3部作の最終巻、読了しました。
最後まで書き手のテンションが下がることもなく、
いい作品を読めたと思います。
ハンガリー生まれのフリードマン・エンドレ・エルネーが
自分の作品を売るため、亡くなった恋人ゲルダとともに考えだした
「成功したアメリカ人」という設定の「ロバート・キャパ」という人物。
そのイメージどおりの「キャパ」として存在していくために、
キャパという人物を、演じながら作り上げていったという感があります。
虚像というよりも、彼の理想が実像になっていったという感じでしょうか。
最終巻は、読み手の私がまもなく訪れるキャパの死を考えながら
読んでいたということばかりでなく、キャパであることに疲弊した
キャパの苦悩が描かれており、先の2巻の苦労もあれど希望や
意欲に満ち溢れた印象とは大きく異なりました。
ベトナムで亡くなったのが40歳。
この巻には、その少し前の時期からが描かれていますが
社会的にも名声を得、華やかで忙しく責任もある充実した生活を
送っているように見えながらも、借金や仕事の行きづまりなど
内情は苦しい時期だったようです。
なかなかその内面を人に語ることはなかったそうですが
残された手紙などから、心中を垣間見ることができます。
多くの女性と浮名を流し、彼女たちから結婚を望まれながらも
最後まで、彼が結婚という形式に踏み切れなかったことは
キャパに帰る国がなかった、ということも影響を与えているのかも。
自分のアイデンティティーをどこにおくか、そしてまた
そのアイデンティティーもたやすく失いうるものだということが、
キャパの意識下に常にあったように思えました。
誰にでも親切で愛想良く、情熱的に活動しながらも
何ものにも縛られないその姿は「ティファニーで朝食を」のホリーを、
私に思いださせました。あれは小説だけどね。
描かれていたキャパそのものも、そして彼をとりまく人々も
いずれも大変に魅力的だったし、原作者の作品に取り組む姿勢もまた
とても真摯ですばらしかった。
でも特に何度も書いてきたように、私にとって今回の一番は、
翻訳者・沢木耕太郎さんによる各巻末の「原注・訳注・雑記」でした。
こんなふうに想いの篭った良い本を読めて幸せだとつくづく思います。
時をはずさず、もう一度「ちょっとピンぼけ」を読んでみようと思う。
キャパ その死 (文春文庫)/リチャード・ウィーラン

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発行時期から言って、私の持っている写真集の日本語版らしい。
一見の価値ある1冊だと思います。
フォトグラフス―ロバート・キャパ写真集/ロバート キャパ

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