魍魎が断末魔の悲鳴をあげているかのようだ。


もしかしたら、本当に、彼は伝説の陰陽師のように破邪の気を身にまとい、悪霊を祓う氷上舞であのモノたちを調伏しているのかもしれない。


あのモノたち全てが封じ込められるまで、彼の闘いは続く。


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これはフィクションです。


読んでくださってありがとうございました。


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ちょっと独り言。


彼への過小評価や、私生活への侵害がなかったら…

あのモノたちの誘導する事務所に彼が所属しなくても、

彼から経済的恩恵を受けるのは、無理ではなかったはず。

欲をかいて逆効果。