猛暑続きの中、今日はほんの少し過ごしやすいかなと思ってほっとする。六本木の国際文化会館へ行かなくてはならないからだ。
6時半開始のそのパーティは, 研究者仲間の一人T氏の退職を祝う会である。
T氏が慶応義塾大学を退職したのは3年前だったのだが、コロナの影響でこうしたパーティを開くことができず今回の開催となった。
会場に着くとすでに大勢の参加者がグラス片手に談笑している。コロナの3年間、対面で会うことが少なかったこともあり、最初から近況報告で話が盛り上がっている。
6時半開会。T氏の略歴を伝えるビデオクリップ。その後、慶応義塾塾長挨拶、早川書房社長挨拶、そして元アメリカ文学会会長の乾杯の挨拶と続く。
ここで食事タイムに入り、参加者は会場の両端にならぶお料理をとり、皿とグラスを持って各々の知合いとさらに会話に花が咲く。
私もここで一気に食べ物を味わいたいところなのだが、ぐっと我慢する。スピーチをする時間がせまっているからだ。
確かにT氏とは長い付き合いだ。とは言え、すでに退職している身である。スピーチの依頼がきたときは、困ったなと思った。
出会ったのはお互い大学院生のころ。学会発表をした私のところに近づいてきて「XX大学大学院修士課程1年YYZZ」という名刺を差しだした。あれから40年あまり。研究者として大学教員として常に情報を交換しあいながら、何冊かの本も共同で編集出版してきた。
仕方がない。こんなにも長くお付き合いいただいたのだ。私の研究者人生の最後の税金だと思ってスピーチを引き受けた。
T氏との出会い、学会新人賞を受賞し、その後あっという間に注目される存在になっていった経緯を見ていたこと。コーネル大学留学中のエピソード。そして、彼の仕事がいかに我々の業界において大きな意味をもっているのかなどなどを話す。
とはいえ政治家の資金集めパーティではないのだから、ひたすらT氏をほめたたえているだけでは能がない。
”究極の多面体”であるT氏の別の面を紹介するのも、参加者の中で一番長く彼のキャリアを知っている者の任務であろう。
アメリカ文学の古典作家の研究者である一方、T氏はSF評論家としてSF界では帝王的存在であったこと。50年近くも同級生とロックバンドの活動をしていてプロ顔負けのキーボード奏者であること。などなど。
あとは留学時代のT氏をニューヨーク州イサカの町にお訪ねして楽しく過ごしたエピソードを付け加えた。
慶応義塾大学を退職したのち、現在は慶應ニューヨーク学院院長として東京とアメリカの二拠点生活をしている。奥様のMさんともども、これまで40年以上お付き合いいただいて本当に私は幸運であった。これからも研究者仲間として、友人として楽しくやっていきましょうという言葉でスピーチを締めくくった。
最後は自分を支えてくれた人々への感謝をこめたT氏本人の挨拶で2時間半にわたるパーティはお開きに。
話し足りない人々は六本木の二次会会場へ流れていったが、年寄りはここまでで十分と思い渋谷行のバスで帰宅した。