ス-パ-カ-女刑事  第1回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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ス-パ-カ-女刑事  第1回
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 軽く近所を流して夕ご飯のちょっと前に愛車ともども松浦田あややは自分の祖父がやっている自動車修理工場の前庭に戻ってきた。
庭には松だとか山茶花だとかが植えられている。生け垣は柊の厚い葉が茂っている。植木はよく手入れされている。
 前庭はちょっとした広さがあって、そこにあるのは庭木だけではない。石膏ボードを張って作った自動車修理工場がある。石膏ボードは油で汚れている。そして緑色のおおきなドラム缶がおいてあったり、車からはずしたエンジンが置いてあったりする。
そして完成品が何台も置かれていた。
 それもただの車ではない。
この自動車修理工場の前庭には過去のさまざまな名車がリストアされて駐車している。
この修理工場の所有者、松浦田あやの祖父は過去の名車を再生させることにかけては日本に右に出る者がいないほどの名人だった。
そしてそれらの名車には実際、何十年か前のそれらの名車をそのままに復刻させるという以上のことがなされていたのだった。それはおもに性能に関してである。
 車の低いエンジン音がうなって松浦田あやが車ともども戻って来たことに気付いて祖父の松浦田善右衛門が修理工場の奥から出て来た。
「あや、M520の調子はどうだ」
「最高だよ。おじいちゃん」
可愛い顔をした女の子が車のドアから顔を見せた。そして最高だよって言うときにアイドル歌手のようにポーズをとった。
「そうだろう。そうだろう。むふふふ」
善右衛門は自分の白くなったあごひげを触りながら満足そうに笑った。
 この修理工場の車庫である前庭にこの車が入って来たときその車が三十年以上前の車でありながらスーパーカー並の地面を揺さぶるようなエンジン音を立てているのにはわけがある。
 松浦田あやが今乗って来た車は外見はデトマソ スピードスター、M530、外見はコルベットスティングレーをミニミニにした感じである。資料によればフランスの新進の航空機会社が一九六七年に開発した2プラス2、運転席と助手席の2シーターの車の後部に補助席のような二つの座席がついている。だいたいの諸性能を調べるとエンジンは水冷、四サイクル、V型、四気筒、排気量1699、最高出力、79PS,4800rpm、ミッドシップ縦置きエンジン、MR、という数字が出て来る。原型はフォードのエンジンを流用している。ほぼ同じ時期に出た車としてはロータス・ヨーロッパなどがあるがこの車は足回りが柔らかく高速巡航を得意としていた。高速では風に乗るように走った。
 三十年以上前の車であるからその当時としてはすごい諸性能を有していたが今ではちょっと高級なフアミリーカーにも負けるかも知れない。
 しかしこの修理工場の前庭に置かれているデトマソ スピードスターM530は特殊チタン合金製の5000CCのエンジンを積み、ニトロ燃料を爆発させて走り、100メートルでの加速性能は1000CCの二輪車を超え、直線距離ではフオーミュラーカーを抜きさることが出来た。なぜかと言えば、それは現代の工業技術のすべてを集結して作られた車だったからだ。その制作費は最新の航空ジェット戦闘機一台分にほぼ匹敵する。松浦田田あやはまだ運転席に乗り込み、そのシートの感触とハンドルの握り具合を味わっていた。祖父の松浦田田善右衛門は外から車内のインストールパネルのセンターコンソールに埋め込まれたラジオを指し示した。
「あや、このラジオのチューニングスイッチの横に付いているボタンじゃが」
「おじいちゃん、押してもいいの」
松浦田あやは目をぱちくりさせながらそれを見た。
「押して見ろ」
「おっ、インディケーターが点灯したわよ」
松浦田田あやが言ったようにラジオのパネルが青く発光した。そして室内には音楽が流れ出した。
「そうしたら、このスイッチを二秒間、押し続けるのだ」
松浦田善右衛門はあややがそのスイッチを押す前に自分でそのエンジニア特有の節くれ立って油で黒く汚れた指でそのシルバー色のスイッチを押した。すると車内には韓国語の洪水が流れ出した。
「それからこのJPという設定に合わせるのじゃ」
善右衛門がスイッチを押すとパネルにJapanという文字が表れて車内に流れていた韓国語は突然日本語に変わった。
  ***36号車、36号車、金浦空港から逃走した犯人は国道を使って仁川の方面の方へ逃走中、ただちに追跡せよ。*****松浦田あややはスイッチを消した。
「じいちゃん、これ韓国の警察無線じゃない。韓国の警察無線なんか聞けたって意味ないわよ」
あやは怒った表情を彼女のくりくりした目で表現した。
「わしに聞いたって、そんなことわかるか。装備してくれって頼まれて、わしゃあ、
電源コードをつないだだけじゃからな。しかし韓国だけじゃないぞ。中国だって、ハワイのだって入るわ。電波状態がよければアラスカだって入るわ」
また善右衛門がスイッチを押そうとしたので松浦田あややはあわてて止める。
「わー、すごい、」
道路の方から喜んだ声が聞こえて、坊主頭のひ弱そうな中学生がやって来て車の中をのぞきこんだ。
松浦田あややはこの中学生に水泳の個人教授を、この夏、したことを思い出した。胸元がひどく切れ込んでいて胸の谷間が見える水着だった。別にこの中学生を誘惑するつもりではなかったが、きっと自分のショッキングな水着姿を彼の目に焼き付けたに違いないと思った。
「あややさんこれが話していたデトマソ スピードスターM530ですか」
「そうよ」
松浦田あややが得意そうに言うと祖父の善右衛門がここぞとばかりに得意そうに顔を伸ばした。
「わしが作ったんじゃ。ぐふふふ」
「かずきくん、落語研究会は今終わったの」
「そうなんです。今度、うちの中学の文化祭で目黒のさんまをやりますから聞きに来てくださいよ。
それにしてもすごい車だな。最高で何キロぐらい出るんですか」
「直線で坂じゃなければ400キロ」
松浦田あややがまた得意そうに言った。
「ええ、すごい400キロ、」
また坊主頭の中学生は驚きの声をあげた。
「この車にも驚きましたが、こんなすごい車の運転のできるあやさんにも驚いてしまいますよ。僕、尊敬しちゃうな」
この中学生、えなり田かずきがそう言うと松浦田あややはまた得意そうに鼻の穴を広げた。
「あやや、何、得意がっているんじゃ、この車を作ったのは誰だと思っているんじゃ。
もう、この未熟者めが。ほらほら緊急連絡信号が入っておるぞ。スイッチを入れんかい」
「じいちゃん、緊急連絡信号のスイッチってどれなのよ」
その様子をこの坊主頭の中学生はにたにたとして見ている。
たとえこの中学生に何かの悪意のある部分があってもこの純朴なキャラクターのため誰でも騙されてしまうかも知れない。
本当はえなり田かずきはあややのでっかいおっぱいに興味津々なのである。
「そんな面倒な場合もあるからだ。お前がこの車の捜査を忘れたり、お前が車から離れて緊急連絡信号を受け取れない場合のことじゃ。こんなものを渡されたのじゃ」
じいさんは孫に銀色の携帯電話を差し出した。
「じいちゃん、ただの携帯電話じゃないか」
えなり田かずきもその携帯電話をのぞき込んだ。二つ折りのどこででも見ることのできる携帯電話だ。
「緊急連絡信号を受信するのはもちろんだが、たとえお前がこの車から離れた場所にいたとしてもその携帯電話の信号を受けてデトマソ スピードスターM530は自動操縦でお前のところに行くだろう。あの人がそう言っていたわ」
ちょうどそのとき、その銀色の携帯電話のアンテナが赤く点滅している。
「あやや、何をしているんじゃ、早く電話に出んか」
「普通の携帯と同じ使い方でいいの」あ
やは携帯電話をのぞき込んでいる。
「そうだろう」
「なんだ、じいちゃん、知らないの」
「うるさい」
じいさんの雷が落ちないうちに松浦田あややは二つ折りになった携帯を広げると耳につけた。
「もしもし」
「あややくんか。藤井田隆だが、緊急事態が発生した。すぐに軽井沢に向かってくれ」
何かせっぱつまった調子の声が聞こえてくる。その声はエキセントリックでもある。あやは藤井田隆の斜め宙を睨んだインドの悪役レスラーのような常軌を逸した動作を思い出した。
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