「晩年の子供」 | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.

タイトルが面白いですよね。

犬にかまれた子供が、自分は狂犬病で死ぬんだ・・と思いこみ、自分が死ぬまでの
残された日々を、晩年を生きる人の目で生活していく・・・という、これだけ書くと
笑っちゃうようなお話が表題作。
でもその必死さと、それなりにこの子供が達する諦観・・・どうしてこの人は
こんなにうまいんだろう?

ハードカバーの表紙は美人版画家・山本容子さんの手によるもので
それもまた目を引きました。
8編の短編からなっている1冊です。

自意識が過剰なちょっと大人びた子どもの目を通して見てきたものは
同じような時期を通り過ぎた大人をなんとも言えずに切なくさせてくれます。

いずれ劣らぬ名品ですが「花火」「海の方の子」、中でも「ひよこの目」は秀逸。

転校生の少年の目が、何かに似ている・・・それが昔飼っていて死なせてしまった
「ひよこの目」と同じだと気付いた時に待っていたものは・・・。

山田詠美の黒人男性との恋愛を描いた一連のものはちょっと苦手で
ほとんど読んだことがないけれど、この手の子供の目を通したものは鋭すぎる。

「僕は勉強ができない」では「馬鹿」と言う言葉が、「晩年の子供」では
学校で「盗み」をした描写がいかん、ということで高校の教科書掲載候補に
なったものの没となったそうです。
一読すれば、それらの言葉や行動を推奨しているものではないことも、
何を意味しているのかも、誰にだってわかるはずなのに、子供の読解力を
侮っているとしか思えない。
古典的な小説だってもちろん大事だけれど、読んで面白い・・・と思えるものは
あの年頃の、特に本に興味のない子にとってはあまりにも少ない。
こういう形で、危険(ではないのに)なものを排除するってのはどうなの?
何もかもが「無菌」でいいわけないとは、よく言われることだし、この作品は
道徳の教科書に使ったって、問題ないと思うな。
無難な物だけ与える一方で「個性を生かす教育」なんて何か相反しているような気がする。

遅い人でも2時間、早い人なら1時間かからずに読み終わることのできる1作です。
だけど中身は濃くてすごく良い・・・とはいえ私にはまた、かなり辛いものでもある。
こういう作品はホントに私にいろいろな古いことを呼び起こさせてくれるのです。
昨晩は、何かをしようと言う気力がなくなって早寝してしまいました。


晩年の子供 (講談社文庫)/山田 詠美

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