なんだか不思議なもので、私はまだ尻が青い年齢の割には
内容の濃い生活をしてきたせいか、
不思議な感覚に陥ったことが 2度あります。
一つは「おちるのが 何だか楽しい」。
崖のフチを歩いている間は下が怖くて
しょうがなく思えるのですが、何かの拍子に足を滑らせた時、
初めは怖いので登ろうとするのですが、
登る手段を探して彷徨っている内に、段々とその世界に慣れてきます。
すると、今度は不思議なもので、ずっと上に戻る道を
探していたのに、容易に行くことが出来る「更に下」に興味が湧いて来る……。
そうして気付けばどんどこどんどこ ころげ墜ちて行くのですが、
ずっと怖いと思って来たそれが、変に楽しくなってくるのです。
そして、ずっと怖いと思っていた下に突き進んで行く自分が、
勇敢にさえ思えてきて、崖の上で下を怖がっている人たちより
自分は勇気がある、ほぅら、ついに底についたどぉ~!
なぁんて思う頃には、もう崖の上は見えない訳で……。
その次にやってくる2つ目、「限界への挑戦」。
決して無駄な経験ではないのですが、崖下まで着いた世界で得られる自信は
所詮「井の中の蛙」ごと に過ぎません。
窮屈な崖っぷちに比べて 崖下は広々した世界ですが、
なんだか息苦しい。これはなんでだろう??と考えたら、
そうです、日光が当たらないのです。
だから植物が育たなくって、酸素がない。
目に見えないもの、その大切さは、
なくなった世界に入って初めて実感する訳です。
そのことに 気付いた時、ようやく自分はとんでもない
とこまで来ちゃった! と 慌てます。
「うぅん、貴重品入れてる背中のリュックに酸素ボンベあったかなぁ??」
「……って、あるわけナイ┐( ̄ζ ̄)┌」
あった所でいつまでも保つ訳がないし、
カエルの変態(エラ呼吸→肺呼吸)の逆変態?じゃぁないけど
進化でもして生き様変えないと、
こぉんなトコじゃ人間の姿で暮らせない。上に上がらなくっちゃぁ。
さぁ大変。転がるのは容易ですが、登るのは人一倍の努力がいります。
でももう底に興味なんてありません。
転がってきた何倍もの時間をかけて、上に登る。
しんどいけれど、頑張れば、頑張るほど、上へは早く近付けます。
早く上に戻りたい。道幅狭くって窮屈でも、酸素のあるあの崖っぷちへ。
早く上、早く上ッ。頑張って登っていたら、体力がついてきたのか、
段々早く登れるようになってきました。
おぉ、慣れて来たもんだな、自分にもこんな体力があったんだ。
よいしょ、よいしょ。
そうだ、鍛えれば鍛える程 体力もつくだろうから、
トレーニングもついでに兼ねて 頑張っちゃおう、
よいしょよいしょよいしょ!
すごい、結構出来るもんだな、上もだいぶ近付いてきたし!
頑張れば、頑張るだけ、出来るもんなんだ!
この調子で頑張れば、転がってきたスピードと同じくらいの
スピードで登れるようになるんじゃないかしら?!
よし、目標はそのスピードだ、頑張れ頑張れ、
もう底見えなくなってきた、頑張ればきっと出来るはず!
目指すは 上、上! すごいすごい、出来る出来る、
やれば出来るんだ、もっと頑張ろう。
もっともっと、もっともっと。
そうして ようやく崖っぷちまで戻ってこれました。
全身どろんこ、傷だらけ。
でもこれすら 頑張った勲章です。
下から這い上がって来たどろんこを見て
必死に崖にしがみつき震えながら「ンマァ。汚い」
なんて言う人もいますが、おかまいなし。
「ねぇ、下はやっぱり怖かった?」
「底はどんなだった??」
「怖くて行く勇気はないけど、興味あるんだよね」
そしてどろんこ姿のまま、悠々と見て来たものを
皆に話します。
崖っぷちは狭くって窮屈に感じるけれど、
広い底よりは、ずっと素晴らしい所であること。
酸素がいかに大切か、っていうこと。
頑張れば何だって出来る、っていうこと。
ほら見てごらんなさい、私のこの体力!
……そうだ、この崖っぷちも素晴らしいけれど、
これまで鍛えて来た体力があるし、
あの調子で、更に上目指すのは どうだろう?
上がどんな世界か知らないけれど、
居心地悪ければ 転がるのは簡単だから、
戻ってこれば 済む話。
やってみよう……! だって、今まで頑張って
こうして墜ちて這い上がってきたんだもの、
やればできる、きっと出来る!
出来ないって思ったらそこで 終わりだ、
挑戦挑戦! うん、やろう!
そんな訳で、自分は上目指して行ってみるよ。
みんなは間違っても下には落ちないように気をつけてね。
狭くて窮屈に感じるかもしれないけれど、
此処は良い所なんだから。
それじゃあ、ちょいとま、行ってきます。
何事も挑戦、挑戦。じゃあの!(`・ω・´)ゞ=3
って、上目指して 崖向けて這いつくばった自分
を見上げて誰かがいいました。
「ん? ちょっと待って。背中のリュックに穴空いてるよ?
中に入ってるはずのいっぱいの貴重品、大丈夫?」
……えぇ……??
おそるおそるリュックの中を覗いてみるとモヌケの殻。
ほんとだ、ない……。
うそぉん、何処で落としちゃったの??
あの中には今まで得て来た経験の記憶以外の
全てが詰まってたのに!!
底にいた時は確かに持っていたから……
そうか、這い上がって来た時だ!
あぁぁ、頑張って夢中で上がってる内に
穴があいてポロポロ落っこちていっちゃったんだ。
ひょっとしたら、それで軽くなって登りやすくなっていたのに
体力がついた、って勘違いしていたのかもしれない、
あぁああぁっぁぁあぁぁ、なんてこと、なんてこと……!!
周りの景色ばっかり、上ばっかり見て、
自分のリュックの異変に気付かないでいたなんて……。
誰かの助けで裁縫道具を借りて、穴は縫うことができました。
けれど 中身はからっぽのまんまです。
さぁ どうしようかな……。
元来た道を辿って 拾い集めて取り戻して行くか。
それとも また新しいものを、時間をかけて一つずつ詰めて行くか。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
今年 何かの占いで、
『今年は良くも悪くも再発の年』と出てました。
私の国語辞典には
【再発】ふたたび発病・発生すること。
とありますが、なんとなく、再出発、という意味も
入っているかもしれないなぁと占い結果では受け捉えられました。
いずれにせよ、「つぎはぎリュック」の中身は以前からっぽ、
上に行くか、元来た道を辿るか、
決まらず動かず 崖っぷちで通行人の邪魔になりつつ
ボーッと座り尽くしてますが、
この景色も 悪くないなぁと思うこの頃です。
そんな私からの一言。
『日本人、やっぱり働き過ぎ。』(´_ゝ`)
※ちなみに 転がるのは容易だからと
底で暮らすこと自体も容易に捉え、
そこで暮らす人たちを見下す人達が大勢いますが、
底は底で酸素も日光もないので、暮らして行くには
ありのままの自分の姿では生きて行けないため、
大変な進化/変身をしなくてはならず、
崖っぷちで暮らす以上の苦労がある、
ということも付け加えておきます。