テーマが「アニメーション」のときは歴代のアフレコ台本を写真に使っているが、それが「ふたつのスピカ」まで来た。実はこの作品の制作時点から、作業上でとても大きな変化があったのである。せっかくなのでそれを語ってみたい。
「ふたつのスピカ」は2003年11月から放送されたNHKのテレビシリーズで、制作はグループタック。
この「スピカ」よりひとつ前におれがテレビシリーズの監督を担当したのは「セラフィムコール」という作品だった。これはサンライズ制作で1999年10月からの放送。この「セラフィム」はフィルム撮影(つまりセルアニメ)で、画面サイズ(アスペクト比のこと)は従来どおり「4:3」だった。
「セラフィム」の終了から「スピカ」の製作開始まで3年半くらいある。この間におれが関わった作品は、OVA『ヨコハマ買い出し紀行』(監督)とテレビシリーズ「ヤミと帽子と本の旅人」(シリーズ構成)の二つが主なものだった。この二作品はどちらもデジタル撮影(つまりデジタル彩色)で作られた。
東映など早くからデジタル化していた会社は別として、業界全体としては大体この時期からデジタル撮影に移行したわけだ。だがまだ画面サイズは依然として「4:3」である。
ところが「ふたつのスピカ」は、NHKからのお達しにより「16:9」のアスペクト比で制作することに決定していた。つまり従来よりも横長くて、映画で言えばビスタサイズに近い縦横比だ。ハイビジョンテレビの普及に合わせての改革で、この時分からテレビの全番組の画面が16:9に変わったのではないだろうか。
(ちなみに今現在でもまだ4:3で放送されてるコンテンツって「タケモトピアノ」のCMくらいじゃないかしら)
さて、「16:9」で作ることになったものの、グループタックもおれも、そんなサイズのテレビアニメは初めてだったのだ。まず、どんな動画用紙を使えば良いのか、そこからして分からない。タックのプロデューサーと二人で、途方に暮れながら考えることに……。
それまでの動画用紙(及びレイアウト用紙)は、だいたい横27センチ・縦24センチくらいの紙であった。紙自体を、それよりも横長い物に変えなければならないだろう。
従来の劇場アニメ用のビスタ用紙はあるが、紙自体もフレームのサイズもぐっと大きいのでテレビの予算で使えるものではない。いままでのテレビ用のフレームと同等の大きさにする必要がある。
試しに今までの作画フレームを、面積は変えずに16:9の比率にしてみた。するとなんとしたことか、A4の用紙にちょうどいい感じで収まるではないか! これはびっくり。途方に暮れてた割に、方針は実にあっさりと発見されたのだった。
しかも動画用紙がA4サイズになれば、当然ながらA4のコピー用紙に簡単にコピーできるではないか。これはスゴイことである。
何がスゴイかって、それまではレイアウトや原画をコピーするとき、コピー用紙は一段階大きいB4サイズのものを使っていたのだ。さっき言ったように従来の動画用紙は縦が24センチもあったからである。この場合、コピーした紙の横と下に余分なスペースができてしまって邪魔なので、いちいち定規を当てがって切り落としていたものだった。動画用紙がA4になるということは、紙と作業のムダが夢のように省けるというわけなのだ。
すぐに新案特許?のサイズでレイアウト用紙と動画用紙と作監用紙とが発注された(絵コンテ用紙はビスタサイズの劇場用のが以前からあったので、当面は代用できた)。こうして我々は新番組「ふたつのスピカ」の制作を開始したのである。
後日談。
考えることは誰しも同じだったらしく、気が付けばどの会社でもみんなA4サイズの動画用紙を使っていたのであった。