ニューヨークに住んでいたとき

 

Moby-Dick Marathon(モビー・ディック・マラソン)

 

に参加した

 

 

別に走ったわけではない

 

ただ、長~い時間 言葉たちを聞き続けたのだ

 

十九世紀アメリカ作家ハーマン・メルヴィルという人がつづった小説

 

Herman Melville, Moby-Dick: A Whale(1851)

 

テクストにある言葉を一言も省略せず

ひたすら読み続けるのだ

 

テクストはことばことばの洪水だ

625頁のこの厚さ

 

朝から晩まで読んで読んでまる二日かかるというもの好きなイベントだ

 

***

 

 

2012年秋

会場はロウアーマンハッタンのこの書店

 

応募すればだれでも読み手になれる

 

 

一人一章、長い章は何人かで分担

 

 

エイハブ船長の独白の担当者は捕鯨船の甲板から語っている

 

 

向かいの甲板には語り手の水夫イシュマエルが登場

 

 

***

 

この小説を紹介するとき

白い鯨に片足をもぎ取られたエイハブ船長が

その鯨に復讐するため

世界中の海を追う話

 

と言っているが、実はそれはこの小説の本の一部

 

メルヴィルが”ごった煮”と言っているテクストには

哲学的瞑想

捕鯨の歴史

捕鯨船の中の仕事

生物としての鯨の分類

乗組員たちの紹介

エイハブをめぐる船内の様子が劇として書かれたもの

 

などなど、あらゆるジャンルの文章がつめこまれている

 

三日間の最後の闘争が書かれた最終章と

ピーコッド号が難破し

エイハブが波間に消えたあと

一人生き延びたイシュマエルのことを伝えるエピローグ

 

ひたすら文字が声に変換されるのを聞き続けるマラソン

 

終了後はその場にいた人たちの中に不思議な一体感があった

 

晩年のメルヴィルが税関につとめながらひっそりと生きたロウアーマンハッタンで彼の書いた言葉たちがよみがえっていた

 

 

 

ふせんと書込みの残る私のテクスト