25年間所属していたのは東京吉祥寺にある私立大学の文学部。

 

 

教授会というものに月に一、二回出席しなくてはならない。水曜日の午後はそれにとられることになる。

 

今はズーム教授会になっているとのことであるが、私が勤務した二十数年間は、十二階建ての研究棟二階にある会議室で、四十人あまりの文学部教員がコの字型の机に座って行っていた。

 

毎回、分厚い教授会議資料が配布される。

 

前回教授会議事録確認、学生の移動(退学、休学など)、学生の単位認定や卒業・進級審査、各種委員会報告、次年度の授業計画そして、幾多の議題が続く。

 

人事の議題が入ってくると、さらに時間は伸びる。専任講師から准教授へ、准教授から教授への昇進については、各学科から提出された議案について授業担当資格の確認、業績の紹介、推薦演説が続く。投票が行われるのは次の教授会である。

 

その間、審査対象本人は退席している。

 

 

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教授会の最中の教員たちの態度。

 

自分が委員をしている委員会報告の順番がくれば発言をするが、それ以外は議事進行に耳を傾けながら内職をしたり、ときには居眠りをしたり・・・ 

 

授業中の学生と同じである。

 

議事進行は学部長が行うのだが、歴代の学部長を観察しているとおもしろい。しゃべり方が早い学部長のときは会議時間が短くてすむ。一方、え~、う~が多い学部長のときは会議時間も長めである。

 

 

最近の大学行政は、よく言えば効率化され、悪く言えば上の意向により統制化されてきたので、教授会議事も、決まっていることを追認させられるという形で進むことが多くなった。学部長は、学長さらに理事会の意向をすでに聞いているので議事進行もその流れになる。

 

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ある年の教授会で一つの案件が通った。入試についての新しい取り組みだ。

 

教員たちには新たな負担もかかってくることなので、反対の空気もあった。

 

学部長が「今年だけ試験的にやらせてほしい」というので投票はせず、承認された。

 

翌年、教授会に行くと資料の中にその議題が入っている。しかも、本年度の「実施要領」という形である。

 

議事がその件に進み学部長が「今年のこの件の実施の方法ですが~」と切り出したときだった。

 

私は「ハイ」と手を挙げた。

 

「昨年、この件については一年だけやってみるという形で決まったと思います。

まず、やってみた結果の評価をすべきではないでしょうか?

実施についての話しはその後だと思います。」

 

教授会全体がしら~っとする。

 

私の発言は, いわゆる空気読んでない発言だったからだ。

 

本年度実施ーー多分これからも毎年実施ーーは、昨年議案が出た時点で決定事項だったのだ。

 

そんなことは分かっていた。

 

昨年の学部長の言葉が政治的手段でよく使われる ”かどわかし” であったことも。