第八回
そして遮蔽板に付属しているジェット噴射機の轟音がぴたりとやんだ。空中に間断なくジェット噴流が噴出される音が止まり、今は巨大戦車よりもさらに大きなトンネル遮断無限軌道車数十台の地を揺らすような振動が聞こえるともなく地面を揺らしているだけである。
「侵入対象物が停止しました」
防御線内に入ったそれは一点に停止したまま動きを止めている。
「この怪物が知性を持っているということか」
ソナーの操作員の言葉を受けて王警部はつぶやいた。まるで動かないことがかえって無気味である。矢口まみりは井川はるら先生のところに行くと先生の前に立ってはるら先生の差し出された手を握ってみる。
「まみりちゃんこわいことはないのよ」
井川はるら先生もソナーの画面をじっと見つめていた。
「侵入対象物が入って来たトンネルを遮断したのはどの機なのだ」
「八号機であります」
「八号機を映すことが出来るか」
「出来ます」
「カメラを切り替えろ」
現場付近上空を飛んでいる二台目のヘリコプターがその機を上空から映し出す。ちょうどやぶさか寺の横の七メートル幅の道路の中央で停車している機の全貌が映し出され、巨大な遮蔽板が地中深く打ち込まれ、道路は完全に横断されている。
「この道の下に奴がトンネルを掘ったのだな」
その奴はソナーの画面の上では全く動こうとしない。
「キャー」
チャーミー石川がピンク色の叫び声を上げた。遠くからソナーの画面をのぞき込んでいた矢口まみりも思わず顔を前に出す。その場にいた他の連中も顔を前に出した。
「対象物がバックし始めました」
ソナーのオペレーターの声には緊張とも恐怖ともつかない調子が混じっている。
「大丈夫だ。大丈夫だ」
警部は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。みるみる間に遮蔽板に近づいている。侵入してきたときよりさらに速度を上げている。テレビには機が映っている。
「キャアー」
チャーミー石川がまたピンク色の声を上げた。しかし、矢口まみりは石川の過剰反応を叱責する気にはならなかった。
「あれを見て」
はるら先生がテレビに映ったヘリコプーから見た映像を指さしたとき、ソナーの画面では遮蔽板に対象物が今まさに衝突しようとしている。
ドドドドト、ドンと低い音がどこからともなく聞こえる。地面から出でいる遮蔽板の上部の部分とトンネル遮断無限軌道車が左右前後に小刻みに揺れる。
「大丈夫でしょうか」
つんくパパはそのカメラに映った巨大戦車がどうなるのかとあやうんだ。
「大丈夫です」
そう言った王沙汰春警部も自分の言葉に半信半疑だった。
「よし、生物凝固剤注入を始めろ」
「ラジャー」
ソナーの機械の横にいた操作員がスイッチをひねった。
「生物凝固材とは」
つんくパパは発明家としての興味から王沙汰春警部に質問した。
「それは第二次世界大戦中に日本の軍部が開発した、秘密兵器です。もし、対象の組成が蛋白質で成り立っているなら、その可動部分はすべて硬化して動きを停止させることが出来ます。日本の軍部は保管や使用の危険性からその開発を途中で断念しましたが、戦後、一部の技術者がその完成を成し遂げていたのです。ついにその兵器を使う機会がやってきました」
王沙汰春警部は感涙にむせんでいた。
「凝固剤、一トン注入完了」
「二トン注入完了」
「三トン注入完了」
「四トン注入完了」
「・・・・・・」
「他の機からタンクを移すのだ」
遮蔽板はもう振動を止めていた。
「隠密怪獣王は死んでしまったのでしょうか」
つんくパパはおそるおそる警部に聞いてみた。
しかし、警部は無言で何も答えない。
「うそだ」
ソナーのオペレーターが素っ頓狂な声を上げる。今度の叫びはチャーミー石川でないだけに信憑性がある。
「警部、侵入物はまた方向を転換しました。なごみ銀行金庫へ向かいはじめました」
「なんだと、トンネル遮断無限軌道車につながれた生物凝固剤のタンクをすべてなごみ銀行の金庫に集中させろ、逆方向から薬剤を注入するのだ」
チャーミー石川は王警部の腕にむしゃぶりついた。
「そんなことをしたら、そんなことをしたら。金庫の中のお札がすべて台無しになってしまいます」
「うるさい」
王沙汰春警部はチャーミーをふりほどくと三メートルも吹き飛ばし、チャーミー石川は小屋の中にある機材の箱にうちつけられて腰をさすりながら立ち上がったが誰も石川の方を振り向く人間はいなかった。
マイクを取った王警部はソナーの一点を凝視しながら叫んだ。
「金庫に生物凝固剤を集中させるのだ。早くだ。早くだ。一刻も早くだ」
警部の叫びにもかかわらず侵入物は金庫に近づいて行く。
「間に合わないなり。金庫に入ってしまうなり」
矢口まみりも叫んだ。
「心配ない。金庫の中は地中の泥の中を掘るのとは訳が違う。金庫の周囲は厚さ五センチの鉄板で出来ているのだ。金庫に達してその中に入るには少なくとも五分間は必要なはずだ。その間に生物凝固剤のタンクは届くだろう」
確かにソナーを見ていると対象物は金庫に達したらしいがその地点で停止している。
「やはりな」
王警部は満足気につぶやいた。
「嘘だ」
ソナーのオペレーターは冷や汗を脱ぐった。
「対象物は金庫の壁を通過しました」
「嘘だ」
興奮した王警部はチャーミーの頭をぼかりとやった。
「けふ」
チャーミー石川はげっぷが漏れたような声を上げる。
「仕方ない。機動部隊をなごみ銀行のまわりに集めろ。地対地ミサイルを打ち込むのだ」
「間に合いません」
なごみ銀行の全貌を映しているモニターを見ている操作員がモニターの画面を見ながらその銀行を指さしている。テントの中にいる人間はみなその画面のほうを見る。はるら先生もまみりもパパも、スーパーロボも、・・・・そして王警部も。
なごみ銀行の屋上に載っている銀行のロゴマークになっている看板が小刻みに震える。ネオンを点灯する高圧の電源装置がショートして煙りを上げた。さらに看板が振動する。建物の上部もゆっくりと振動しているのがわかる。そして、現れた。
屋上に大量の爆薬を仕掛けたようにビルの上部の部分が打ち上げ花火が開くようにコンクリートの大きな固まりや鉄材が空中に飛翔して、その立ち上がる破砕物の煙の中から、渡世人の姿格好をしながら顔だけは奈良東大寺の南大門に立っている金剛力士像のような仮面を被っている。ビルの上に上半身が出ていることからこの怪物の大きさは十五メートルの姿はあるに違いない。
この渡世人の怪物はあたりを睥睨していた。
「あれが」
「あれが」
「隠密怪獣王なるなりか」
誰が言うこともなく、テントの本部にいた連中は外に出た。銀行の方を見ると怪物は大空を背景にして立っている。そして怪物の左手には金の延べ棒が多数、手のひらの中に握られている。つまようじの頭をたくさん握っているように見える。おもしろいことに渡世人の姿格好をした怪物だったが着物の背中と胸に五十五の数字がぬいこまれているのだ。
「あれはなんなり」
矢口まみりがその姿をさしながら指摘した。
「まみりちゃん、やめなさい。こっちを睨んでいるじゃないの。目を会わせたらだめよ」
はるら先生が矢口まみりを叱責した。
「撃つのだ。撃つのだ」
王沙汰春警部が絶叫している。
「地対地ミサイルを撃つのだ」
怪物のまわりを取り囲んでいたミサイルの自走車が火を噴いた。ミサイルは次々と怪物をめがけて飛んでいく。地面が地震のように揺れる。硝煙のにおいがたちこめ、空から金属性の落下物が落ちてくる。鼓膜は破れるようだ。空には小型の太陽がつぎつぎと爆発しているようだった。全部で四十発以上のミサイルが打ち込まれた。煙であたりは何も見えなくなっていた。矢口まみりたちは装甲車の陰に身を隠していた。そして煙が少し晴れたとき、怪物は何もなかったようにその場に立っていたのである。
「撃つのだ」
「ミサイルはもうありません」
「なに」
興奮した王警部は自分の背広の内ポケットから三十八口径のピストルを取り出すと怪物をめがけて引き金を引いた。何発かが流れ玉となって何発かが怪物のみけんに命中した。隠密怪獣王はその仮面の下のぎろりとした目を地上にいる哀れな子羊たちの方に向ける。王警部は仁王立ちになって弾のなくなった拳銃を怪物の方に構えていたが、他の連中はこそこそとその場を警部に知られないように逃げてお寺の地下倉庫の入り口の怪物の目の届かないところに逃げた。
「王警部が危ないなり」
命を捨てた王警部の方を心配気に矢口まみりが見ているとつんくパパは
「ひとりが死んじゃうのと、五人が死んじゃうのと、どっちがいい」
と言って指を立ててしーと発言を控えるように言う。そしてその場に隠れている五人は沈黙を守った。
ミサイル攻撃によってビルはあとかたもなくなっていたが怪物はその場に無傷で立っている。そして林家彦六師匠は拳銃を構えたまま、怪物と退治している。こういうのを年寄りの冷や水というのだろうかとまみりは思った。
「どんなときでも、正義は勝っ~~~~う」
彦六師匠は首が自由に動く東北の民芸品のように頭をふった。そして怪物はどんな気まぐれを起こしたのだろうか。王警部の方に近寄ってくるではないか。しかし、王警部はその場をまったく動こうとしない。ずんずんと怪物は寄ってくる。そして片足を上げて王警部を踏みつぶそうとした。
「キャァー」
またチャーミー石川がピンク色の声を上げる。
「警部はふみつぶされるなり。一人が死ぬより、五人が死ぬほうがいいのかと言ったパパが悪いなり」
矢口まみりは王警部が踏みつぶされると思って目をつぶった。
「みんな自主的にここに退却したじゃないか。みんなの自由意志じゃないか」
つんくパパはぶつぶつと夢遊病者のようにつぶやいた。年寄りが飯をもっと食わせろと文句を言っているようだった。
「もう、つぶれちゃったかしら」
井川はるら先生が鍋の中に入っているホットケーキの焼き具合を調べるように地下倉庫の入り口から顔を出してぺちゃんこにつぶれちゃっただろう王沙汰春警部の方を見て、
あっ と声を上げた。
他の四人も顔を出した。そこには驚愕すべき光景が広がっていたのである。
怪物の足は中空で停止している。王警部の頭上、数メートルのところで停止している。
ただ笑ったのは警部は頭上に自分の両手を捧げて怪物の足の裏を数千トンはあるだろう怪物の全体重を支えている気になっていることである。そして怪物は異様な行動を取り始める。王警部を踏みつぶそうとした足をもとに戻すと、今度は大空に向かって立ち、牛乳瓶の牛乳を飲むように左手を拳のかたちにして腰の横に添えると右手を頭上におき、空中にあたかも巨大な看板があるように人差し指で五十五の数字を書いたのである。そして天上に向けて指さした。王警部の存在がないようにその動作を繰り返している。
「先生、あれはなんなり、なんで空中に五十五の数字を書くなり、それに股旅の衣装の裏表に五十五の数字が書いてるのはなんなり」
「きっと馬鹿なのよ」
井川先生は一刀両断に決めつけた。
王警部はまだ怪物の全体重を両手で支えているつもりになって両手をあげている。
「チャンスだわ。王警部から怪物は関心を離している。助けに行きましょうよ」
チャーミー石川が叫んだ。
「でもな、自分の自由意志だから」
つんくパパはまだぶつぶつと言っている。
「矢口くんは行くなり」
矢口まみりは飛び出した。
「まみり、まみりが行くならパパも行くぞ」
五人が王警部のところに行くと怪物はまだ空中に五十五の数字を書いて、天を指すという単純作業を繰り返している。てこでも動こうとしない警部を地下倉庫の入り口まで運んでも、王警部の興奮はまだ冷めやらなかった。
「俺はひとりでも戦うぞ。自衛隊の奴らはどうしたんだ」
まだわめいている。
「みんな退却したなり。矢口くんたちだけが取り残されたなり」
「戦うと言ってもミサイルはすべて撃ちつくしましたよ。さっき電話を自衛隊の方にかけたら、ミサイルを撃ってもいいけど警部の退職金からその費用を払って欲しいと言っていました」
はるら先生が冷ややかな口調で言った。
王警部は五目玉の算盤を取り出すと算盤一級の腕でそろばん玉をはじいた。そして尖った鉛筆のさきをなめると電話を所望した。
「電話かかるよね。今晩は鍋焼きうどんにしようかな。みんな何を食べる」
王警部の横には築地三丁目にある田舎そばおかめ屋と書かれたそば屋のメニューが置かれている。
「そんなことより怪物がまた動き始めたわよ」
入り口から顔を出しているチャーミー石川がそのほうを見ながら言った。怪物の眼中にはこの五人の姿はなかった。晴海通りに抜ける方の道路をまたぐと築地の卸売り市場の方に入った。職務熱心なヘリコプターの隊員はまだ怪物の姿を映している。何故、築地市場なんかに入って行くのだろう。早朝なら仲買人なんかのためにラーメン屋や寿司屋が開いているのだが、時間的にはもうそれらの店はしまっている。一体なんの目的が。
ヘリコプターから送られてくる映像を見ながら、矢口まみりたちは首を傾げた。しかし、その目的はすぐにわかった。築地市場の中には白い建物がいくつも建っている。そこは人が住むために立てられたものではない。そこには遠洋漁業の漁師さんたちが他の国の領海ぎりぎりの海で捕ってきたまぐろや越前蟹が冷凍されて入っている。怪物はその大きな冷蔵庫の前で立ち止まるとビルの窓の中に指を入れた、そして指をはじくようにすると窓は壊れた。さらに金属製の二重扉を破壊する。扉からは冷気が漏れて白い煙となって立ち上る。中から怪物は人差し指と親指でコンテナごと冷凍されてかちかちになった越前蟹が数千個固まってキューブになったものを取り出すとひとくちで口の中に入れた。まるでエビのカクテルを食っているようである。ひとつの冷蔵庫で食い尽くすと次の冷蔵庫に向かう。
「食べてるなり」
ディズニーの動物記録映画を見ているように矢口まみりはつぶやいた。それは全く自然の神秘にほかならない。こんな感動をまみりが味わったのはシロナガスクジラの水中での出産映画を見たとき以来だった。他の連中も同様だった。自然の営み、神の霊示、六十億年の生物の営み、進化の歴史、その場にいる連中はすべて神々しいものに身を震わせていた。チャーミー石川なんかは涙さえ流していたのである。
そのとき、電話がけたたましくなり始めた。
つんくパパが出ると横柄な調子で警視総監だと言った。つんくパパは自分のことではないので警部に電話を渡す。井川はるら先生がコンパクトを出して化粧をしようと立ち上がって電話の線に引っかかったのでその電話の声がスピーカーに切り替わってその場にすべて流れている。
「王沙汰春警部、今度の件をどうするつもりだ」
「総監。なにしろ相手は怪物です」
「怪物はいいよ。君。築地市場に行ってまぐろや蟹を食いまくっているそうじゃないか。どうするんだよ。君。お寿司屋さんにまぐろを卸せないじゃないか。東京の物価指数があがっちゃうよ。君」
「ミサイルを撃つ金をください」
「そんなこと自分でなんとかしろよ。君、頭上を見てごらん」
警視総監がそう言ったので五人は外に出た。空中を見るとジェット戦闘機が一機とんでいる。
「君がなんとかしないと、君のいるところにミサイルを打ち込むよ。みんな死んでもらうよ。そうすれば証拠が残らないからね。今回の事件も未確認飛行物体から宇宙人が来てやったことにするからね」
警視総監はがちゃりと電話を切った。
「パパどうするなり。矢口くんはこのお馬鹿たちと一緒に死んでしまう運命かなり。怪物は手に負えないなり」
チャーミー石川は数珠を握って念仏を唱えている。警部は蝦蟇蛙がトラックに踏んづけられたような表情をしている。井川はるら先生がまみりの方を見て気味悪く笑っているのが気持ち悪かった。
「ちょっと、こっちに来なさい」
つんくパパは矢口まみりをつれて墓場に立っている木の隅につれて行く。
「まみり」
「なんであるか。パパなり」
「これを」
つんくパパはボケットの中から何かとりだした。
「まみり、これをはめなさい」
「パパ、プレゼントをくれるかなり、まだ誕生日は早いなり」
それは女ものの腕時計だった。ピンク色の腕バンドがついていて文字盤にはうさぎの絵が描いてある。矢口まみりはその腕時計をはめた。
「まみり、これはパパとふたりだけの秘密だよ。でも天国にいるママには報告してもいいよ。スーパーロボヤグチマミリ二号集合というのだよ」
矢口まみりは腕時計を口のそばに近づけると叫んだ。
「スーパーロボヤグチマミリ二号、集合」
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アメリカで主催している写真賞に アメリカの誰か、知らない方が私を推薦してくれたらしい。
それで、上位の方にランクインしているらしい。
その写真賞は最初、写真界以外の投票を受付て いたらしい、
SNSのフォロワー数が 決めてになり、
SNSのフォロワー数が上位にくるようになり、主催者は レディ・ガガがカメラマンを名乗れば、優勝するのと 同じだと 思い、鑑識眼のある カメラマンしか、投票できないように したらしい。
誰かが 推薦してくれて、参加できました、ありがとう、
第七回
太陽の光を遮断した空間の中で緑や赤のネオンの機械の表示器が妖しい光を放っている。今にも未知の生物の誕生の機会に立ち会っているような気が矢口まみりにはする。
「この前の襲撃事件のときには川の横手の石垣の中から隠密怪獣王はトンネルの入り口を掘りはじめている。今度はどこから地中に進入するのだろう」
王沙汰春警部はぽつりとつぶやく。そのつぶやきには何故か重みがある。王沙汰春は生涯最大の敵手に出会う予感を第六感で感じているのかも知れない。矢口まみりには王警部が英雄のように見えた。レーダー装置の前に異常音を拾うためにヘッドフォンを被っているオペレーターが身を震わせて驚いた顔をして王警部の方を振り向いた。
「異常音が微かではありますが聞こえます」
王沙汰春警部はオペレーターの顔を食い入るように見つめた。
「レーダーには映っていないのか」
「レーダーの捕捉できる範囲外にあります」
「ホワイト雑音ではないのか」
王警部は彼特有のぎょろ目をむいた。
「雑音ではないんですか」
何も知らないチャーミー石川はその気になって自分もその会話に参加している。しかし、チャーミーは何もわかっていないのだった。
「雑音ではありません」
オペレーターは緊張から末尾を切りつめるようにして言葉を放った。オペレーターの感情には不安と恐怖がないまぜになった要素が混じっている。確かに過去に自分はこんな経験をしている。それは福井の寂れた漁村から数キロ離れた離れ小島に秘密裏におかれた自衛隊のレーダーソナー装置の捜査をしているときだった。このような雑音が聞こえたときがあった。そのときは最悪の結論が待っていた。その波形もそのときとそっくり同じである。最初はそれが機械自体や自然状態により消えない雑音に重なっていてどんなものなのかよくわからなかった。微かに聞こえるものだった。それが大きくはっきりと対象物の存在が明確になろうとしたときすべては終わっていたのだ。漁村は世紀末の様相を呈し、地面は転変地異といってもいいほどめちゃめちゃになり、家々は破壊されつくしていた。とてつもない破壊力を持った何者かがこの漁村を完全に破壊しつくしたとしか言いようがなかった。オペレーターは自分の顎のあたりから首筋に冷や汗が流れてくるのを禁じ得なかった。結局、防衛庁内部でもその事件は何もなかったようにうやむやとなり、上層部だけでもみ消されたのだった。
「王警部、これはあの事件のときと同じ対象とわれわれは接しているのでは」
「えっ~~~~。そうなの。あいつの仕業なの」
何も知らないチャーミー石川はやはりその会話に参加していた。そして得意のあのポーズ、腕をよじって、それと同時に身もよじってイタリアの方にあるねじれたワインのガラス瓶と同じような格好をした。
もちろん、王沙汰春警部はあの事件を知っている。それはどうしても隠し通しておくことが出来ずに自衛隊の上層部から漏れて警視庁の王警部の耳にも入って来たのである。
「あいつのしわざか。ということは隠密怪獣王とはあいつのことなのか」
「あいつの名前はレインボーーマーーン」
チャーミー石川はまた余計な合いの手を入れた。
王沙汰春警部はもちろんその全貌を知っているわけではない。しかし、それがどのくらい巨大な相手かということはわかる。隠密怪獣王。
「両頭裁断すれば一剣天に・・・」
王沙汰春警部は蒙古の大軍を一人迎え撃つ北条時宗のことを思った。いにしえの将軍が身近なものに感じられる。蒙古軍の襲来に苦慮した北条時宗は無学祖元の言葉を聞いた。王沙汰春警部もまた同じだった。ひとり静かに警察無線のマイクをとった。
「トンネル遮断無限軌道車、全部のエンジンを始動せよ」
「警部、そんなことをしたら騒音で地区住民から苦情が殺到します。できるかぎり短時間しか、無限軌道車のエンジンはかけられません」
「今がそのときではないか、確かに敵は近づいている。今、それをやらずにどうする」
刑事のひとりが各車両の無線に連絡をした。
「各車両に告ぐ。エンジンを始動せよ」
するとどういうことだろう。地面が重く振動し始めている。その振動は深く矢口まみりの頭蓋骨にまで伝わる。物理的振動が時間を含めた四次元空間の中の実在として運命を具現化していた。数え切れない力の象徴が足並みを揃えてこの地を揺らしているのだ。矢口まみりはつんくパパの腕にすがった。
「どうなるなり」
「わからん」
つんくパパは答えた。
ただ感情を持たない、自分が完全に破壊されつくす寸前まで対象に向かっていくだろうとおもわれるヤグチマミリ二号だけは平静に立ち尽くし、自分の頭部に内蔵されているコンピューターにあらゆる情報を一寸の間隙もなく収集していた。
しかし、この足下を揺らす振動に感情を揺らしている哀れな存在があった。
「こわい」
それはチャーミー石川である。今でこそアイドルらしい呼び名がついているが前の名前は貧乏石川。石川梨佳のことである。
貧乏石川の過去は悲惨なものだった。父親はパンツのゴムひもの行商で生計を立てていたが、いまの時代、パンツのゴムひもなんかを買う人間はいない、コンビニもスーパーもないような寂れた寒村をまわり、涙ながらに妻と哀れなふたりの子どもを残していることを訴え、おもに哀れみを誘うことによって、パンツのゴムひもを取り替えることが楽しみな年寄りの哀れみにつけこみ、一本、二本とゴムひもを売って生計を立てていた。その金の仕送りを受けた石川の一家は即席ラーメンで糊口をしのぐとい生活を続けていたのだ。その貧乏だったが肩を寄せ合うような石川の一家にも変化が起こった。こづかいの余裕などないような石川の父親が女を作って家を出て行ったのだ。一説には金を持っている女のところで愛人になったとも言われている。
父親を失った一家は仕方なく、母親が働きに出た。母親はいつも憎悪を込めて父親の悪口をチャーミー石川に吹き込んだ。石川はふたつ年下の弟と働いている母親の帰りを待ってボロ家で待っていた。家のガラスはすべてひびが入ってセロテープでつぎはぎがされていた。夏はよかったが冬には木枯らしが家の中に吹き込んできた。電気を止められ電気こたつもたてられなかった石川は弟と抱き合いながら暖をとったものである。
それはある冬の日に起こった。
母親のパートの仕事が遅くなり、夜遅くなっても帰って来ないときだった。冷たい木枯らしが家の中に吹き込み、石川は鼻をたらした弟と抱き合いながら暖をとっていた。そのとき家のガラス戸がガタガタと鳴った。
「お姉ちゃん、こわいよう」
石川は鼻をたらした弟をぎゅっと抱きしめた。
「こわくないわよ。きつねの子供が挨拶に来たのよ」
「ごんぎつねのこと」
「そうよ。ごんぎつねが会いに来たのよ」
「僕、その話、知っているよ。きつねの子供が人間の子供のまねをして手袋をしてくるんだね」
「そうよ。きつねの子供よ」
するとまたガラス戸ががたがたと鳴った。
「きつねさん、きつねさん。ここには何も食べるものがありません」
石川は大声で叫んだ。
心の中で石川はこわい人がいるのではないかと思った。石川の家のまわりには家がない。強盗だったらどうしようと思った。ごんぎつねのことを持ち出したのは弟を怖がらせないための方便だった。
するとまたガラス戸ががたがたと音がする。そこで石川は羊の子供と狼の話を思い出した。羊の子供たちが留守番をしていると狼が来て羊の子供たちを食ってしまい、隠れていた子羊たちが食われなかったとい話である。そこで石川はどこかに隠れることにした。するとうまい具合にボロ家の床の一部が壊れていて床の下に隠れることが出来る。石川と弟は床の下に隠れた。いくら待っても出て来ないと思った侵入者は家の中に上がり込んで来た。石川は恐怖した。そして頭上でなまりの入った声が聞こえる。
「石川さん、石川さん、担任の田舎ずうずうだよ。もう給食費六ヶ月も滞納しているでないか。払ってもらえるように相談に来たんだよ」
その侵入者が石川の担任の先生だということがわかって石川は安心したのだが、それがわかるまでの石川の緊張と恐怖は筆舌には表しがたかった。
そのときの思いでがチャーミー石川の前頭葉の皮下組織に作用した。
「こわい」
チャーミー石川はよろよろとよろめくとつんくパパの腕にすがりついた。矢口まみりはずかずかとチャーミー石川の前に進み出ると石川の胸ぐらをつかんで往復ビンタをした。
「見境のない女なり、これはまみりのパパなり」
石川はよだれをたらしながらへらへらと笑っている。
「うるさい。敵が近寄っている。静かにしろ」
王警部が叫んだ。見物人たちはきょとんとしてひとかたまりの八百屋で売っているりんごのやまのようになって王警部のほうを見た。闇夜の中で彼らの目玉だけが妖しく光っている。
またレーダーのオペレーターから鋭い声が挙がった。
「北東七キロ地点に未確認物体発見」
「かちどき橋のあたりか」
「そうです」
大きな船が通るときは交通を遮断して跳ね上がる仕組みで有名なかちどき橋のあたりから敵はトンネルを掘りはじめているらしい。いまはその橋が跳ね上がることはないが有名な場所あたりから進入をはじめたものである。
見えぬ敵、隠密怪獣王。
「トンネル遮断無限軌道車の出力を最大規模に上げろ」
王沙汰春警部が叫ぶと静かな地鳴りみたいだった状態から確実に感じられる振動が矢口まみりの身体に伝わった。見境のない女、チャーミー石川はまたつんくパパの腕をつかんだが、この状態の変化に気を取られて矢口まみりは気にもならなかった。テントの入り口から頭のタオルを巻いた風呂上がりの六十くらいの女が洗面器を持ちながら怒鳴り込んで来た。
「一体、何をやっているんだね。この振動はなんなんだい。工事の許可はどこで下りているんだよ」
そこへ警官たちが寄って来て女の両腕をつかむとどこかへつれて行った。
頭上でヘリコプターの爆音がする。
「なごみ銀行の全貌をうつせるか」
「ヘリコプターが到着したので可能です」
「なごみ銀行をうつせ」
するとテレビには上空のヘリコプターのカメラから映されているなごみ銀行の姿が映った。
ソナーに映っている侵入物は全然、速度も変化させず、方向もほぼ直線で目標のなごみ銀行の金庫に吸い寄せられるように向かって行く。ソナーの画面にはその侵入物、そして位置がまったく動かないのは銀行の金庫とトンネル遮断無限軌道車だった。そのトンネル遮断無限軌道車を結ぶ線は金庫を中心としている円のようになっている。この侵入者を拒むものは何もなかった。
「信じられない。時速三十キロで地下を進んで行く」
発明家つんくパパは絶句した。
「こわいわ」
チャーミー石川はつんくパパの腕にもたれかかった。
「お前はワンパターンなり」
矢口まみりは苦々しくつぶやいた。
王沙汰春警部は時間を見ていた。その時間は一つしかない。トンネル遮断無限軌道車の台数は限られている。トンネルを遮断するまでに要する時間も有限である。包囲網の境界の内側のある距離に来たとき遮断板を地下に打ち込まなければならない。警部は握っていた拳の中の手の平の汗がにじんでいくのを感じた。地面の震動は相変わらず続いている。
円の内部、ソナーの画面の数センチのところに侵入物が到達した。
「今だ。遮蔽板を打ち込め」
「ラジャー」
すると地面がひっくり返るような轟音が響いた。
ドドドドドトトーーーー
奈落の底に地球の表面が落ちて行くようである。地面が切り裂かれる。遮蔽板についたジェツト噴射機が天上に向かって高温ガスを噴射する。
「三メートルに達しました」
「五メートルに達しました」
「地下十五メートルに達しました」
**************************************************
第六回
そのとき王沙汰春警部の背広の内ポケットの中からベルの音がして、警部は背広の内側
をのぞき込み、警察無線の機械を取り出すとイヤホンを耳にはめようとしたがソファーの背もたれ越しに刑事たちの方を見ていたチャーミー石川がそのイヤホンを鷲掴みにすると思い切り強く引っ張ったのでイヤホンは機械本体から抜けてスピーカーの方から本部の方からの連絡が丸聞こえだった。
「君は何をするんだ」
王沙汰春警部は顔を真っ赤にして怒った。
するといつものように身をよじってチャーミー石川が絶叫した。
「警察は市民に全部の情報を提供する義務があります」
「なにを言うんだ。君はこの切羽つまった状況において」
「もうわたしたちは銀行強盗の情報をつかんでしまったんですわ。私たちにももっと詳しい話を教えてくれるべきですわ」
矢口まみりの隣に座っている井川はるら先生は王沙汰春警部の顔を非難している表情を向けると、矢口まみりもその隣に座っているスーパーロボ、ヤグチマミリ二号も同意して首を同時に傾けた。
「そうなり」
「ソウナリ」
ここでヤグチマミリ二号の容姿のことを詳しく語っていないのでもう少し詳しく話すと姿形は矢口まみりにうり二つである。そして出かけるときの服装もまみりに合わせているので仮面がなかったら、まるで矢口まみりである。しかしスーパーロボの方は仮面を被っている。仮面というとリオのカーニバルで目のまわりを隠すものを想像するが、怪傑ゾロのようなものでもなく、それは頭の上半分をすべて覆い尽くすヘルメットのようなものである。かたちとしては手塚治虫のビッグエックスの被っているものを想像して欲しい。頭を覆っていれば目が見えないわけであるが、ヘルメットの前部には目の玉の見えるようにふたつの穴があいている。そこからまみりと同じ神秘的な黒い宝石のような目がのぞいている。もっと感じをつかむためには藤子不二夫のパーマンに出てくるパーマン三号を想像してくれればいいかも知れない。しかし、パーマンと言ってもわからない人も多いかも知れない。パーマンというのは宇宙人が地球平和のために地球上で五人の子どもを選び、そのうちの一人は猿であるが、スーパーマンに変身するアイテムを与えたものである。そのヘルメットを被ると怪力を生じ、マントをあおると空を飛び、海にもぐるときは胸につけたバッジを口にくわえて呼吸する。そのヘルメットはスーパーロボのヘルメットに似ている。そしてそれらのアイテムがなくてもスーパーロボは人間を越えた物理的能力を備えているのである。
「返してあげないわよ。もっと詳しく銀行強盗の計画について教えてくれなければ」
ボーイが刑事たちの方を急に振り向いた。刑事たちを銀行強盗の犯人だと思っているのかも知れない。狂信主義のチャーミー石川はイヤホンをつかんだまま放さない。手のひらの中に丸まったイヤホンが入っている。
「ピー、王沙汰春警部、王沙汰春警部、やぶさか寺包囲の布陣は配置し終わりました。どうぞ。ピー」
スピーカーの向こうから本部の割れた声が入って来た。警部はマイクを握ると怒鳴った。
「これから重要な交信は一切するな。わかったな」
「ピー、どうしてですか。ピー」
「どうしてもだ」
「ピー、隠密怪獣についてもですか。ピー」
ここで警部は癇癪を起こして無線機を机の上に叩きつけようとしたが急に思いとどまった。ゼリーのような透明な赤紫色をしたぶよぶよの手の平くらいの大きさの人型のものを取り出すと喫茶店の床の上にめんこのようにして叩きつけると、ペチンという音がしてブルブルと揺れている。
「あー、すっきりした」
これがつんくパパが警視庁に納入した発明品の中で唯一、役に立っている、鬱病解消のためのペッチンプルプルめんこというものだった。
「警部、わたしの発明品を使ってくれましたね」
つんくパパがまだ床の上でプルプル揺れているゴム製品を見ながら満足気につぶやいた。それからすぐに顔を上げて警部の顔を見た。そのゴム製品の顔は新垣の顔をしていた。
「君が警視庁に納入している発明品の中で役に立っているものはこれだけだよ」
「すごい、矢口のパパ、警視庁の捜査の役に立っているんだ」
チャーミー石川が相変わらず物事の本質を理解していない皮相な海の上にもやっている霧や風が巻き起こすさざ波を見てこれが海そのものなんだと思うように素っ頓狂に声を上げた。チャーミー石川の愚言を聞いて矢口まみりとスーパーロボヤグチマミリ二号はげっぷをした。この前もある男とチャーミー石川たちと酒を飲んだとき、石川が酔っぱらって矢口の家のソファーで二時間の熟睡のあと、急に目を覚まして、体温計を持って来てほしいと叫んで、あわてて上着を脱いで鶯色のモヘヤのセーターの下から腋の下に体温計を滑り込ませて、妊娠したのではないかと大騒ぎをしたときと一緒ではないか。チャーミー石川は男と手を握り合っただけだと説得したときと同じようにプッチンプルプルめんこに感動するチャーミー石川に冷水を浴びせてやりたい気持ちのする矢口まみりなのであった。
しかし、つんくパパはこの事実に十分な意義を見いだしているらしい。
「警部、やはりわたしの発明は役に立っているらしいですね」
「まあな」
「井川先生も仰っていますが、警部が私たちが漏れ聞いた今度の銀行強盗事件の計画について教えて欲しいものですね。そうしないと今度の捕り物騒ぎのことを大騒ぎで街中で言いふらしてしまいますよ。僕は口が固いんですが、ここにいるチャーミー石川は何でもへぼらべらとしゃべってしまいますからね」
「全く、ナボナのコマーシャルをやっていた頃が懐かしいよ。街を歩いていても子どもが近寄って来て、ナボナのお菓子をちょうだいと言って手を差し出して来たものだ」
王沙汰春警部は感慨深いようだった。チャーミー石川だったら、柿の種を手のひら、一握り差し出しただけで口封じをすることくらい簡単だろう。ちなみにここでわけのわからない事をほざいている私目はナボナから一銭も貰っているわけではありませんから、あしからず。
ホームベースのような顔をした王沙汰春警部は苦り切って話を続ける。本当に親から生まれ持った顔の輪郭が野球のホームベースになっているなんて生まれながら野球をするために生まれたような男であるなり。ホームランを渇仰する原初的プログラムが顔の輪郭をホームベースにしてしまったのだろうかなり。
「つんくパパ、まあ、いいだろう。君は一応警察関係者であることだし、君の知り合いなら今度の捜査の邪魔をすることもないだろう。君たちは一連の銀行強盗事件を知っているかい。ニュースでもよく報道されているわけだからな。全く捕まらない。それでいて証拠は十分に残して行くのだ。クルーガーランド金貨とか、スワジランド金貨とか、浅草の人形焼きとかだがな。もしかしたら警察の捜査を撹乱しようとしているのかもしれない。しかし、手口は簡単で単純だ。銀行の金庫の床の下までトンネルを掘って床を破って金目のものを奪って逃げて行く。犯人に計画性など見られない。防犯ブザーの電源を切ろうという算段すら立てていないからだ。しかるに防犯ブザーが鳴り出して警備員が駆けつけるとそこには床に大きな穴が開いているだけで金目のものはなくなり、犯人もいなくなっている。ものの五分もたたない犯行なのだ。それにここは東京である。パリではない。地下水道が縦横無尽に掘られているというわけではないのだ。地下から穴を掘って銀行の金庫の真下まで掘り進んで行くなら、どこかで地上から穴を掘り始めた地点がなければならない。それは大変な時間と労力がかかっているに違いないのだ。とにかくわれわれはその現場の穴の入り口から入って行き、穴を掘り始めた地点を特定することを試みた。そして驚くべき事実を発見した。現場から約三キロ離れた国に一級河川として指定された川の土手にその入り口があったのだ。そしてもっと驚くべきことには十二時間前にはそこには何もなかったことが確認されている。つまりだ。十二時間以内に三キロのトンネルを掘って十分以内にそのトンネルを移動したことを意味している。これが果たして民間人の手によってなされる犯行であろうか。そして警察ではある結論を下した。これは最新の軍事技術を用いたものに違いないと。そこで現在は自衛隊、及び、諸外国の軍隊にこの穴掘り技術についての情報を打診しているところなのだ。そしてこの特異な事件の特異性から同一犯の犯行と断定して日本珍味協会公式認定事件、第百十号事件と呼ぶことにしたのだ。そしてこの事件の匿名の犯人が自ら名乗り出たのだ。自分は隠密怪獣王と名乗ると、そして襲う銀行の場所まで宣言した。やぶさか寺裏、なごみ銀行を襲うと。そこで警察は最大規模の人員を配置した。機動隊、千五百人をだ」
「機動隊、千五百人ですか」
つんくパパはチャーミー石川にも負けないくらい素っ頓狂な声を上げた。
「千五百人もどうやって集めたんですか」
「それは秘密だ。無限機動車を二十台。その上には地上攻撃用ミサイルも載せている。自衛隊、四谷大隊の協力もあおいでいるのだ」
「まあ、素敵。そんな大捕物に参加できるなんて」
チャーミー石川がピンク色の声をあげる。
「チャーミー、不謹慎なり」
「そうなり」
矢口まみりは夢遊病者のような石川のそでを引っ張った。
そのとき、王沙汰春警部の前に座っていた刑事のひとりが急に真面目な顔になって、王警部の方を向く。
「警部。隠密怪獣王包囲大作戦の準備が整ったそうです。なごみ銀行に向かってくださいという報告です」
「よし」
王沙汰春警部は首をろくろく首のようにゆらゆらと揺らして立ち上がった。それはまるで亡くなった林家正蔵のようだった。人情噺をよくし、林家彦六と名乗っていたが正蔵をついだ頃から枯淡の味にさらに磨きがかかり、落語の世界を支えていた老人である。芸の隔世遺伝という話はあるかも知れないが全くの他人にこの首をゆらゆらと揺らしながら、水死人が幽霊となって頭を上げていくというわざをよく受け継いだものである。王警部の首は大まかに巻かれたばねで出来ていて、その頭は中身が空っぽのはりこで出来ているようだった。よしと言った言葉にもビブラートがかかっていて、まるで病の床でふせっている百才の老人のようでもあった。
「ついてくるならついてこ~~~~い」
五人が警視庁のパトカーに乗ってなごみ銀行のそばまで行くとそこには世にも異様な光景が広がっていた。
「これはなんなり」
矢口まみりは絶叫した。
「こんなブルドーザー。パパも見たことがないよ」
そこにはキャタピラがあって前の部分に土を押しのける部品のついているブルドーザーが道路の中央にも、駐車場の中にも、それに人家の庭の中にも、やぶさか寺の墓地の中にも停まっている。その様子は偉観であった。そしてそのブルドーザーの大きさも半端じゃなく、第二次世界大戦のときにドイツ軍が血迷って制作したキングタイガー戦車並の大きさだったのだ。
「なんで、ブルドーザーを用意しているなり」
「フランス人形ちゃん、これがブルドーザーに見えますかな」
王沙汰春警部は得意気だった。
「これが現代の軍事技術の粋を合わせて作られたもぐら退路遮断無限軌道車であります。全部で十八台あります。敵が地下本営にトンネルを掘って進んで来たとき、そのトンネルを遮断するために制作されたのです。これで三百六十度。隠密怪獣王がトンネルを掘ってなごみ銀行の金庫までやって来てもこのもぐら・・・・で退路を遮断するのだ。この全面にある超硬質遮断板で地下十数メートルのトンネルまで二分で達することが出来る。銀行の金庫の防犯ブザーが鳴ったらこの十八台のもぐら・・・が隠密怪獣王の退路をふさぐのです。隠密怪獣王はふくろのネズミでありま~~~~す」
王沙汰春警部はいつのまにか、林家正蔵師匠になっていた。
「素晴らしいわ」
チャーミー石川は腕をねじってあこがれの人にでも出会ったように喜んでいる。
「この歴史的捕り物にまみりちゃんと一緒に立ち会うことが出来るなんて幸せだわ」
井川はるら先生は矢口まみりのの手を握った。つんくパパは発明家としての興味からか、もぐら・・・・のそばに行ってこまごまと観察している。
矢口まみりは人の家の庭にまで、寺の墓地にまでこんなものを置いていいのかしらと思った。
「警部、東京都や国土交通省の許可を得たのですか」
「そんなものを取る必要があるか。相手は十二時間で三キロのトンネルを掘る怪物だぞ。それより、こっちへ」
王沙汰春警部のあとについて行くとテントが張られていて観測機械が置かれている。まわりには迷彩服を着た自衛隊の隊員が忙しく機械をいじっている。
「このステックをいじくると」
王沙汰春警部がテント小屋の中に置かれている機械をいじくると自走車に積まれている地対地ミサイルが自由に位置を変える。上下に動いたり、くるくると回転したりする。その横にはDANGERと書かれた赤いボタンが置いてあってふだんはアクリルのカバーが被さってあるのがそのカバーもはずされている。ちょうどそのときチャーミー石川の足下にバナナの皮が落ちていた。しかし、その皮も少し厚みがある。チャーミーの乞食根性にむらむらと火がついた。「そうよ。この厚み。バナナは半分しか食べられていないのだわ。半分はバナナが入っている。とらなければ。とらなければ」チャーミー石川は落ちているバナナを拾い食いしようと思って身をかがめた。それをスーパーロボが横から取ろうとした。チャーミー石川は取られまいとして足でバナナの皮を踏む。落ちている十円を見られずに取るとき足で踏んづけるあれだ。しかし、真実はバナナは皮だけだったのだ。皮を踏んだチャーミーの重心はゆがんだ。「おっととと」チャーミーはよろけた。そして転ばないために前に移動する。その方向には地対地ミサイルの発射ボタンがあった。チャーミーはボタンの上に手をついた。
「やっちゃった」
矢口まみりが振り返るとミサイルの噴火口からジェット噴流がほとばしり、筑波山の方に飛んで行った。
王沙汰春は渋面を作った。
「この事実はここにいる者だけが知っている。このことはなかったことにしよう」
こういうのをチャーミー的健忘症というのだろうかと矢口まみりは思った。井川はるら先生は何事もなかったように雑巾で機械が置かれているテーブルの上を拭いている。その次の新聞には筑波山の方にある健康牧場というところにある牛小屋に謎のミサイルが飛び込んで牛が十数頭、死んだという記事が出た。 「それより、こっちに来て」
王沙汰春警部が開けっぴろげになっているテント小屋の隣に中が見えないようになっているもうひとつの方のテント小屋の方に連れて行った。
「潜水艦の中みたいなり」
その中はまるで潜水艦の司令室のよう。
丸いレーダーが置かれてコンパスの針がくるくる回るようになっていてときどきピカピカと光る。
「これが地下探索レーダーである。なごみ銀行の周囲十キロの範囲の異常をすべて映し出す」
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人間とチンパンジーの遺伝子の違いは?
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人間とチンパンジーの遺伝子の違い
人間とチンパンジーは、遺伝子レベルで見ると非常に近い存在です。 しかし、この僅かな遺伝子の違いが、私たちとチンパンジーを全く異なる生き物にしています。
遺伝子の違いがもたらすもの
形態: 体格、顔の構造、脳の大きさなど、身体的な特徴に大きな違いが見られます。
生理機能: 代謝、免疫システム、神経系など、身体の機能に違いが生じます。
行動: 社会構造、コミュニケーション、学習能力など、行動様式に大きな違いが見られます。
具体的な遺伝子の違い
全ゲノム配列の違い: 全体の遺伝子配列を比較すると、約2%の塩基配列が異なっています。この小さな違いが、積み重なって大きな表現型の違いをもたらしていると考えられています。
遺伝子発現のパターンの違い: 同じ遺伝子を持っていても、その遺伝子がどの程度活発に働いているか(遺伝子発現)に違いが見られます。特に、脳の働きに関わる遺伝子の発現パターンに大きな違いが見られます。
遺伝子の構造の違い: 遺伝子の構造そのものが異なっている場合もあります。
なぜ、僅かな違いが大きな差を生むのか?
遺伝子の働き方: 遺伝子は単独で働くのではなく、他の遺伝子との相互作用によって形質を決定します。そのため、一つの遺伝子の小さな変化が、他の遺伝子の働きに影響を与え、結果として大きな変化を引き起こすことがあります。
非コード領域の重要性: 遺伝子には、タンパク質をコードしない非コード領域が存在します。この非コード領域は、遺伝子の発現を調節する重要な役割を担っており、この部分のわずかな変化が、遺伝子の働きに大きな影響を与える可能性があります。
研究の現状と今後の展望
近年、ゲノム解析技術の進歩により、ヒトとチンパンジーの遺伝子の比較研究が活発に行われています。これらの研究から、ヒトの進化の過程でどのような遺伝的な変化が起こったのか、そしてそれらの変化がヒト特有の能力や特徴にどのように関わっているのかが少しずつ明らかになってきています。
しかし、まだ解明されていないことも多く、今後の研究によって、さらに詳細な情報が得られることが期待されています。
まとめ
人間とチンパンジーは、遺伝子レベルでは非常に近い存在ですが、その違いが私たちを異なる種へと進化させてきました。遺伝子の研究は、ヒトの進化の謎を解き明かすだけでなく、様々な疾患の治療法開発にも繋がることが期待されています。
より詳しく知りたい場合は、以下のキーワードで検索してみてください。
ヒト ゲノム比較
霊長類 進化
遺伝子多型
遺伝子発現
もし、特定の遺伝子や形質について詳しく知りたい場合は、お気軽にご質問ください。
補足:
ヒトとチンパンジーの遺伝子の違いは、約2%とされていますが、この数字はあくまで平均的な値であり、遺伝子によって違いは様々です。
ヒトとチンパンジーの脳の構造や機能には、大きな違いが見られます。特に、前頭葉の大きさと複雑さは、ヒトが高度な認知能力を獲得する上で重要な役割を果たしていると考えられています。