「冷静と情熱のあいだj | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.

昨日、一気に読みました。
今回読んだのは、青と赤に分冊されているものではなく、連載当時のとおり
赤と青のお話が交互に出てくる愛蔵版。
関係ないけど、この愛蔵版の装丁はすごく素敵ですよ~♪

ROSSO(赤)は江国香織が女性「あおい」の視点から、BLU(青)は辻仁成が男性
「順正」の視点から、同時進行する形で描かれています。
これ自体はすごく面白い試みだと思います。
24章あるので多分1年かけて雑誌に掲載されていたのでしょう。
(あるいは1章ずつ2年?)

ストーリーは多くの方がご周知のとおり、10年前にある事情で別れてしまった二人が
それでもお互いを忘れられず、当時交わした10年後の約束を胸に其々の人生を
送りながら再会を果たす・・・というもの。

映画化されてからこの作品の存在を知った私ですが、あらすじ聞いただけで実は
感情移入してしまったので、読んでみたい気持ちは長いことありました。
なので、このお話自体には全く文句ありません。

忘れられない人がいるとか、その人との約束とか、それを果たすこと、
あるいは偶然に再会すること・・・そういうことは、他の小説や映画でもよくあることだし、
現実にだって意外と・・・というよりも頻繁にあることだと思ってます。
だから、それほど「絵空事」とは私には思えないですね~。事実は小説より奇なり、ってね。

とはいえなかなか作家の好みの問題もあり、長いこと手つかずにいて、ようやく
読んだのは数年前、それも山場と思われるところをそれぞれ赤と青から抜粋して
読んだだけでした。で、まあその読み方でも十分だったかな、と読後の今改めて思ってます。

読み始めて半分すぎるまでは、なんとも展開が遅くてちょっといらいらしてしまいました。
どうでもいいことが多すぎる気がしたかな。
舞台がイタリアである理由とか、絵画の修復士であるとか、なんだか舞台設定だけがとてつもなく
立派なんだけど、中身はありきたりのメロドラマ・・・みたいな印象。


江国氏のROSSO)

まずあおいの魅力がよくわからない。
本人も作品の中で「私のどこがいいんだろう?」と自問自答しているけど私も同感。
無愛想で、人を寄せ付けない女性なんだけど結構人には恵まれている。
これは彼女がミステリアスなオリエンタルビューティーだからとしか思えないなあ。

読み進めると、彼女の父親は30年に及ぶ海外生活を送っており、それが性にあっているそうで
今もイギリスに夫婦で在住している。
一方母親はイタリアに15年いたのに、イタリア語を覚えようともしなかったとのこと。
ちょっと違和感・・・15年いる間一言も・・・って何?
だとしたら夫婦仲は良くないと思うなあ・・・。彼女もちっとも両親に連絡しようともしない。

帰国子女であることとか家庭内の事情が、彼女の性質に影響を及ぼしているんだろうけど
読者みずから考えないとあおい自身が見えてこない気がしました。
人に自分を語らないあおいだとしたって、小説中でもっと彼女の内面描いてもいいんじゃないかな。
2度の別れの時も、大事なことは何も語らないままでしたよね・・・そういう人も
いるんだろうけど、長く後悔してきたことから何も学習してないのかな、と。
江国さん自身は嫌いな作家ではないけど、これは読んでいて正直疲れました。


辻氏のBLU)

順正は冷静(なんだろうか?)なあおいと違って直情的な人。
情熱とはちょっと違う気がしたけどまあ、素直と言えば素直で正直な人だと思う。
人間性自体は、悪くないと思います。こういう人、何人も見たことある。
ただいかんせん、出てくるエピソードの多くがどうも私的にはNGでしたね。

最初に書いた、舞台がイタリアであることや、絵画修復士と言う仕事は、過去を捨てきれない
順正そのものを表現するために必要だったのかな、と最後には思えましたのでこれはよしとして
世話になった工房の先生との関係とか、彼が修復中だった名画が裂かれてしまった事件の
真犯人とその犯行の理由とか・・・安っぽいミステリーみたいで不要だと思うなあ。

肉親との関係についても、まあ何があってもおかしくない世の中とはいえ、
高潔な人格者(と思われる)で資産家で画家としての力もある祖父の血をひく、
その順正の父親の下品な吝嗇ぶりはあまりにも極端な気がします。
ものすごく気分が悪くなったので、ある意味試みとしては成功と言えるかもしれないけど。

絵画の修復方法や、イタリアにある名画の解説など・・・私自身は好きなお話なので
悪くはなかったけど、あれだけとうとうと挿入する必要があるのかなあ。

これらの派手な装飾的なエピソードを取り払ってしまった後に残るものってあまり魅力ないなあ。
考えさせる部分があっただけ、疲れるとはいえ江国作品の方が勝っているかなと思います。
最終章あたりは悪くなかったのですが・・・。
私の持っていたイメージ通り(詳説抜きですが)の人かも・・というのが正直な印象。
お好きな方には申し訳ないけど・・・・これは好みの問題なので、ご容赦ください。

全体としてはまあまあって感じでしょうか。
半分すぎあたりから、ようやく読む気が起きてきてスピードも上がりました。
図らずも二人の再会シーンには涙しちゃったくらいだし、不要なエピソードを
整理すればもう少し読みやすいかも、と思いました。

もしこれから読む方がいたら、この愛蔵版か、赤を先に読むことをお勧めします。
セットでないと完成しない作品であるのは間違いないですし、どんでん返しとまでは
行かないけれど、青の最後で順正がようやく未来を向き始めるので。
さて、これでようやく幸せになれるのでしょうか。

でもこのふたりは、それぞれが傷つけてしまった芽美やマーヴのことについて
また再び悩みの日々を送りそうな気がしますね~。
すべてが丸く収まるってのは、なかなか難しいことなのですね。

で、冷静と情熱のあいだ・・・にあるものは何でしょう。
お互いにないもの求めてる・・・やっぱり愛?


そんな辻様の作詞したものを、松藤さんが歌ってま~す♪





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