ハンス・グラーフもまた録音に恵まれていない指揮者であろう。
ザルツブルグ・モーツアルテゥム管弦楽団とモーツアルトの交響曲が廉価版で出ている程度だと思う。オーストラリアのメルボルンのオーケストラで指揮をしているという程度にしか理解がない。

ヒューストン交響楽団で音楽監督をしていると知ったのはつい最近のことだ。
きっとマジメに演奏しているんだろうと思っていたが、このCDもその期待にたがわず、正統的なものとなっている。

ライブという不利な条件で録音を行ったこの演奏、淡々と歩みを進める演奏には、ライブ感を感じさせないという点で職人芸だとさえ思えてくる。ただスタジオ録音で聞かれる緩慢とした響きはなく、全体として引き締まっている響きになっているのは特筆すべき点と言えよう。こうした点でグラーフという指揮者の実力がいかんなく発揮されていると思う。

先のアーロノヴィッチの演奏と異なる点は、歌唱陣が浪々と歌い上げている点だと思う。聞き手としては、指揮者の求心力としてではなく、全員が主役となって作り上げているように感じた。

おもしろいと思えるのは、オルフ独特の呪物的な、病的な暗いトーンを全面に出して進めていることだ。それは特に合唱に感じることであり、合唱団の芸の広さを感じるのである。

特徴のある演奏と主張ができないが、極めて安心して聞ける演奏であることには間違いない。(80点)

指揮:ハンス・グラーフ
ソプラノ:クリスティーネ・ブランデス
テノール:ノエル・エスピリトゥ・ヴァレスコ
バリトン:ステファン・パウエル
ヒューストン交響楽団・合唱団
フォート・ベンズ・少年合唱団
(2000年3月18日ジョーンズホール、ヒューストン、ライブ)
CD番号なし、自主制作版(KUHF、ヒューストン交響楽団)