聞くたびにハンス・フォンクは素晴らしい指揮者だったということを痛感させられる。音の一つ一つに熱が帯びており、強い推進力を持ち、聞き手に訴えかける。

オランダのオーケストラのサウンドに見られる特徴は、個人プレーがかなり目立つことだと思う。それぞれの見せ場で活躍をする。それ故に全体として耳あたりの強い、刺激の多いサウンドになりがちだ。

この演奏でも各楽器のソロの部分で自我を強烈に主張をしている。ただ、掛け合いの部分では決してお互いを殺しあうわけではなく譲り合っている。

作品そのものが幕切れに向かって盛り上がっていくとともに、フォンクとオーケストラのただでさえ熱気を帯びたサウンドが、最後には燃え盛る炎が矢のようにコンサートホールに降り注ぐ。

オーケストラ全体としてのサウンドに特徴はないものの、全身全霊を傾けた演奏に聴き手は我を忘れ、固唾を呑んで音が鳴り止む瞬間まで引き込まれる。

ショスタコーヴィチ:交響曲第10番ホ短調op.93
指揮:ハンス・フォンク
オランダ放送交響楽団

(2001年8月26日 オランダ・アムステルダム・コンセルトヘボウ ライブ録音)