子どもの頃には、幸せというものは大きな塊のように思ってました。
相思相愛の人との結婚。
社会的成功。
可愛い子どもたちの成長。
仲の良い友人たちと過ごす時間。
そういった、大きなひとかたまりの幸せな時間と空間の中にいる自分が、「将来こうあって欲しい幸せな私」だったんです。
けれど、実際に大人になって、結婚して子どもを産んで…
幸せって、もっともっと小さなかけらがちりばめられたようなものなのかもしれないと、感じるようになりました。
ほんのちょっとの嬉しいことが、とてもたくさん感じられる毎日。
何も、社会的成功も、経済的余裕もなくたって、子どもに「お母さん」と呼ばれるだけで嬉しい。
幼い我が子に抱っこをせがまれるのも嬉しい。
夫に「ありがとう」と言われるのが嬉しい。
家族に、料理を「美味しかった」と言われるのが嬉しい。
子どもたちに背を抜かされたことも嬉しい。
羽生くんのファンになって、毎日感じられる幸せのかけらはさらに増えました。
オリンピック金メダルを取ったとか、国民栄誉賞を受賞したとか、そういった大きなひとかたまりの幸せな瞬間も嬉しかったけれど。
ほんのちょっとの嬉しい瞬間を、たくさん、たくさん、とてもたくさんもらいました。
2017年世界選手権のフリーのとき。
フィギュアスケートの試合をTV中継で見てました。
中盤で、羽生くんが手の中に何かを包み込んで、その後パッと撒くような仕草を見せました。
あの瞬間、「ノーミス、パーフェクトで世界記録を出して優勝する!」と感じたんです。
羽生くんの手の中に入ったのは、私たちファンの応援エネルギーで、羽生くんが受け取ったそのエネルギーでパーフェクトな演技をしてお返ししてくれる。
と、思ったんです。
「逆転への道筋が見え始めた」
アナウンサーの声が、自分の心と重なって聞こえて…同じものを感じたのかと…
直後の、鬼門だった4S-3Tの鮮やかな成功。
最後のジャンプ3Lzが決まったときの会場の歓声。
なんて素晴らしいものを見せてくれたのでしょう。
…で、冷静に考えると、手の中に何かをつつみこむような仕草は、シェイリーンさんが振り付けたからなんでしょうし、SPの点差を考えると、世界記録を出しても優勝できるかは微妙なところでした。
それが、まあ、本当に逆転優勝してしまったじゃありませんか!
あんな、不思議な感覚を試合観戦中に感じたのはあのとき一回だけです。
これから先にあるかどうかはわかりませんが。
あの試合、羽生くんが逆転優勝したこと、世界記録を出したこと、パーフェクトな演技を見られたことという幸せの大きな塊と同時に、不思議な感覚をプレゼントしてもらったという幸せのかけらもありました。
そして、自分だけが感じたのか、他のファンの方も感じたのかわからないその感覚によって、光り輝く小さなかけらをたくさんちりばめたところを見渡すように、いつまでも続く幸福感をもらったのです。
羽生くんのファンになって良かった。
応援して、幸せになったのは私のほうです。
羽生くん、ありがとうございます。
読んでくださった方がいらっしゃるなら。
あなたにも。
ありがとうこざいました。