が、この20年ほどは読んでいなかったかもしれない。
第2次世界大戦時、ヨーロッパ戦線に向かうことになる1943年のある朝から
1945年、ヨーロッパ戦線終焉の朝に至るまでのキャパ自身による記録です。
「ゲバラ日記」をはじめとして他にもそういう作品はあるけれども、
これもまた最前線に死とともにありながら、特別に大騒ぎをするわけでもなく
淡々と日常・・・戦争という日常だけど・・・を綴ってあります。
恋人との出会いと別れなどについても同様に、ものすごく客観的で
冷静な文章なので、やはり写真家というジャーナリストなのだと思いました。
時々、戦争を写す自分に疑問を感じたり、自責の念にかられたりもしつつ
やはりそれを言い訳することもなかった。
久しぶりに読んで、昔とは感じ方や見方が我ながらずいぶん変わったなと思います。
フランスのレジスタンス側の視線からこの対戦を描いた作品を読んだこともあって、
やはり戦争とは、どちらにとっても「自分たちが正義」なのだと思いました。
キャパたちもドイツ軍を追放したり捕虜にしたりしながら、彼らの持っていた
食糧を当然のように略奪していきます。
イタリアで、昨日まではドイツ軍に守られていた女性たちが、その土地が
米軍により解放されたとたんに、丸刈りにされ町を追放される描写などもありました。
勝ったから正しいわけでもないし、負けたから間違っているわけでもないんだ、と。
ハンガリー生まれのユダヤ人として、帰る国もなかったキャパですが
そういうことに関してのセンチメンタリズムも感じさせないし、
ヒロイズムに酔いしれているわけでもないけれども、
客観的に書かれたこの作品の中に現れてこない内面のことすべては、
その時渦中にいた人同士だけがわかりあえるものなのだろうと想像しています。
単純な評価など私には致しがたいものだと思います。
それにしても全く脚色されていない内容だとしたら、キャパというのは
いつも後がない綱渡りのような状況に何度も陥りながらも毎回、
後になって見ればラッキーといえる選択を行っていたのですね。
生きる、良い写真を撮る、そのことだけを常に考えていたから
チャンスを選び取る勘にも運にも、そして人にも恵まれたのかもしれません。
あとがきは、キャパとある時期をフランスでともに過ごした友人であり、
この作品の翻訳者でもある川添浩史さんと井上清一さんによる、
キャパへの追悼文で、友情・愛情が切々とあふれる良い文章でした。
当時の事実関係や人間関係などにわかりづらい部分が私には多々ありますが、
読み応えのある一冊です。
ちょっとピンぼけ (文春文庫)/ロバート・キャパ

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読み終えたあと、昔アルゼンチンで購入したキャパの写真集「Photographs」を
久しぶりに見た。
戦争を写したものが主だったため、あまり丁寧に見たことは実は殆どなく
こんな風に文庫と対照させてみたのは初めてでした。
が、この写真集はキャパのデビュー作であるトロツキーの演説シーンを
盗撮したものから、有名な「崩れ落ちる兵士」をはじめ、
やがて命を落とすことになるベトナム戦争までの間に、
キャパが世界に発信した歴史的瞬間のほぼすべてを網羅したものであることに
愚かにもはじめて気が付きました。
「ちょっとピンぼけ」のあのシーン、このシーンで語られていたものが
ここに作品として残されていたのかと、じ~んとしてしまいました。
後半には友人だったヘミングウェイの笑顔、作品に向かうアンリ・マティス
そして海辺で過ごすピカソ一家の日常などがいくつか収録されていて、
それらは前半の写真たちとはあまりにも対照的であるためにより印象的ですし、
見る人の心をとても和ませてくれます。
Photographs/Robert Capa

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戦中、戦後の各国の子供たちの泣き顔、笑顔、怒りの顔、無表情の顔、
さまざまな瞬間を捉えたもの。日本の子供たちを撮影したものも。
Children of War, Children of Peace/Robert Capa

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