我が高畑体験 | 日本語あれこれ研究室

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突然だが、高畑監督の、自分が直接間接に見聞きしたことを気まぐれに書きます。『海がきこえる』でジブリに入ったとき、高畑さんは隣のスペースで『ぽんぽこ』の準備中だったのである。

 高橋プロデューサーから聞かされた。高畑さんは『おもひで』のゼロ号の時に現像所のタイミング担当のスタッフに対して、フィルムの仕上がりについて長時間の烈しい説教をしたそうです。高橋氏いわく、「あの担当の人、今ごろ自殺してるんじゃないかなあ」。

 

 おれが作業をしていると隣りのスペースから高畑さんの声が聞こえてくる。どこかの出版社の編集者を電話で叱っている。どうもその編集者が、ある著者の本の帯に推薦文を描いてほしいと高畑さんに頼んできたようだ。ところが本はまだ完成していなくて、中身を読みもしないで推薦してくれという無茶な依頼らしい。

 これに対して高畑さんは、読まずにどうして推薦できるのか、読んだらむしろ批判するかも知れないではないか、等々とずっと厳しく追及している。すぐに断ればいいだけなのに30分以上説教しているのだ。

 ガクブルである。

 

 近藤勝也さん辺りが、『おもひでぽろぽろ』のエピソードを教えてくれた。実っているトマトをもぎ取るシーンがあって、その効果音を聞いた時に高畑さんは「これはトマトをもぐ音ではない」と見抜いたという。担当者はどこかのトマト畑までトマトの音を録りに行かねばならなくなったそうだ。

 それほど音にこだわる監督だが、おれは気づいている。『おもぽろ』の中でトシオがカーステレオでカセットをかけて車を発進させる。その途端に車がエンストして慌ててエンジンを掛け直す件りがあるのだが、その際にカセットからの音楽が途切れないのだ。これは明らかなミスだ。未だにマニュアル車に乗っていて時たまエンストするおれが言うのだから間違いない。しかし、特に誰にも言ってません。

 

 時は流れて十数年、おれが世界名作劇場の『ポルフィの長い旅』の監督に決まった頃のこと。とある小さなジャズライブにたまたま行ったら、ロビーで偶然に高畑さんと出会ったのだ。初めて名作シリーズを担当しようという矢先に、『ハイジ』『三千里』の監督とばったり鉢合わせ。

 少しだけ、運命とか巡り合わせとかを信じてもいいかと思った。

 

 

 画像はOVA「ダーティペアFLASH2」の台本。初めてサンライズの作品に参加した。