わたしはいろいろな場所でライブをやらせていただいており、それぞれにいい空間だと思っておりますが、ことサズの楽器的性質に限ってその相性ということでいうと、別に宣伝するわけではありませんが、西荻窪にある音や金時の音環境がもっともしっくりくる感じです。
サズの音というのはほんとうにデリケートでして、少しでもしっくりこないところがあると、精神的にももちこたえるのがかなりしんどいことがあります。
サズのソロライブなどというと、お客さんはどこでやっても少ないのが現状ですが、サズそのものに関心のある方、サズの音が好きな方には、ぜひとも音や金時のサズライブにおいでいただくといいと思います
もちろんほかの場所にはそれぞれに固有のよさがあり、そこでの演奏に自分なりの納得ができているので、そちらにも足をお運びいただければありがたいのは当然のことですが。
そもそも楽器というものは演奏者の心持ひとつでいかような世界にも行くことができます。サズも例外ではありませんが、深い集中力で楽器そのもに向かい合えたとき、お客さんへのサービス精神なるものが消え去る瞬間にいたります。楽しませよう、退屈させないよう、いろいろな技を駆使しよう、一緒に盛り上がろう、見せよう、魅せよう、という欲望の消滅点です。
そんなことはもうどうでもよくなり、演奏者の自我は消えて、ただ楽器そのものが奏でているのです。それはエンターテイメントのかけらもない、しかも結果的には最高のエンターテイメントなのではないでしょうか。その境地に至り、しかもそれを持続することのできる空間こそが、ミュージシャンを育てるのでしょう。