Jの新年中クラスは11月から始まっている。
しかし、いまは4月。
息子は途中からの参加になる。
考えてみたら
11月の授業 第一回から申し込みをしているご家庭というのは、受験に対する意識が かなり高い ということ。
教室のドアを開けた。
複数の視線が浴びせられる。
紺色の服を纏った母親たちが、外見の落ち度を探し出すような視線を向ける。まず息子。そして私。
息子「こんにちは」
私「こんにちは」
一瞬空気がとまったような空間の中で、お辞儀をして教室に足を踏み入れる。
だれもニコリともしない。視線は続いている。
T先生「こんにちは」
私は、T先生に近づき
「今日からお世話になります。宜しくお願い致します」
と挨拶を済ませ、周りの子供達の様子を見た。
全員が紺色の風呂敷を広げて粛々と着替えをしていた。
風呂敷なんて息子に持たせていない。
履き替えた上履きも、バレエシューズは息子だけだった。私の方もジーンズに場違いなジミーチュウのバッグ、スリッパは白。
逆の意味で浮いていた。
パーティにぬののふくで来たみたいな。
私はジミーチュウのバッグを隠すように椅子の下に押し込んだ。
まだ年長じゃないのに。
みんなもう完璧なお受験コーデなのか。
この中で浮きたくない。
次回までに揃えておかなければ。
時間になって、始まりの挨拶のあと、先生から一人ひとりにハチマキが渡される。
私(何をするんだろう)
T先生「腰で結びます」
言いながら素早く子供達に見本をみせたあとすぐに
T先生「よーいスタート!」とストップウオッチが押された。
息子に結び方なんて教えてない。
他の子供達は器用に、素早く、固結びをしていく。
息子は紐を両手でもったまま、その様子に呆気にとられていた。
補助の先生が息子の腰紐を結んでくれた。
これは次回までに出来るようにさせなければならないということ。
教室の後ろに並んだパイプ椅子に座って母親たちが見学している。
我が子の気になるところ、出来ないところ、今日の授業内容など、忙しそうに膝上に置いたノートにペンを走らせている。
息子は散々だった。
走ること、四つ足、かえる跳び、平均台、指示行動を聞いていない。気をつけの姿勢を注意される。身体がふらつく、ケンパができない、スキップができない、何もないところで転ぶ。などなど。
なんで何にもないところで転ぶのだろう。
よりによって他の母親たちの目の前で、豪快に。
運動神経が悪いから転ぶわけだが、だがしかしだ。
うちの息子が転んでも、誰も声をかけない。無表情である。
気にする価値もない。
あなた達、この場にそぐわないのよ、そう言われているような気がした。
私が責められているようだった。
外遊び、公園に行く回数が少ないから。
家の中でプラレール遊びばかりさせていたから。
私に友達がいないから。
私が楽してきたから。
自分が底辺で受験を知らないから。
情報を集めてこなかったから。
情報…やはり私に友達がいないから。
だから運動が出来ないのか。
すべて母親(私)のせいなのか。
目の前の息子は、私。
まさに公開処刑だった。
針のむしろのような1時間が終わり、どっと疲れが押し寄せる。
そして焦りも。
出来ないことばかりじゃないか!
やらなければならないことが多いこと!
何から始めよう。
子供達が着替え始めた時だった。
息子「ママー!」
教室全体に響く声だった。
息子「帰りトンカツ食べて帰ろう!」
ちょ!
いま言うかあああ〜〜??
私は顔から火が出た。
食べさせてばかりだから、運動できないのよ。
周りの心の中の嘲笑が聴こえたような気がした。