これはフィクションです。


夢の中で美しい女性が泣いていた。

彼はその女性を初めて見たが、知っている相手だと感じた。

彼が愛してやまない、常に共にあり、感謝を捧げている……………

「溶けたくなかったのに。暑さに負けてしまった。あなたにとって最適の私でありたかったのに」

ああ、そうだ。
この女性は氷の……………

「貴女の責任ではありません」

彼はそう言ったが、女性は泣き続けた。

「あなたが何をしたかったか私は知っていたのに。あなたがそれをすることを私も望んでいたのに」

そうなのか。
それなら自分も、女性の望みを叶えられなかったのだ。

彼は少ししてから、女性にこう言った。

「貴女が溶けるように画策したモノたちを浄化したいのです。お力を貸してください」

そこで初めて、女性は彼に笑顔を見せてくれた。

暑くなるという予報があったにもかかわらず、外気を取り入れて氷を適温にしなかったモノたち。

彼に浄化されることを拒否したモノたちだ。

だが、決戦の日には、外気そのものが冷え込んだ。
天地人を司る彼が冷気を招いたのか。
天地が彼に加護を与えたのか。

それでも彼の手は勝利に届かなかった。
彼を敵視するモノたちの死にものぐるいの抵抗。

焼き尽くせなかった。
まだ蠢いている。

浄化が不完全なままで結界を張るわけにはいかない。
彼は春を呼ぶ天の舞で、さらなる浄化をおこなった。氷上の奉納舞だ。

「このときを待っていたの」

女性の声が聞こえた気がした。

彼は氷を抱きしめるように舞い、そっとくちづけた。

その一瞬後に、彼が鋭い視線を飛ばした。

それはまるで、恋人を抱きしめながら恋敵を睥睨して「誰にも渡さない」と宣言しているかのようだった。

そして彼は氷のかけらを手のひらにすくいとった。

彼の手の中に入った氷のかけらたちは、そのあたたかさに溶けそうになるのを懸命に押し留めた。
彼の手から離れる最後の瞬間まで、彼が愛してくれる氷のままでいたいと望んだ。

そして、彼が舞い散らせた瞬間に、彼と共に浄化の力を放った。

歓声が降り注ぐ。
そこにいる彼の味方の心も浄化の力を増幅させた。

しかし本来なら、もっと多くの味方の心が遥か遠くからも彼に寄せられたはずだった。

それを断ち切るために、あのモノたちが彼の映像を中継しなかったのだ。
もう、どのような姑息な手段を使っても、彼の邪魔をするつもりなのだろう。

それは、断末魔の悲鳴にも似ていた。

だが、まだ蠢いている。

彼の浄化がまた必要になるときは近い。


(これはフィクションです)

読んでくださった方がいらっしゃるなら。

ありがとうこざいました。