ス-パ-カ-女刑事  第3回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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ス-パ-カ-女刑事  第3回

「えなり田かずきくん、この車がすごいと君は言っていたね。ただ四百キロのスピードが出るということがこの車の素晴らしさではないんだわよ」
えなり田かずきには松浦田あややの言っている意味がわからなかった。
「このスイッチを押すと前方何メートルさきが車が入れる余裕があるか赤外線探査装置でわかるのよ」
そう言ってあややがスイッチを入れるとモニターの中に何台もの車が赤外線写真のように映し出された。
「これだけじゃないのよ」
松浦田あややはそう言うとハンドルの中に付いているレバーを操作した。するとどういうことだろう。
えなり田かずきは身体全体にものすごい逆重力の力を感じた。デトマソ スピードスターM530の窓の両側を見ると何もない。
今度は彼は無重力を感じた。そして軽い衝撃を感じて前後を見るとさっきいた車とは違う。
そうだ。この車は高速道路の上をジャンプして走りながら五,六台の車の上を飛び越えて
また高速道路の上に着地したのだ。なんと言うことだろう。交通協会がこんなことを許すのだろうか。そしてそれはこの車の中に入っている圧搾ガスの噴出装置によってなされていたのだ。
「えなり田かずきくん、よくつかまっているのよ」
えなり田かずきはまたダッシュボードの出っ張りを強く握った。すると松浦田あややはまた例のレバーを握った。
デトマソ スピードスターM530はまた空中をとび上がった。それを五、六回やると前後の車の間隔はあき、松浦田あややの愛車は高速道路本来のスピードで走り出すことが出来た。そして車がジャンプするたびにあやのおっぱいはぶるんぶるんと震えた。えなり田かずきはいいものを見たと思った。それと同時に、えなり田かずきは何故パトカーが追って来ないのか不思議だった。*********************************************************
軽井沢の高級別荘のいっかく、その事件の現場に着くとそこにはパトカーが二台停まっていて赤いサイレンが夜目にも明るく見えた。
その別荘はまるで古い教会のような感じの白い建物だった。
屋根の一つは赤い円錐の丸屋根がついていて、避雷針の代わりに十字架がついていればほとんど教会だった。
その教会みたいな別荘から二百メートルぐらい離れた場所は周囲数十キロキロぐらいの湖になっていて、その湖にはボート乗り場も付いており、ボートも十台ぐらいつながれている。文字通り湖畔の別荘である。
白い別荘の周りは警察が現場保存のために張り巡らしたロープの様子が生々しかった。
松浦田あややはデトマソ スピードスターM530をパトカーのそばに停めて、車から降りた。
えなり田かずきも車から降りた。二人はつかつかと別荘の玄関から中に入って行こうとすると鑑識の警官が二人を止めた。
「一般人はここに入ることは出来ないよ」
すると中からここの捜査を取り仕切っているらしい人物が出て来た。
「おい、いい。その二人を入れてやれ」
鑑識の警官ははなはだ不満そうだったが二人を玄関の中から入れた。
「角田田さん、どうも、どうも」
「最初にことわっておくけどここは殺人事件の現場なんだからね。あまり俺達の迷惑をかけるようなことはしないでくれよ」
「もちろん、うちの機関も殺人事件の解明が目的ではないですからね。あくまでもうちの目的は知的財産の保護ですもの」
 この責任者の角田田と呼ばれている警部補は四角い下駄みたいな顔を少しゆがめて複雑そうな顔をした。身体は全くのマッチョマンである。
そこへ部下らしい人間がやって来た。松浦田あややはデトマソ スピードスターM530に積んであった自分でも使い方のわからない装置を取り出してそこら辺を調査していた。
「あややさん、これで何がわかるというんですか」
「硫黄の量だわよ。拳銃を使われているなら硝煙反応があるはずだわよ。当然、この家の中にも硫黄が検出されるはずだわよ」
松浦田あややは自分でもよくわからない理屈を並べてえなり田かずきを煙に巻くと彼もまたわかったような表情をした。
「ちょっと変わった話を近所の住人から聞いたんですが」
角田田信朗に報告に来た刑事は声を潜めた。
「えなり田かずきくん、これを使うのよ」
松浦田あややは補聴器のような機械をデトマソ スピードスターM530に積んであったかばんの中から取りだした。
二人がその補聴器のようなものを耳にはめると五メートルぐらい離れている警視庁の角田田信朗と部下の刑事のささやき声がよく聞こえる。東京の警察がこの軽井沢にやって来るということは何か特別なことがあるんだろう。
「角田田警部、ここの住人の話でおもしろいことを聞いたんです」
「どんなことだ」
「ここの住人の何人かは自分専用の船をもっていてよく湖の真ん中に停泊して五,六人で船上パーティをやるらしいんですが、そのとき必ず冷蔵庫の中のものがなくなったりするらしいんです」
「そのパーティに参加している人間の誰かが冷蔵庫の中のものを見つからないように食べちゃうんだろ」
「いや、そうじゃないらしいんですよ」
「そうだな、湖の中にいる魚が腹をへらしていると思って食い物を船上から恵んでやっているんだろ」
「そうでしょうか」
「そうに決まっているさ」
「それからこの近所の住民の中ではもっと変な噂が流れているんですよ。
ちょっとこの別荘人種の中で聞き込みをやって聞いてきたんですがね」
「変な噂。きっとここの高級別荘族人種のピントはずれの常識というやつだろう」
角田田の日に焼けた横顔に警察の照明がぼんやりと当たった。
警視庁警部の角田田信朗はあからさまなここの住人に対する敵意を見せながら言った。
部下の刑事はそんな角田田信朗の個人的感情も折り込み済みという感じで言葉を続けた。
「ときどきゾンビが出るなんてことを言っているようなんです」
「ゾンビ」
「ええ、あのホラー映画に出て来るやつですよ。この別荘街のはずれに有名な映画プロデューサーで最近死んだやつがいるでしょう。名前、なんて言いましたっけ」
「川浜浩三だろう」
「そうだ。川浜浩三だ。黄色い太陽の下に雪が降るなんていう前衛的な映画を撮っていましたよね」
「その川浜浩三がどうしたというんだ」
「いえ、彼自身の話ではなくて彼が死して残した大邸宅の話なんですが、そこにゾンビが出たという話なんですよ」
「くだらない」
角田田信朗はただちに否定した。
「それからもう一カ所でそのゾンビを見たという住人が何人かいるんです。目の前に見える湖のちょうど向こう側なんですが、あそこにR共和国の大使館の別館がありますよね」
R共和国は南米にある地図で見ればそこだと確認できるのだが、あらためてそこがどこにあるかと聞かれたら正確には答えられない国の部類に入る。角田田信朗は部下からその国の位置を聞かれ答えられず、
はじをかくのではないかと思ったが部下は角田田信朗がそんなことは知らないことはあきらかだと思ったからだろうか、そのことは聞いてこなかった。
「あの別館のあたりで夜中にゾンビを見たという住人が何人かいるんです」
「そのゾンビがここの住人を襲ったというなら話は別だが」
ここでまた角田田信朗は一呼吸をおくと言った。
「ほっとおけ。ここの別荘人種のひまつぶしのうわさ話だ」
「それからもう一つ疑問があるんですが、靴のあとが複数個、発見されているのですが、どうも小さな靴のあとが発見されているのです。子供の靴のあとだと思われます」
「靴のサイズなんてことよりも底についている泥の分析を行え、ここの人種以外の人間が
ここにやって来たかどうかという方が重要だ」
この会話を聞きながら松浦田あややは新しい発見をした。この別荘の前にある湖の向こう側にそんな大使館の別館があるということは初耳だった。
「えなり田かずきくん、聞いた。ゾンビが出るんですってゾンビが。
でも、わたし、女の子だからちょっぴりこわい」
えなり田かずきはどきりとした。
松浦田あややは胸の前で手を合わせて少し可愛い顔をしてえなり田かずきを見つめたからだ。
「本当ですかね」
えなり田かずきは坊主頭をふりふり、にやにやとした。えなり田かずきの意識の方向は、あやの胸の谷間への興味から、この機械が離れている二人の刑事の会話を盗み聞き出来る不思議さに、そして今更ながら日本の産業界の全技術を集結して作られたデトマソ スピードスターM530の有用性に思いが至るのだった。
「とにかく、そんなゾンビが出たとしてもだ。たとえ大使館員たちの避暑用に建てられた別館だとしても、大使館の中では日本の警察の効力も及ばないのである。そんなことより現場の検証だ。がいしゃが殺されたのは二階の寝室だったな。二階に上がるぞ」
「あややさん、警部たちは二階に上がるそうですよ」
「うん」
二人はあわてて角田田信朗警部のところに行った。
「警部、あややたちにもその現場を見せてもらえますよね。これは藤井田隆の許可を得ていることですが」
えなり田かずきは松浦田あややの横で揉み手をしている。角田田信朗は一瞬苦々しい表情をしたが言った。
「よかろう」
外側は白い教会のようなこの別荘だったが二階の寝室は北欧のサウナのようだった。
磨き上げた無着色の桜の木が部屋全体を囲んでいる。そこに置かれた椅子もベッドも桜の木で統一されている。
窓は普通よりも頑丈に作られているようだ。窓ガラスも厚いものが使われている。
そのベッドの上で被害者の李宗行は殺されていた。
彼の死体はうつぶせになって背中に今は血糊も黒く乾いた傷跡を残して、まるで肉屋につるされている肉のかたまりのようだった。
「あややさん、あややさん」
えなり田かずきは松浦田あややの横で身を隠しながらその死体をじっと見つめた。
「あややさん、なんで裸なんですか」
一瞬あややは自分の秘密のヌード写真集をえなり田かずきが持っているのではないかと思った。
しかし自分のことを言っているようではなかった。
えなり田かずきが疑問に感じるのも、もっともだった。その死体は裸だったからだ。
そして凶器はその部屋の中にはない。それにもう一つおかしいところがある。
そこは寝室なのにふとんが一枚もない。松浦田あややが目で角田田信朗に合図を送ると角田田信朗もそのことを了解しているようだった。角田田信朗は偉そうにふんぞり返った。
「素人の君が疑問に感ずるのももっともである。このがいしゃの服がなく、凶器もなく、ここにふとんもないのは何故なのか」
角田田信朗警部は窓の外に目をやると夜の闇を指し示した。
「今は夜だから見えないがあの向こうの湖のほとりに最近偶然に出た温泉があるのだ。
そこを竹で囲って露天風呂のようにした人物がいる。そしてその風呂を利用するとその人物に料金をはらわなければならない。それでその人物は結構稼いでいるようだが、これを無許可でやっている」
ここでまた角田田信朗警部は一呼吸置いた。
「その露天風呂のそばで大きな血塗られた
登山ナイフが発見された。その刃の形もこの傷口と一致する。これで結論は得られたも同然である」
えなり田かずきはこわいものでも見ているようにあややの陰に隠れると大きく目を見開いて角田田信朗の方を見た。
「つまりだ。勝手に市の許可も取らずに無許可営業していたその人物がそこを離れていると李宗行が勝手にその露天風呂に入って羽を伸ばしていた。その人物は頭に来て李宗行を刺し殺してしまった。何と言ったと思う。
ただで風呂に入るんじゃないと叫びながらだな。しかしそこで死体が発見されては困る。
その人物が死体をこの別荘のこのベッドの上まで運んだのだ」
「その人物って誰ですか」