これはフィクションです。


そこは都から遠く離れた地。

都から見て鬼門に位置する東北の地。

鬼門に淀みがあると、国そのものの基盤が危うくなる。

そこは常に、清浄でなければならないのだ。

だが、都の人々はすぐに、そんな遠くのことを記憶の彼方に追いやってしまう。

そして重圧がその地の人々にかかり、生活苦に喘ぐ心が淀みを引き寄せてしまうのだ。

その地に生まれついた英雄は、たまたまそこに生まれたのではない。

その地の淀みを都に知らせて、民の苦しみを取り除いてもらう使命を持っていたのだ。

アテルイ。

彼の名は、その地の護りのように伝えられる。

護りは浄化の結界となる。


戦国時代末期に生まれた英雄もいる。

もっと早くに生まれていたら。
もっと中央近くに生まれていたらと。

そう言われることもある。

しかしそれは違う。

その地、そのときに生まれついたからこその役割があったのだ。

終わりかけた戦乱の世が。

また乱れることもあり得た。

その乱れをただすことができる器の持ち主が、他に何人いただろうか。

泰平の世になって。

その役割を果たすことなく、天下人にはならなくても。

東北に杜の都を築いて。

その地を清浄に保ったのだ。

伊達政宗。

その名は誇りとともに語られる。

誇りは浄化の結界となる。


平成の世になって。

豊かになったはずの国なのに。

何か淀みが隠されている。
何か歪みが潜んでいる。

大地が揺れて、災厄が地を襲う。

人々の絶望。
悲しみ。
叫び。

差し伸べられた手はあったが。

遠く離れた地に住まう人は、すぐに東北の苦しみを忘れ去ってしまう。

しかしその地に生まれついた英雄が、多くの人々の心を引き寄せた。

武器を持って闘うのではなく。
天に捧げる氷上舞で。
五輪二連覇を果たして。

日本だけでなく。
世界中の人々の心を。
その地に引き寄せた。 

仙台の復興の役に立ちたいと。
東北の復興の役に立ちたいと。

その生まれ故郷に思いを馳せる。

羽生結弦。

その名は東北の光になった。

光は浄化の結界となった。



これはフィクションです。

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