新連載 「夢のあとの夢」 第一回 戦場の司令官 | サズ奏者 FUJIのブログ

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夢のあとの夢





うまれることのなかった子らの深い霧の中から

美しき砂漠の幻影 虚無に立つ一条の光

漆黒の大地をあぶりだす白い闇の情念よ

果実は青く包まれ びちゃびちゃと音を立てながら

歯軋りを繰り返す

ざらついた苦悩が皮膚に食い込み

さそりはいつものように 夢の卵を産みつける

いくたびか産み落とされ 虚空の中に失われた

何万年分の廃墟 不機嫌な孤影の国の人間よ





1. 戦場の司令官    済州島


突然女たちの悲鳴がしたかと思うと、いつものように現場は流血と呪詛と憎悪の雄たけびに包まれた。済州島の誇るソギポリゾートビーチもまた、奴らの標的になった。これで海の向こうの四つの島にミサイルをぶちこもうという威勢のいい連中が、ますます気勢をあげることになる。

「予想していたことでしたな」

朝鮮タイムス記者の金正哲が皮肉な笑いを浮かべた。

「日本のナショナリズムを発展的に解消するためのたったひとつの方法だったはずが、このありさまだ」

「アメリカを敵に回した奴らに何ができる。せいぜい自爆テロが限界さ。そもそも歴史の正当性は俺たちの側にあるんだからな」

パクソギルはいらいらして言った。この記者は反体制的な記事を書くことで俺たち政府関係者の間ではつとに有名だ。気をつけたほうがいい。

「敵は外部からやってくるとは限りませんぞ。形を変えた植民地支配に不快感を覚える本鮮人も多い」

「またその話か。そもそも俺たち朝鮮人に本鮮も外鮮もありはしないんだ。せせこましい部族意識は敵につけこまれるだけだ。さあ議論はもう止めにしよう」

「あなたの上司に言ってやったほうがいい。こうしたやりかたそのものが時代おくれなんだと」


パクが朝鮮天皇国の植民省に勤め始めて5年になる。ソウルで生まれた彼は、この国が日本と呼ばれていた時代の記憶を持たない外鮮人2世だ。外鮮人とは日本列島からの渡来人で、本鮮人とはもともとの先住の朝鮮民族を指す。二千年代の初期、日本列島はすでにイスラム化し、行き場を失ったナショナリズムはついに歴史の闇をさまよい始めた。そしてかつては礼儀と思いやりに満ちた静謐な禅センターのような国だった日本が、電車の中で女が強姦されようが老人が撲殺されようが誰も気にとめないような、腐ったぼろ雑巾になりはてた2025年、憲法改正後初の国民投票で政権の座に着いた松浦秀治は、自由と民主主義を超える最後のかけとして、イスラムを国教として採用するに至る。この厳格な政教一致の一神教導入以外に、日本を再びアジアの独善者として孤立化させるナショナリズムの力を借りることなく、卑小な欲望と自己保身の塊と化した日本人の究極の腐敗を正す道はない。松浦はそう考えたのだ。追い詰められたナショナリストたちは、大胆にも仁徳天皇陵の発掘に最後の望みを託した。そして天皇のルーツが朝鮮王に他ならないことが立証されるやいなや、なんと日本を捨てて朝鮮に渡り、武力で皇族を中心とした朝鮮天皇国なる国家を建国した。彼らはみな日本語を捨て、自らのルーツである朝鮮の文化に同化した。当然名前も朝鮮名に改めた。以来イスラム世界との絆を強めるイスラム日本共和国の反米姿勢に対抗してアメリカの属国となる道を選んだものの、もともと朝鮮に住んでいた人々が、1000年ぶりの同朋の帰還を喜ぶはずもない。しかも彼ら元日本人たちは支配者面を捨てず本鮮人を使用人扱いする。これではかつての植民地支配と違いはなく、絶え間ない暴力沙汰もやむをえないというものだった。                つづく