「来週の月曜日に初出勤やから、まずはセーター屋のオーナーに報告に行かなあかんな」
オーナーにはOLになりたいことはすでに話してあり、仕事が見つかり次第辞めさせてもらうことになっていました。
会計事務所のJapanese Business Groupにはカナダ人と結婚してカナダに移民された日本人の秘書がおられたのですが、日本企業向けの資料の翻訳で忙しく事務作業のサポートのためにわたしが雇われたのでした。
「秘書って何するんやろ?」
「映画とかやったらカチカチってタイプ打ってるよなぁ~」
「あ!わたしタイプでけへんやん!」
「困ったなぁ。どうするかなぁ~」
セーター屋に向かう道すがら考えました。
その日は確か、木曜日か金曜日でした。
「まずは月曜日までにタイプの練習やな。せや!セーター屋のオフィスに置いてあるタイプライター借りれるか聞いてみよ」
セーター屋に着くとまずは仕事が決まったことを報告をしました。
わたし・・・「ほんでね、実はお願いがあるんですけど、月曜日の夜までタイプライターをお借りしたいんです。わたしタイプが打てないんでこのまま仕事始めたら先方に迷惑かけると思うんで練習したいんです」
オーナー・・・「いいわよ。結構重たいけど、持って帰れる?」
わたし・・・「大丈夫です。両手で抱えて帰ります」
*英語です。
こうして両手に大きなタイプライターを抱えて、帰りに本屋に寄ってタイプライターの本を買って帰りました。
その頃住んでいたイングリッシュ・ベイという美しい湾の目の前に建つ高層アパートまではセーター屋から歩いて約30分くらいだったと思います。
*住んでいた高層アパートの前のイングリッシュ・ベイ
この頃は身長158cm 体重は38-41キロあたりを行ったり来たりしている状態で、良く「めっちゃ細いなぁ」って言われていました。
そんな華奢なアジア人の女の子が大きなタイプライターを両手に抱えてバンクーバーのダウンタウンで一番賑やかなロブソンストリートを歩いているといろんな人が声をかけてくれました。
「どこまで行くの持ったげよか?」とか「大丈夫?」とか。*英語です。
バンクーバーの人たちは本当にフレンドリーで親切でした。
家に着くと早速タイプの練習を始めました。
買ってきた本の通りに指を置いて、声を出しながら一つずつ指使いを覚えていきました。
a エー、s エス、d ディー、f エフ、g ジー
l エル、k ケイ、j ジェイ、h エイチ
・・・という具合にです。
何回も何回も指を一通り覚えるまで同じ動作を繰り返しました。
そして、なんと!土曜日の朝、起きてタイプを触るとブラインドタッチができるようになっていました!
「わたし、めっちゃやるやん!」
その日はカナダ人の友人たちと遊ぶ約束をしていたので、彼らにタイプの練習を手伝ってもらいました。
わたし・・・「なんかしゃべって。それ聞いて打つから」
カナダ人の友人A・・・「アホの〇〇がXXX(*不適切な発言のため自粛)した」
カナダ人の友人B・・・「F◯◯king(*同じく自粛)がビールを飲みながらXXした」
*英語です。
職場では絶対に使うことのない表現でしたが、そのおかげで笑いながら楽しくタイプの練習ができ、タイプを打つスピードもどんどん早くなっていきました。
そして日曜日の夕方にはブラインドタッチも打つスピードも完璧に仕上がりました。
準備は整いました。
いよいよカナダでOL生活のスタートです。
・・・つづく。