「さて、宿はどうするかなー」と考えならが歩いているときに、「部屋が一部屋空いているんだけど。」
と、声をかけられた家族の家に3ヶ月間、ガスなし、水道なし、電気かろうじて有りだけど家電なし、という
東京生まれ東京育ちの私が、初めてのインドにして超質素な生活をすることになるなんて思ってもいませんでした。
 
 
今ではマクロビオティックに続き、日本でも耳にする機会が増えてきた「アユルヴェーダ」ですが、当時は日本ではおろか、
ケララの観光地でも、マッサージは受けられても、外国人観光客がマッサージを習うような場所がありませんでした。

 
インドで何千年も受け継がれている伝統医学の「アユヴェーダ」。今でこそインドはもちろん日本でも、短期間で初心者から
学べるコースが組まれたスクールや施術を受けられるサロンが多数ありますが、本来、アユルヴェーダを学ぶには、医学や人体
の仕組みはもちろん、サンスクリット語からヨガ、マントラ、植物学、食事療法、精神世界に及ぶ広範囲で、何年も時間をかけて
学びと実践の基に、人体と宇宙に繋がる、その理論を学ぶ必要があります。
私が無計画にバルカラに行った当時は、観光客がマッサージを受けられるアユルヴェーダ施設がいくつかあるだけで、外国人が
気軽に受けられるコースを実施しているようなところは全く見当たりませんでした。
 
「アユルヴェーダを現地で学ぶ!」と意気込んできたものの、現地の大学に通って一から勉強するほどの根気も英語力も無かった
私。(中途半端な知りたがり屋ですから・・) とりあえず、「まずは基本的なマッサージを習おう。」と、心に決め、直感を頼りに、ドクターと若い男の子が運営している小さなクリニックの扉を叩きました。いきなり来て、「マッサージだけ習いたい」、
なんてことを言う、わがままな外国人のお願いをすんなり受け入れてくれ、1ヶ月間そこでマッサージを習うことになりました。
 
祈りから始まり、頭、顔、体の各部分の施術を一日に体の一部分のペースで習い、順調に2週間かからないうちに、基本的な全身
マッサージを覚えた所で、通っていたクリニックが閉まってしまいました。何が起きたのかわからず途方にくれていると、
「どこかのクリニックで、インド人男性の施術師が西洋人女性にマッサージをし、レイプしかけたのが警察に通報されて、
バルカラの観光客向けのアユルヴェーダ施設はしばらく全部営業停止になったんだよ。」と、地元の人から聞かされました。
 
数日後、意を決してバルカラから列車に乗って、トリバンドラムにある私の習っていたクリニックの本部を訪ね、そこにいた
ドクターに「これから私はどうしたらいいの??」と尋ねると、「しばらくはバルカラで営業できないから、トリバンドラムに
習いに来なさい。」との返答。
せっかくバルカラでの滞在先も決まり、バルカラのゆったりとした生活を楽しんでいたところに、
毎日本数の限られた、いつ来ても来なくてもおかしくない列車で片道30分の往復も、トリバンドラムの都市の喧騒にまぎれた生活
も受け入れる事が出来なかった私は、残りの期間の授業料を返金してもらい、その時点でレッスン続行を断念してしまいました。
 
 
 
今思うと、もう少し頑張ったらよかったのに、という軽い後悔もありますが、とりあえずアユルヴェーダの基本的な全身マッサー
ジは習ったし、もとから資格をとってどうこうしようという考えも無かったので、まぁ良い経験できたからいいか!として、
その後はバルカラで地元のマリヤラム家族との生活と、ケララ内の旅行を3ヶ月間楽しみました。

 
その生活の中で、井戸から水を汲み上げられるようになり、時にはアメンボが浮かんでいるその水を飲み、(当時は無ろ過、非加熱
でも飲めました)、トイレや水浴び、料理や洗濯に使い、
隣の空き地から乾燥したココナッツの木の葉をアンマ(マリヤラム語で“お母さん”)と
拾い集
め、その葉を燃やして料理をし、手でご飯を食べ、ココナッツの灰で食器を洗い、窓ガラスのない部屋で 夜の帳が降りる頃に眠り、
鳥の声と朝の息吹と共に目覚める、という自然からのエ
ネルギーを意識しなくとも体感できる毎日を送りました。言葉も通じないし、(現地語
のみ)
電気は途切れ途切れ、プライベート無しの生活に、時にはストレスも感じましたが、観光地故遊ぼうと思えば近くにお酒も飲めて音楽も
聴けるレストランやカフェもあり、ビーチやクリフ
を散歩して、泳いで、毎日生きた湧き水を飲み、ココナッツがふんだんに使われた美味しい
ララの家庭料理料理を毎日食べ、むしろとても恵まれた環境であったと思います。
 
15年の間に、ケララは観光地化が進み、小さな観光地のバルカラにも沢山のホテル、レストラン、アユルベーダ施設、お土産屋が立地並び、
井戸から汲み上げて飲んでいたお水は今では飲めなくなってしまいました。すっかりインドの代名詞の一つにもなるほどポピュラーになった
「アユルヴェーダ」も、観光地ではビジネスのために粗悪なオイルが施術に使われ、名前だけが悪用され、本来の理念が無視されているの
が現状です。幸い、私は正当なアユルヴェーダ医師の友人がケララにいるので、今でもいつでも良質な治療が受けられるのですが、南インド
の観光地でアユルベーダ治療を受けようとしている方々には、くれぐれも注意していただきたいです。必ず適切な指示と判断ができる、信頼
できる医師がいて、良質のオイルを使っている事を確認してください。(オイルの使いまわしや、アユルベーダ製品ではない安いオイルを使用
しているところがとても多いらしいです。)
 
それでも、私にとってのインドは、いつもその場所であり、始まりも、「帰りたい」と思う場所もそこにあります。