これはフィクションです。




「天地人を司る」
彼に、そう教えてくれた人がいた。
短いものではあったが、どうしてもその人に教えを請いたいと彼が望んで実現した時間に、その師匠は空間を支配する意識の持ち方を伝授してくれた。
彼は懸命に、その伝授されたものを突き詰めていった。

それに危惧を抱いたモノたちがいた。
かつて自分たちを封じた「あの人物」と似た力を彼から感じとったモノたちだ。
悪霊だの怨霊だのという名前がついたこともある。
その実態がなんであるのか、そのモノ自身もわかってはいない。
だが、漂いながら取り憑く相手を探しているモノだ。

取り憑く相手には事欠かなかった。
物質が豊かになっても、人の心にはそういうモノにつけこまれる隙があるのだろう。
他人の功績を妬む者。
握った権力に固執する者。
後ろめたいことを隠し通したい者。
他人が得たものを労せずして手に入れたいと望む者。
いくらでも、取り憑く相手はいた。

彼の力を削がなくてはならない。
彼はそもそも何者なのだ。
あの人物の末裔なのか。
それとも輪廻転生したあの人物自身なのか。

そのモノたちは画策した。
彼が力を発揮できないように。

彼が天地人を司り、そのモノたちを封じ込めて結界を張ってしまわないように。

彼が異国の地にいるときに、人の心を離れさせるようなことができれば、天地人を司ることは無理だろう。

その画策は、一度は成功したかに見えた。

しかし彼は、今度は天地人ではなく、風のように、水のように、重力を感じさせない動きで見る人々を魅了して惹き込んだ。
人の心を味方につけて、その力で自らの力を増幅させたのだ。

さらに彼は、四年に一度の祭典で、再び天地人を司ることを選んだ。

そのモノたちは恐れた。
情報媒体を使い、彼がそれを行うことを非難したり揶揄したりして、阻止しようとした。
さらに、彼への応援の気持ちが揺らぐよう薄らぐよう、彼の支援者たちにも心騒ぐ情報を発信した。

だが、彼は強かった。
支援者の彼への応援の気持ちも揺らぐことなく薄らぐことなく、手負いの彼を支えたいと、祈り願い望んでいた。

そして彼はまた応援してくれる人を増やした。
それでも、海の向こうの国での勝利と結界では、まだそのモノたちは封じ込められてはいなかった。

彼は今度こそ、自国でそれをやり遂げるつもりだ。
封じ込められてたまるものか。
そのモノたちは、彼の自国を敵地のようにして迎え撃つことにした。
そのために、自国が敵に蹂躙されようとも、知ったことか。

彼は満身創痍の身で、闘った。
勝利の業火でそのモノたちを焼き尽くしたあとで、春を呼ぶ天の舞で結界を張れば、彼の故国を浄化できるはずだ。

そして……………

勝利に手が届かなかった。
そのモノたちの画策は、ある程度機能したのだ。

しかし彼も、さらに支援者を増やした。
痛み分けというところだろうか。

そのモノたちはまだ蔓延ったままになってしまっている。
浄化はどれくらい保つだろうか。

彼の闘いはまだ終わらない。

(これはフィクションです)



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