「“ポルノグラフィと性行動に関する意識調査”の結果と報告」 | マンガ論争勃発のサイト

「“ポルノグラフィと性行動に関する意識調査”の結果と報告」


ポルノ・買春問題研究会『論文・資料集』7号所収:
『マンガ論争勃発』では、快く取材を受けて頂いた福島大学行政政策学類准教授の中里見博さんが代表を務める、ポルノ・買春問題研究会が2006年9月10日から同年11月11日まで同会のサイト上と用紙配布行ったアンケートの結果と報告である。
 アンケートが行われていた当時、ネットを中心に恣意的な要素が入っているのではないかという批判があったことを記憶している方もいるだろう。

本書では、その点についても触れられている。
「本アンケートの限定的性格」の部分では、

<特定の結果を予想し、それを証明するためにアンケートをするのは、中立的ではなく、したがって、そのアンケートの客観性に問題があると主張する人もいるだろう。だがたいていどんなアンケートも、一定の問題意識を持った個人ないしグループが、その問題意識にそった結果を予想して行なうものである>

と、アンケートにおいて調査を行う主体の意図が作用することを否定しない。
この場合の意図とはなにかといえば、「今回のアンケートの趣旨とその意義」で述べられている、
<われわれが基本的に支持するキャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンの立場は、上のロビン・モーガンらの立場よりももう少し踏み込んだ立場を取っている>
の部分であろう。
 さらに、「結果を解釈する上での注意事項」では、
<われわれのアンケートの趣旨に敵意を持つ人々が、ネットでの情報を通じて集中的にアンケートに回答したものと思われる。=中略=しかしながら、われわれは、このような、反規制派からの組織的回答があることを十分に予想していたので、とくに驚きはしない>
と記している。

さて、アンケートの結果は数字ばかりになってしまうので、ここでは紹介を避けるが、「ポルノについてあなたのご意見をご自由にお書き下さい」という部分には触れておこう。
 ここでは、意味不明なもの等を除けば、ほぼ全ての記述内容が紹介されている。(筆者の個人的な印象だが、すべてを掲載しているのには、取材時に学者らしく論証や用語に非常に気を遣って話していた中里見さんの人柄が反映されているように感じる)
 
 ここから、いくつかの記述を引用してみよう。

<「ポルノは必要ですよ」「モテナイ男にとってポルノは必需品w」「二次元のほうがいいな」「異常なポルノは禁止して欲しい」「オタク文化は偉大なり」>

と、このような記述内容の紹介がA4判13ページあまりにわたって続く。
 このように、せっかくのアンケートにおいて、様々な思惑が絡み合い客観性がまったく担保できないことについては同会でも問題意識が持たれているらしく
<今後、より大規模に、より客観性を確保できる方法で調査が取り組まれることが期待できる>
と記している。こうした問題において万人の納得する客観性を確保することは極めて困難だろうが、そうした調査を望んでいる点については筆者も同意できる。
 
中里見さんの著書を読むと実写AV撮影現場における人権侵害を丹念に調査しており一定の成果を挙げている。しかし残念なことに、そうした部分はあまり一般には知られていないようである。
『マンガ論争勃発』の読者からも「この本を読んではじめて“ラディカル・フェミニズム”という言葉を知った」という言葉を頂いている。
一見、永遠に相容れない対立があるように思われるが、こうした問題についても対話によって何かしらの歩み寄りを見いだせるのではないか。それは、まだ遠い先の話になりそうだけれど。


参考URL:
ポルノ買春問題研究会
http://www.app-jp.org/

奥村徹弁護士の見解
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20060910/1157847461

ラディカル・フェミニズムに関する書籍/論考は数多く見られるが初学者すすめたいのが下記の書籍である。
ラディカル・フェミニズムの形成史も簡潔にまとめられており、読みやすい。

ポルノグラフィと性暴力―新たな法規制を求めて (福島大学叢書新シリーズ 5)
中里見 博
4750325244