分析:ロシア・中国・北朝鮮の連携、その実態は何か。「便宜上の枢軸」が世界秩序を揺るがす
近年、ロシア、中国、北朝鮮の急接近が、世界の安全保障を語る上で最大の焦点の一つとなっている。特に、ロシアと北朝鮮が事実上の軍事同盟を締結したことで、「新たな三国同盟の誕生か」との見方が強まっている。
しかし、この三国の関係は、一般的にイメージされるような一枚岩の同盟とは大きく異なる。
本稿は、この複雑な関係を「便宜上の枢軸」というキーワードで読み解くものである。なぜ彼らは連携するのか、その核心にあるロ朝の危険な取引とは何か、そして「黒幕」とも言われる中国の本当の狙いはどこにあるのか。この新たな地政学的力学が、日本を含む国際社会に与える影響を分析する。
結論:正式な同盟ではなく「便宜上の枢軸」
現在、世界が目撃しているのは、NATOのような正式な三国間軍事同盟の誕生ではない。むしろ、それは共通の敵である米国主導の国際秩序に対抗するため、それぞれの思惑から形成された、より流動的で機会主義的な「便宜上の枢軸」である。この連携は、結束した同盟というより、各国の利害が一時的に一致した結果の戦略的協力関係と理解するのが適切だ。
連携の核心:ロ朝の事実上の軍事同盟
この枢軸で最も具体的かつ危険な進展は、ロシアと北朝鮮の関係である。2024年6月に締結された**「包括的戦略パートナーシップ条約」**は、有事の際の相互軍事援助を定めており、事実上の軍事同盟と言える。
* 北朝鮮の提供: ウクライナで苦戦するロシアに対し、大量の弾薬やミサイル、さらには兵員を提供。
* ロシアの見返り: 北朝鮮が長年渇望してきた衛星・ミサイル関連の先進軍事技術を供与。
この取引は、国連の対北朝鮮制裁を根底から覆し、北朝鮮の核・ミサイル能力を飛躍的に向上させる深刻な脅威となっている。ウクライナの戦場は、北朝鮮にとって自国兵器の性能を試す「実験場」となり、ロシアからのフィードバックは将来の兵器開発を加速させるだろう。
中国の計算:リスクを避ける「戦略的支援者」
中国の役割は、この枢軸を裏で操る「黒幕」ではない。むしろ、自国のリスクを最小限に抑えながら、米国の力を削ぐことで戦略的利益を最大化する「戦略的支援者」である。
北京は、ロシアの戦争経済に不可欠な軍民両用(デュアルユース)部品などを供給することで、主要な競争相手である米国を欧州とインド太平洋の二正面で疲弊させている。しかし、自らが紛争に直接巻き込まれることを避けるため、正式な三国間同盟の形成には一貫して慎重な姿勢を崩していない。これは、ロシアと北朝鮮にリスクを取らせつつ、自らは漁夫の利を得る計算高い戦略と言える。
地政学的な影響と西側への挑戦
この「便宜上の枢軸」の出現は、世界に深刻な影響を及ぼしている。
* 多正面での脅威: 米国とその同盟国(特に日本、韓国)は、欧州とインド太平洋にまたがる多正面での安全保障上の課題に直面している。中国が台湾有事を起こす際、ロシアが欧州で陽動を行うといった協調行動のリスクが高まっている。
* 国際秩序の侵食: ロシアが国連安保理で拒否権を乱用し、中国がそれを黙認することで、制裁などの国際的なルールが機能不全に陥っている。
* 北朝鮮の台頭: 金正恩はもはや単なる「代理人」ではない。ロシアとの関係をテコに影響力を増し、自らを地域の不安定要因から、大国間競争における重要な「枢軸の担い手」へと変貌させた。
今後の展望
この枢軸は、共通の価値観ではなく「反米」という共通の敵によって結びついているため、内部に本質的な脆弱性を抱えている。しかし、短期的には西側諸国にとって深刻かつ予測不可能な脅威であることに変わりはない。
これに対し、日米韓をはじめとする西側諸国には、同盟の結束を一層強化し、多正面の脅威に対応する「統合抑止」を向上させることが求められる。同時に、この枢軸内の利害の不一致を見極め、そこを突くしたたかな外交戦略も不可欠となる。