むかしは
まだ
空は青かった
雲は美しい形と色をしていた
空気は吸えた
子供は産めた
魚は食えた
肉も食えた
茶は飲めた
野菜は体によかった
雨にぬれて歩けた
植物や花の香りを味わえた
草いきれにほっとできた
海で泳げた
甲子園の土を手ですくう人がいた
窓は開けてもよかった
健康という言葉がまだ使われていた
若く美しいひとをみるたび、涙があふれることもなかった
すべての気持ちよさが
葬られた
生き物の感性が
沈められてしまった
後の世代が前の世代を殺すことは正義となった
まだわからないのか
まだみえないのか
まだしがみついているつもりか
まだ声が聞こえていた
が、やがて声はあきらめたようだった
(2025年4月18日)