年があけ、後期の授業二回を残すのみとなる一月の二週目。

 

大学教員に気が重~い、いや~な仕事がめぐってくる。

 

大学入学共通テスト(旧センター試験)

が土曜日、日曜日の二日間をかけて行われるのである。

 

受験生にとっては決戦の日。たしかに人生がかかっているかもしれない。しかし、それは人生に一回か多くて二回しかないことだ。

 

大学教員には毎年のお仕事だ。

 

全国一斉に行われる共通テスト。今年は864校が参加したとのこと。一校で20人?いや50人の教員が割り当てられているとする。2万人から4万人くらいの ”大学の先生” がこの二日間駆り出されていることになる。

 

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一日目の一時間目の科目は地理歴史・公民。受験生は9時半開始の1時間くらい前から会場に現れる。

 

監督業務をする教員といったら、8時前には集合。

入試委員長の事前説明が長い!!

ぶ厚いマニュアルは年々さらに厚くなっていく。

前年に問題があった箇所への対応が書き加えられるからだ。

 

遅刻者の扱い

気分が悪くなった受験者の扱い

もともと心身に病を抱えている受験者への特別受験室受験の手配

緊急時の対応

問題配布、解答用紙回収についての細かい手順

他の受験生に迷惑をかけている受験生への対応 

不正を見つけた時の処置

などなど

 

重たい問題冊子と回答用紙を抱えて30分以上前に会場へ入る

 

受験生のよそよそしい空気をなんとかなごませたいが、

そもそも彼らはこの大学を志願しているわけではない

 

共通テストに志願した段階で受験会場を指定され、たまたまこの大学へやってきた。いわばお客様だ。

 

何かそそうがあれば彼らは容赦なく本部へクレームをつけるかもしれない。

この会場(この大学)はこんなひどくて受験環境が最悪でした

あるいは、SNSに書き込むかもしれない。

この会場(この大学)の試験監督はこんなひどくて試験時間にうまく回答できませんでした

 

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マニュアル冊子はセリフが書かれたト書きである。

 

X時Y分 試験開始についての注意の文言を読み上げよ。

X時Y分 試験終了をつげ、以下の文言を読み上げよ。

 

全国の大学の何千という教室で同じ文言が唱えられていく。

お経のように倍音がひびいくのではあるまいか?

 

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緊張の時間は夕方まで続く。

 

初日の最終科目は外国語

 

リスニングのために配布されるレコーダーの故障がないことを祈りつつ

 

6時10分に終了

 

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なにごともなく実施してあたりまえ

 

何か事件でもあればまたたく間に全国ネットで放送される

 

大学関係者が最も恐れる事態である。

 

かつて私が勤務していた大学が大きく報道されたことがあった。

 

午後6時に電源が一度落ちてしまい、20秒ほど電灯が消えたのだ

 

省エネ設定を解除し忘れたというミスだった

 

その日の夜のニュースは大学名とともにそのことを大きく報道し、

入試委員長だった同僚は

心の傷を負ってしまった。

忘れられない出来事だ。

 

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そもそもこれは”大学の先生”の仕事なのだろうか?

 

研究者とはこうした仕事に向いていない人種が多いはず

 

 

2024年1月13日の朝

 

起床してゆっくりシナモンティーを飲む。

テレビで共通テストのことをやっている。

 

退職して本当によかったと思った朝だった。