(財)日本ユニセフ協会インタビュー【第1回】外国からも「声」が届いている | マンガ論争勃発のサイト

(財)日本ユニセフ協会インタビュー【第1回】外国からも「声」が届いている

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の改定をめぐり、与野党内で意見調整がはじまっている。単純所持の違法化、マンガ・アニメ・ゲームをはじめとした創作物を「児童ポルノ」と含めることなど、論議は広く人々の関心を集めている。そうした中、「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンなど児童保護の観点から規制強化を進める意見を発信しているのが、(財)日本ユニセフ協会である。なぜ、児童保護のためには規制強化が必要なのか? 広報室長の中井裕真さんに聞いた。


--最初に今回「なくそう! 子どもポルノ」キャンペーンをはじめられた経緯をお伺いしたいのですが。

中井さん:まずキャンペーンの前段階として、1996年にスウェーデンのストックホルムで開催された「第1回 子供の商業的性的搾取に反対する世界会議」で、日本が加害者として批判されました。それを受けて現行の児童ポルノ禁止法が成立しました。

これ以降、発展途上国の買春・人身取引に関しては法的整備だけでなく民間の取り組みでも一定の成果を得ることができました。

しかしながら、翻って見ると現行法の成立以来見送られてきた単純所持と児童ポルノの定義についてはなんらかの法律的担保をしなければならない状況になってきたのではないかという問題意識からキャンペーンを始めさせて頂きました。

--いま、(現行法に含まれていないマンガ・アニメ・ゲームをはじめとする「子どもポルノ」が)問題になっているという認識ですが、その根拠としてはどのようなデータがあるのでしょうか。

中井さん:明確にはデータというよりも、アネクダートル・データ(註・逸話的、伝聞的なデータで、数値には出ないもの)です。

今回、アニメ・漫画・ゲームの部分ではなんらかの法的規制を設けるよう要請していますが、この背景には2004年と2005年にカナダとアメリカで、日本製の性的虐待のカトゥーン(マンガ・アニメの両方を含む用語)に有罪判決がでたという情報を得たことがあります。ちなみにカトゥーンが実際には漫画なのかアニメなのかは把握しておりません。

 また、アメリカ司法省に「こういった問題は続いて起こっているのか?」と聞いたところ「続いている」との回答がありました。司法省からは「連邦法として性目的で描かれた児童の性的虐待のカトゥーンについてはアメリカでも禁止されている」と説明がありました。問題とされているカトゥーンは、数が多すぎてどこの国で製造されたものか把握しきれておらず、日本製とはいいきれないそうですが。
 
--ほかには、どういった背景があるのでしょうか?
 
中井さん:2007年には二つの大きなアクションがありました。
 ひとつは、G8の司法関係閣僚会議が5月にミュンヘンで行われた時にG8以外の国とも共に取り組んでいくことを、閣僚宣言として発表した。もうひとつは欧州評議会でも欧州条約として「子供の性的搾取および性的虐待からの保護に関する条約」が成立したことが挙げられます。

--その、欧州条約ですが創作物については各国の留保が認められていることになっていると聞いていますが。

中井さん:そうですね。それは私どもも把握しております。

現行法上ではこれ以上取り締まることはできない作品とは

--それでは、キャンペーンのために発表された「子どもポルノ問題に関する緊急要望書」(以下要望書)に書かれていた「児童ポルノ」をタイトルに含む作品とはどのようなものでしょうか? できれば見せて頂きたいのですが。

中井さん:いいですよ。(註:実際にお持ちのマンガ・DVD・ゲームを見せて頂いた)我々が秋葉原やネット販売を調査する中で違法ではないかと思った作品があります。

 それは、実写のDVDだったのですが警視庁に紹介したところ、18歳未満にみえるかもしれないが、18歳以上と確認できている有名な作品でした。



中井さんの見せてくれたDVDのひとつ
「児童ポルノ」を銘打つが出演者は18歳以上。

 そのため、現行法上では我々はこれ以上取り締まることはできないといわれたんです。
 現行法上では担保できないかもしれないけど、表現としては子どもの性的虐待。何人かの方にパッケージだけを見て貰いました。

 これらについては、みなさん一様に「なんでこれが日本で売られているのか?」といっていた。また、我々もいかがなものかと思っております。

--では、要望書で触れられていた欧米各国で法律等で禁じられている漫画…というのは具体的にはどれなんでしょう?

中井さん:(註:いわゆる「エロマンガ」と「ゲーム」を机の上に並べながら)われわれが是非を言える立場ではないのですが、漫画アニメをつくられている方々と意見をすりあわせて「日本としてのスタンダードは何か?」と、意見のすりあわせができればと考えています。

--日本には漫画家の団体がいくつかありますが、そのあたりとのリンケージは?

中井さん:まだ全然ないです。我々も、基本的な仕事は途上国への支援のお願い。いまでこそ力をいれてますが、これだけやっているだけにはいかない。漫画家の方々にもご説明にあがってご意見を伺いたいと頭では思っているのですが…。

 いうまでもないのですが、一日本人としてクールジャパンといって色々売り出していて、私もやるべきだと思うんです。しかし、こういうものを秋葉原やアマゾンでみた外国の方からの「日本はどうなっちゃってるの?」という声もきっかけではあるんですよね。

【続く】

(財)日本ユニセフ協会とは:
国際連合児童基金(UNICEF)と協力協定を結び、日本からの民間拠出金・寄付金を取りまとめたり、広報活動を行う民間団体。国際連合児童基金の下部組織ではない(国際連合児童基金の東京事務所は渋谷区の国連大学内にある)。同じような団体は世界の36の国と地域に存在し「ユニセフ国内委員会」と呼ばれる。アグネス・チャンさんが就任した「日本ユニセフ協会大使」は(財)日本ユニセフ協会が独自に任命しているもの。これに対して黒柳徹子さんの「ユニセフ親善大使」は国際連合児童基金が任命し、UNICEF東京事務所がサポートするもの。このように、国際連合児童基金とは別個に活動する部分も多い。
(財)日本ユニセフ協会公式サイト
http://www.unicef.or.jp/top1.html

(取材:永山薫 昼間たかし 構成:昼間たかし 2008年3月19日取材)