セリフを言い換えさせられた実例 | 日本語あれこれ研究室

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日常生活の日本語やメディアなどで接する日本語に関して、感じることを気ままに書いていきます

 

 

 前回は「ふたつのスピカ」に関連して当時の作業面の記憶を書いたわけだが、今回はもっと作品の内容(というかセリフ)について触れてみよう。プロデューサーとの、納得がいかなかったやり取り、またの名「水掛け論」を振り返ってみる。

 

 「スピカ」の主人公アスミは幼い頃から「ロケットの運転手」になりたいと思っている。彼女には、ロケット事故で死んだ宇宙飛行士の幽霊が見える。その幽霊はなぜかライオンの被り物をしているので、アスミは彼を「ライオンさん」と呼び、ライオンさんの方はアスミを「チビちゃん」と呼ぶ。……というのが原作。

 

 で、放送局のプロデューサー(以下Pとする)が、「チビ」はダメだと言い出した。人の欠点を揶揄している言葉、という解釈だろうかね。

 とはいえ原作での呼称を必然もなしに変更するのはおかしな話なので、おれはもちろん「チビちゃん」でいきたいわけだ。しかし一度言い出したPに対して、おれが先日まで関わっていた「ヤミ帽」にはコゲチビというキャラが出てたとか、「ちびまる子」だって放送中ではないかとか、何を言っても絶対にムダなのであるよ。

 いろいろ言い合った末にPが出した妥協案が、「おチビちゃん」ならいい、だったわけ。「お」がつけばバカにしてる事にならないということかね。

 なぜアニメでは「チビちゃん」が「おチビちゃん」に変わったのか不思議に感じていた視聴者もいたかと思うが、以上がその理由です。

 

 もう一つ思い出すのが、前にも書いたが「看護婦」という呼び方のこと。

 ある話数で、病院に入院している中学生男子がアスミに「あの看護婦、怒らせると怖いんだ」と話すセリフがあった。これに対してもPからダメ出しがあった。曰く、「『看護婦』は使えないことになったので『看護師』にしてくれ」と。

 この前年に、「看護士」と「看護婦」とを統合して「看護師」と称することに法律が変わったので、フィクションの中でも「看護婦」は使えなくなったというのだ。

 でも中学生のセリフで「あの看護師」なんて言うのは不自然ではないか、とかPに訴えたものの、結局ムダなのは上記の例と同様である。考えた結果アフレコでは、「あのおばさん、怒らせると怖いんだ」に変更した。

 

 アニメを作ってるとこのような出来事はちょいちょいある。テレビ局等は「看護婦看護師に言い換える」的な基準は作るのだが、では小さい子供に「看護婦さん」と呼ばせたい場合にどうすればいいのか、とかは教えてくれないのです。

 次回は「セリフを言い換えなかった実例」という感じで書いてみよう。