エキセントリックな人々 | 日本語あれこれ研究室

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日常生活の日本語やメディアなどで接する日本語に関して、感じることを気ままに書いていきます

<1>

80年代、スタジオぴえろで仕事していた頃のこと。制作くんとかおれとか数人で、その日スタジオに届いた1通の手紙を読みながら話題にしていた。手紙の中身は長文だったが、大意は次のようなもの。

「この前テレビで放送された『銀河鉄道999』第×話の中でメーテルが言った『×××』というセリフは僕が考えたもので、勝手に使われました」云々〈あとはそれに対する文句が繰り返し書かれている〉。

 

 おれたちは「どうして東映動画じゃなくてぴえろに送ってくるんだ?」「これ、どういうやつなんだろう」などとワイワイ話し、軽いノリで「電話してみようぜ」ということになった。住所や電話番号も書いてあったのだ。

 制作Sくんが電話して、ぴえろの者ですがと名乗った。少し通話したあとSくんは、「いえ、そういうわけではありません。すみませんでした」とか急に恐縮して通話を終えた。聞くと、若い女性が出て暗い声で、「兄がまた何かしたんでしょうか?」と言ったそうだ。

 その妹に悪いことをしてしまったと、おれたちは落ち込んでしまった。

 

<2>

 90年代、スタジオジブリで仕事していた最中の出来事。ある日の昼頃、スタジオ入口の受付で事務の人が若い女性と何かもめている。「もう帰ってください」とか言っている。おれとしても気になるわけだ。

 数時間経って通りかかるとまだやっているので聞くと、事務の人いわく、その女性は高畑監督と話したいことがあるので直接会わせてほしいと要求しているのだという。延々もめているので、そろそろスタジオ中のスタッフもみんな気になっている。通りすがりに観察したりウワサし合ったり。

 

 暗くなってきた頃に結局、高畑さんが直接会って話を聞くということになった。ジブリは中二階にガラス張りの打ち合わせ室があり、2階の廊下から見下ろせるようになっている。当然人だかり。そんな中で、高畑さんと女性との会談はずいぶん長く続いた。

 立ち会っていたスタッフからあとで聞いたところによると、女性はこんなふうに話し出したそうだ。「『おもひでぽろぽろ』の主人公は名前と年齢が私と同じで、つまりあの映画は私を描いたものです」

だから私のことを高畑監督に聞いて欲しくて来ました、とのことで、さまざまな話をしたのだそうだ。高畑さんはほとんど気圧されて呆然としていたらしい。

 あの理論家の高畑勲を沈黙させた女。……ということか。

 

<3>

 00年代、当時所属していた亜細亜堂に、おれ宛てのハガキが届いた。鉛筆の細かい字で、ハガキ面いっぱいに長文が書いてある。内容は、概ね次のようなもの。

「来年×月公開の『忍たま乱太郎』新作劇場映画の監督に望月さんが決まったそうでおめでとうございます。サブタイトルは「××城の陰謀」だそうですね」

 などなど書いてあり、その映画への期待が述べられている。このあと、同じ人物からのハガキは1~2年間に4~5通ほど来た。いつの間にか紛失してしまったので、記憶でしか書けないことをお断りしておく。

 

 ハガキの続報はいつも必ずこの乱太郎劇場版についてで、「作監が後藤真砂子さんに決まったそうですね」とか「いよいよ公開が近づいてきましたね」とか、どうやらハガキを読む限り「××城の陰謀」は着々と制作が進んでいるらしい。

そうこうするうちに、この人の言う公開日が過ぎてしまったのである。映画はどうなったのか気にかかるわけだが、またハガキが届いた。「公開が延期になったそうで残念ですが、完成を待ちます」というようなことが書いてあり、彼からのハガキはこれが最後だった。

申し訳ないがその映画は未だに完成していない。

 

<補足>

 以上、すべて直接おれ自身が見聞きした出来事です。

 自分を顧みても、何かを表現する仕事に憧れたがもしも挫折していたら、こうしたエキセントリックな人々と同じ行動をしていたかも知れません。しかし、そうだとしても、他人を殺傷するような行為だけはしていなかったはずだと信じたい。