アキ・プレイズ・サティ“夢見る魚”/高橋アキ | 風景の音楽

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“のすたるジジイ”が30~50年代を中心にいいかげんなタワゴトを書いております。ノスタルジ万歳、好き勝手道を邁進します。


アキ・プレイズ・サティ“夢見る魚”/高橋アキ

Side 1
1.3つのジムノペディ
2.4つのプレリュード
3.世紀ごとの時間と瞬間の時間

Side 2
1.夢見る魚
2.逃げ出させる歌
3.干からびた胎児
4.ジュ・トゥ・ヴ

高橋アキ(pf)

Recorded Apl.19&20. 1979 at 荒川市民ホール
東芝EMI EAC60152

午前中はガキに踊りを教えに出かけた。
昼前に終えて歩くと暑くて敵わん。
春秋がずいぶんと短くなっている。
冬の次は駆け足の春があるだけだ。

エルニーニョのおかげで今年は冷夏らしいが
信用ならぬ。
“蒸し暑い夏”がいちばんかなわん。
気温は高くとも空気が乾燥していればまだ過ごしやすい。

ジャケットを持て余してバスに乗った。
いつもの商業モールの中にある珈琲屋で
豆を買った。
深入りのマウイ豆は旨かったな。

このモールの豆屋は全体に煎りが浅く
コクがない。
おまけにミルで挽くには浅煎りなので
とても固いのだ。

固い豆はイカンよ。
マウイの豆は深入りだからさくさくと挽けた。
このモカブレンドは固くてクタビレル。
案の定、薄味珈琲ができあがった、どうもいかん。

高橋アキはたんたんとサティを弾く。
硬質でガラスのようでおそろしいほどの技量をもったピアノだ。
だからといって決して仏蘭西的じゃないのだ。
ヨーロッパの冷たくどっしりとした石のホールの音じゃない。

日本人にしてはからっと明るい色調ながらも
ヨーロッパの屹立した尾根を見渡すような硬質の音だ。
サティの諧謔性を後ろに押し隠して
その意図すら透明に隠しきって冷徹な演奏だ。

アタシはホントは高瀬アキのほうが好きなんだよ。
あまりクラシック的じゃなくってさ。
高橋アキのサティは、精緻で確実なピアニズムに支えられて
とてつもない精密建築のような確かさに満ちている。

高瀬アキは、どう転ぶか判らない危うさがいい。
高橋悠治は、妹よりももうちょっと自由だ。
高橋アキはどうしようもない頑固なところがあって
実のところ、そこが魅力的なのである。

ふわっと解放されることなんて高橋アキのピアニズムにはない。
それでよいのである。
きっと同じ曲を弾いても
さらに高度な煮詰まった演奏へと昇華していくことだろう。

奥へ奥へ高みへ向かって追求していくピアニズムは孤高である。
兄貴の方は、自由で独自の世界を作っていて
それはアタシも買っているが
妹の方ははるかに“確実”なんだな・・・。