高尾太夫 1 駒形あたり時鳥 | 芳村直樹のブログ

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高尾太夫 (たかおだゆう) を訪ねて

第1話    駒形あたり時鳥 (ほととぎす)


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▲駒形橋


「忘れねばこそ思い出さず候」

あなたのことを
片時も忘れたことがないのだから
思い出す……なんて経験はないわ

「君はいま駒形あたり時鳥」

吉原の花魁 (おいらん) 
高尾太夫がしたためた恋文の一節

トップクラスの遊女ともなると
教養にあふれていて
俳句を詠むぐらいのことは当たり前
というのだから恐れいる


吉原は徳川幕府公認の江戸唯一の遊郭
初めは日本橋人形町にあったが (元吉原)
明暦の大火 (1657) 後
浅草寺裏手の日本堤に移った (新吉原) 

その地名は今も残り
知る人ぞ知る特殊な町が存在している

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▲吉原大門交差点


三浦屋の高尾太夫というのは
吉原で最も有名な花魁の名跡で
その名にふさわしい遊女が現れると
代々襲名したという

高尾が何代目まで続いたかは諸説あり
この恋文を書いたのは
2代目高尾と言われてはいるが
これまた諸説あるという

何でもかんでも諸説諸説で
どうにも収まりつかないことばかりだ


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▲資料画像 花魁 (Wikipediaから借用)


時は 4代将軍・徳川家綱の治世

この話の主人公の
高尾 (おそらく2代目) は
当時の年号・万治 (まんじ) から
「万治高尾」とも呼ばれ
また 仙台の殿さまに
身請けされることになり
「仙台高尾」とも呼ばれている

その身請け額は 7800両
今のお金にすると5~6億円だそうだ
高尾太夫の体重分の
金を積んだということらしい

すんなり仙台のお姫さまになったのなら
江戸時代のシンデレラストーリーで
万事めでたしめでたしなのだが
そう簡単に話はまとまらないのである


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▲駒形橋西詰


隅田川は
古くは宮古川(みやこがわ)
江戸時代には浅草川(あさくさがわ)
という名前だった
ここ駒形橋あたりから河口に向けては
大川(おおかわ) とも呼ばれていた

と言っても
この駒形橋が架けられたのは
関東大震災後の昭和2年のこと

高尾の時代には
駒形の渡し(竹町の渡しとも)という
渡し舟が両岸を繋いでいた

駒形の名前は
西岸にある駒形堂に由来している


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▲駒形堂

飛鳥時代
推古天皇36年(628)3月18日
檜前浜成、竹成という兄弟が
この岸で漁をしていて観音像を発見した

それが
東京で最古の寺院とされる
浅草寺の本尊・聖観世音菩薩像である


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観音示現の聖地として
この駒形堂が建てられたのは
天慶5年(942)のことと伝わる
慈覚大師(円仁)作の
馬頭観世音菩薩像が祀られている


芥川龍之介の随筆『本所両国』には
こんな一文があるらしい

僕の小学時代には大抵「コマカタ」と呼んでゐたものである。が、それもとうの昔に「コマガタ」と発音するやうになつてしまつた。「君は今駒形あたりほとゝぎす」を作った遊女も、或は「コマカタ」と澄んだ音を「ほとゝぎす」の声に響かせたかつたかもしれない。支那人は「文章は千古の事」と言った。が、文章もおのづからを失つてしまふことは大川の水に変らないのである。


芥川が駒形を語るにあたり
わざわざ引用するほどに
高尾太夫という花魁は
魅力あふれる女性なのかもしれない


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▲駒形橋から隅田川下流の眺め


高尾太夫の恋文に話を戻そう

君はいま駒形あたり時鳥

ほととぎすが鳴いております
一夜をともにしたあなたは今
駒形の渡しあたりにいらして
舟を待っているのでしょうか

愛しい人を想い続ける
高尾の純粋な心情あふれる
美しい句ではあるのだけれど
この恋文が
出さずじまいのラブレターだから
しまつが悪い

仙台の殿さまに宛てたものと思いきや
実は別の男に書かれたものだと
もっぱらの噂なのである

諸説紛々というよりは
後の世の人間が
いろいろ想像をめぐらせて
話を複雑に展開させたものだから
高尾の人生は波瀾万丈なものとなる

はたして何が真実なのか
今となっては誰にもわからないのだ

高尾を身請けした仙台の殿さまの話
実は高尾に若い情夫がいたという話

ゆっくり書いていこうと思う

筆が鈍ったら
また駒形どぜうに行こうかな

僕の場合は 色気より食い気

君はいま駒形あたりでどぜう鍋


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▲『駒形どぜう』どぜう鍋