電人少女まみり  第41回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第41回
下のホールでゴジラ松井捕獲プロジェクトの連中は明日の競馬の予想をやったり、
今日乗った列車が途中で停まった駅で買ったあんず餅という名産品がどこで作られているかを話したり、
高橋愛が今度、モータウンから出すシーデージャケットの表紙の話題になって、
今度、撮影で高橋愛がグアムに行くんじゃないかという話題やあれやこれや、いろいろな話題で盛り上がっていたが、
徳光ぶす夫とほーちゃん、くーちゃん、そして新垣の四人は二階の自分たちの部屋で今日、列車の中で見た信州の風景を残そうと思い、
ちぎり絵の制作にはげんでいた。徳光ぶす夫はあまりにも熱心になりすぎて、額から汗が出て、ランニング一枚になって、
ちぎり絵の色の要素となる色紙を細かく、ちぎって、やまとのりを紙の裏に塗って台紙となる画用紙の上に張っている。
その様子をほーちゃんとくーちゃんはじっと見ている。ほーちゃんもくーちゃんもちぎり絵を見るのは初めてのようだった。
こんなふうにして絵が出来るのだとは信じられないのかも知れなかった。
むしろその絵をじっと見てこの作業に集中している徳光ぶす夫の視線のさきに何か素晴らしいものがあるのかも知れないと誘導されて、
ほーちゃんもくーちゃんもそのちぎり絵の出来ていく様子をじっと見ているのかも知れなかった。
しかし、新垣だけは何もしないのに自分の歯が自然と自分でもわかるように生えていくのが、その中でも特に犬歯が生えていくのが、
気になるのか、床柱をがりがりと首を斜めにして、かじっていた。
 そのちぎり絵の制作の途中で徳光ぶす夫は目をまん丸に開けて、手をぱんと叩くと、あたりを見回した。
「ほーちゃん、うす茶色が足りないよ、そうだ、台所にある、玉葱の皮を持って来ておくれよ」
そう言われて、ほーちゃんはまかない場に降りて行った。そこに行くと、亀井、道重、
田中の気味の悪いおばあさんたちが湯気の他っている大釜の前で赤ちゃんの頭ぐらいの大きさのあるしゃもじで、鍋の中をかき回していたり、六十センチもある野菜包丁で骨付きのいのししの肉をきざんでいたり、草餅みたいなうどん粉の大きなかたまりを両手で持ち上げて、下にたたきつける動作を繰り返していた。
「玉葱の皮が欲しいだって、玉葱の皮なんて、いくらでもあるから、持っていきなよ。グフフフフフフ、なあ、田中れいなおばあちゃん」
「いい色だろうて、なあ、道重おばあちゃん、グフフフフフフ」
「よく、乾燥しているから、いい塩味が出るだて、亀井おばあちゃん、グフフフフフフフフ」
人間ではない、ほーちゃんだったが、あんまりにも気味が悪かったから、その乾燥した玉葱の皮を片手の手の平に
いっぱいに握るとそのまま二階に駆け上がって行った。
 そして徳光ぶす夫の待っている部屋に戻るとき、剣聖紺野さんが騙されて眠り薬で眠らされている部屋の前を通ると
閉められた障子の前から地鳴りのような低い音が微かに聞こえていた。そして紫色に微かな光が内部から発生している。
 徳光ぶす夫のいる部屋に戻ったほーちゃんは、そのことを徳光ぶす夫に報告した。
「なんだって、ほーちゃん、剣聖紺野さんの寝ている部屋で変な現象が起きているって」
徳光ぶす夫はほーちゃんとくーちゃんをつれて、見に行くことにした。何も言わないのに、神官新垣もついて来た。
 その部屋の前に行くと確かに障子はきっちりと閉められているが、低い地の底から聞こえるような祈り、
いや呪詛のような声が聞こえる。それから、障子に紫色や赤色、青色、いろいろな光が投影される、
それはまるで幻覚病者の頭の中のようだった。
徳光ぶす夫はぞっとした。
「徳光さん、宴会の準備が出来ました」
高橋愛が下から呼びに来たので、その気味の悪い現象の解明は遠慮して下に降りて行くことにした。
 下の宴会場のふすまを開けると、ゴジラ松井捕獲プロジェクトの連中は勢揃いしていて囲炉裏の前であぐらを組んでいた。
障子を開けて徳光ぶす夫たちが、その宴会場をのぞくと、その場にいたみんなが徳光ぶす夫たちの方を見た。
 ちょうど王警部の隣の席が四人分、開いていたので徳光ぶす夫はその席に座ることにした。
囲炉裏の中にはあの不気味三婆が用意したらしく、炭が赤々と燃えている。
それぞれの席の前には田舎の料理屋らしく、なんの塗装もされていない木目のままのまな板が置かれて、
その上に小皿に盛られた料理やお燗をしたとっくりがのせられている。
囲炉裏の中の炭の前には串でさした海老や魚、そして肉が刺してあって、焼かれて、おいしそうな汁が灰の上にたれた。
 みんなが風呂に入っているあいだに不気味三婆が用意したのだろう。
まみりの横には石川と石川の弟がいた。その横には吉澤が座っている。不良たちは箸で皿の中の料理をつっいていたりする。
藤本の隣には井川はるら先生が座っている。やはり高橋愛の隣には新庄芋が座っている。
新庄芋の隣にはつんくパパが、そしてその隣にはダンデスピーク矢口が座っている。ダンデスピーク矢口の隣には安部なつみ先生がいた。
その横には村野先生が座っている。みんなが大きな囲炉裏を囲んでいる。そこにはもちろん、あの剣士はいなかった。
剣聖紺野さんは自分の部屋で仰向けになったまま、寝たままだ。その紺野さんの部屋の異常に気づいているのは徳光ぶす夫だけだった。
 不気味三婆はその様子をうすら笑みを浮かべて眺めている。
三婆は三人とも丸いお盆を持って、お盆の中にはとっくりが何本も立っている。
 まみりは灰の中に刺された蛸の足が炭火の熱で縮んでいくのを見ていた。
一同が揃ったのを見計らって、王警部は立ち上がると酒の入った杯を胸の前に上げた。
「みなさん、とうとう長い捜査のかいがあって、ゴジラ松井を逮捕する日が近づいています。
エフビーアイ捜査官、新庄芋氏はゴジラ松井が日本に上陸する前からゴジラ松井の蛮行を裁く日を待っていました。
その新庄芋氏の正義と平和を望む信念も報われようとしています。新庄芋氏は家族の尊い命も失われてしまいました。
その尊い犠牲によって、ゴジラ松井も逮捕されようとしています。
日本にゴジラ松井が上陸してから、われわれ警察は苦々しい日々を過ごしてきました。
しかし、ここにいるまみりちゃんのパパの作ったスーパーロボによってゴジラ松井はわれわれに逮捕されることは確実になりました。
それも、この超古代マヤ人を三匹も確保することが出来たという僥倖のおかげです。
ゴジラ松井の魂胆はわれわれ人類を戦慄せしめるものです。この地球のすべてを水没させようという。
しかし、われわれは枕を高くして眠ることが出来ます。まもなく、この人類の脅威は取り除かれようとしています。
今宵はこの幸運と叡智に感謝して、杯をあげましょう」
王警部が杯を頭上に上げると、その場にいるみんなも杯を上げた。そして杯を飲み干した。
「みなさん、みなさん、無礼講です。無礼講です、さあ、酒を飲んでください」
つんくパパが声を上げて、酒をついで回っている。つんくパパはどういうわけか、不良グループの方までに足を延ばしている。
飯田と保田が小皿の中のひじきの胡麻和えをつっいている中に割り込んで入って行った。両人の顔を見上げながら、
「きみたち、お金、儲ける気、ない、きみたちなら儲けられると思うんだけど」
そう言いながら、飯田と保田が開けた杯の中に酒をついでいる。
「まみり、見て、見て、まみりのパパが飯田と保田にお酌しているよ」
それを見てまみりはむかむかした。
「パパは何をやっているなり、よりによって、飯田と保田なんかにお酌して、何をやっているんだなり」
「まみり、行って文句、行ってくれば」
「いいんだなり、そんなことまでしなくてもなり」
そのあいだじゅう、ふだん、食っていない石川の弟は飯台の上の料理をがつがつと食っている。
つんくパパはやたら、活動的になっていた。飯田と保田のあいだに入っていたと思ったら、
今度は加護と辻のあいだに割り込んで行って、そうでげしょ、そうでげしょ、などと言って、さかんに相づちを打っている。
徳光ぶす夫はほーちゃんとくーちゃんに酒を飲ませたらしい。囲炉裏のあいだを駆け回っている。危ないことはなはだしい。
となりのアダルト石川に話しかけようと思って、まみりは石川の方を見ると、そこには石川はいなかった。
石川の弟が松の葉に刺した焼き銀杏を囓っているのが見える。
石川はどこだと思っていると、王警部の横に座っていた。
それも座っているだけではなく、足をくずして、王警部に酌をしている。
「王警部、王警部って、近くで見ると、いい男ね、わたしのお酌で一杯、どうですか。うーん」
アダルト石川はため息までもらした。
アダルト石川は唇を突き出すと王警部の方ににじり寄って行った。思わず王警部もあとずさりをしている。
徳光ぶす夫は新垣にも酒を飲ませたに違いない。新垣もよっぱらつて床の間の柱に何度もきつつきのように頭突きをかましている。
新垣の心の中では自分は相撲取りになったつもりかも知れない。
 アダルト石川はどこからか、トランプを撮りだしてきた。
「王警部、指を出してくださらない」
王警部が手を出すと、アダルト石川は王警部の指のさきをふれた。意外と柔らかい。
「王警部、わたし、エスパー石川は相手の指に触れると、その人の運命を占うことが出来るんです」
そして指のさきを握ると目を閉じた。
「見えます、見えます。あなたの恋愛運が」
アダルト石川の占いは恋愛占い専門だった。そしてその運命の相手というのも自分自身、石川梨花だと結論づけるのだった。
さっきから小川の姿が見えない、どうしたのだろう、と、まみりは思った。
すると、ふすまが開いて、小川が姿を現す。それも、鈴の音がいくつも聞こえる気がした。小川は日本髪を結って、振り袖まで着ている。
「日本舞踊をやります」
「やめちまえ」
「引っ込め」
不良たちから一斉に声が挙がる。
「やってー、やってー、小川ちゃん」
「見たい、見たい、小川ちゃん」
男たちが拍手をした。そして、小川が日本舞踊を踊り出した。髪にさしたかんざしがきらきらと輝いている。
村野先生とダンデスピーク矢口はその様子をうっとりとした目で見つめている。
この田舎屋のかもいに槍が飾ってあるのをよっぱらった藤本が見つめた。すっかり酔っぱらった藤本ははるら先生の隣に座っていたが、
超人的な能力を見せて猿飛佐助のように十メートルの距離の空を飛んで、かもいの長槍をつかむと見事に着地して黒田節を踊り始めた。
槍の穂先がきらりと何度もきらめいてまみりの顔先をかすった。新垣も刺激を受けたのか、大きな囲炉裏の上、
七十センチのところを部屋の隅から炭までロープウエーのように行ったり来たりしている。
 石川の弟に至ってはどこから持って来たのか、登山家が使う、ガスストーブをどこからか、持って来て牡蠣鍋を作っている。
安部なつみ先生はタッパーをかばんの中から取りだして、しらすおじやという離乳食みたいなものを中につめこんでいる。
「安部なつみ先生、なんで、そんなもの詰め込んでいるなり」
「矢口、わたしの赤ちゃんに食べさせようと思って」
「そんなこと、聞いていないなり」
安部なつみ先生は完全に想像妊娠をしている。
「わたしたちのお料理、満足したかや」
まみりはぞっとしてうしろを振り返ると三婆、亀井えり百十七才、道重さゆみ百十六才、
田中れいな百十五才がエジプトの古代王がミイラから生き返ったみたいになって、じっとまみりの方を見ているので気味が悪かった。
それにもまして、この宴会の馬鹿騒ぎがいまいましかった。
それ以上につんくパパが不良たちのあいだだけではなく、安部なつみ先生のところに行き、
なつみ先生を誘ってチークダンスを踊っているのは顔が赤くなるほど恥ずかしかった。
「パパ、やめてよ、よその女の人とチークダンスを踊るのは、やめてなり。まみりはママの子なり」
この宴会の馬鹿騒ぎから逃れ、夜風を浴びて、頭をすっきりさせようと思って、ベランダの方に出ると、
そこには井川はるら先生が立っていた。
「はるら先生」
「まみりちゃん」
「また、石川が男を騙そうとしているなり。神様、アダルト石川に罰をお与えくださいなり」
「まみりちゃん、だめなのよ、石川はアダルトだから」
「だめなりですか、石川は」
「生まれつきの性癖ね」
「環境的なものはないなりですか」
「石川は横須賀の女よ」
「そうなりか」
「それより、あの馬鹿騒ぎに一番、重要な人がいないわね」
「誰なり」
井川はるら先生は夜の海の向こう、見えない敵を見ているようだった。深海の中でゴジラ松井はどんな力をたくわえているのだろう。
不気味だった。
「誰なり」
まみりはふたたびはるら先生に尋ねた。
「剣聖紺野さんよ」
そのとき、神のみぞ知る運命の調べを奏でる楽器が鳴り響いた気がまみりはした。
そうだ、剣聖紺野さんは不気味三婆の調合した眠り薬で眠らせられている。
そうだ、有機生物の中でゴジラ松井くんに対抗できる、地上生物は剣聖紺野さんしか存在しなかったのだと、まみりはあらためて思った。
その紺野さんをこの一大事に眠らせていて、一体どうするというのだ。
「みんな、油断しすぎているかも知れない。絶対にスーパーロボがゴジラ松井くんを逮捕できるなんて、
どうして結論づけられるというの、まみりちゃん」
「みんな、馬鹿騒ぎをして、何を考えているのかなり。同意なり」
「剣聖紺野さんをこのプロジェクトからはずしているということが吉と出るのか、凶と出るのか。この広大な海の向こう、
数万マイルの海底の中でゴジラ松井くんはこの石川県のゴジラ松井記念館の横に
急遽立てられた火星ロケット打ち上げ台に進入する機会をうかがっているのね」
黒い日本海が人間の能力では把握出来ない世界のようにうねっている。
「あれは、なに、まみりちゃん」
「どれどれ、はるか先生」
遙かかなたの日本海の向こうの方が青いオーロラのように輝いている。
そして海の表面から点と見えるものが飛び出すと一直線にこちらに向かってくるではないか。
「なんなの、あれは、まみりちゃん」
「わかんないなり、なんなり、なんなり」
それはものすごいスピードでこちらに向かってくる。オートバイくらいの大きさのもののようだった。
遠くにあったときはそれがなんであるか、全くわからなかったが、それは巨大なソフトクリームのようなものだった。
それがものすごいスピードで飛んで来て、はるら先生とまみりの頭上を過ぎて、宴会会場につっこんで行き、
どどーんとものすごい音がして部屋の中を見ると、すごい灰神楽がたち、みんなは何が起こったのかわからず、腰を抜かしている。
「平気なりか、平気なりか」
「みんな、平気」
まみりと井川はるら先生は部屋の中に飛び込んだ。
部屋の中の壁に垂直に巨大なソフトクリームみたいなもの、そう、それは槍のかたちをしたアンモナイト貝だったのだが、
突き刺さってその中身の方が顔を出している。気味の悪い古代貝の目があたりを見回した。
ゴジラ松井プロジェクトの連中はじっとそのアンモナイトを見た。するとアンモナイト貝は話し始めた。
「わたしは海底帝国ラー皇帝、ラー松井八世の使者である。明日の朝、ラー松井八世は石川県に上陸するだろう。
いかなる抵抗も無意味である。ラー松井八世を妨げることの出来るものはいない。そして神官たちを奪回するだろう。
そして地上のすべては水没して、地球はラー帝国となるのだ」
アンモナイト貝はそう言うと、自分の使命は終わったと小声でつぶやくと、ラー松井八世、バンザイ、
ラー帝国永遠なれとつぶやくと、ぐったりして、そのまま死んでしまった。
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「なんだ、なんだ、ゴジラ松井ーーー、おれたちをどこまで、こけにしたら、気が済むんだあーーーー」
王警部はそう叫ぶと、壁に突き刺さっているやり型のアンモナイト貝をぶっこ抜こうとしたが、
立ったままの姿勢ではいくら引っ張っても抜けないと思うと壁に自分自身、足の裏を踏ん張って、壁と垂直になって、
巨大なさくら大根を抜くように全身の力を入れた。すると、アンモナイト貝は壁から抜けたのだが、
王警部の屈強な身体も畳の上に落下した。しかし、その反動でその巨大なアンモナイト貝はオリンピックに出場した体操選手のように
、空中で三回転すると囲炉裏の赤々と燃えている炭の上に落下して突き刺さり、もうもうと灰神楽が立ち上った。
 畳の上に一メートルの高さから、落下した痛さも忘れて、王警部は立ち上がると、勝利したように腰に手を当てると、
「ゴジラ松井、変なものを使者にたてて、見ろ、こんな小細工をしても、こうなるんだ。ウワハハハハハ」
酒に酔っていることもあって、王警部は高らかに勝利したように笑い声をあげた。
「ゴジラ松井、お前がたとえ、深海内、最強だとしてもだ、まみりちゃんのパパが作ったスーパーロボの前では、こうなるのだ」
と言って炉端焼き屋の囲炉裏の中で焼かれている紋甲烏賊のみりん焼きのように、炭火で焼かれ、うまそうな肉汁をたらしている、
アンモナイト貝を勝利者の特権として指さした。
吉澤もまみりも石川も小皿の中に、生大豆自然醸造しょうゆをたらして、そのアンモナイト貝が食べ頃に焼けるのを待っていた。
 「王警部、しかし、明日、新垣たち、神官をのせた火星ロケットがこの石川の地から、
この危険な存在を追放するために発射されるのがどうして、海底原人、ゴジラ松井にわかったのでしょうか」
このあまりにも突然な海底からの訪問者に驚かされた村野武則先生がたずねると、王警部が答える前に、エフビーアイ捜査官、
新庄芋が答えた。
「オー、それは当然です。神官たちが火星に追放される、それも火星ロケットに載せられて、発射されるということは
衛星テレビでアナウンサーがここ、二、三週間、絶えず放送してイマスデス、人類よりも文明の発達した、
海底帝国ラーがこの情報をつかむはずに違いありません、それにエフビーアイは海底帝国ラーが存在すると予想される能登半島北方、
七十キロ地点の日本海上に大量の今回のプロジェクトのロケット発射の日時と場所が書かれたちらしを大量に投下シマシタデス」
横で新庄芋の話を聞いていた探偵高橋愛は、エフビーアイのゴジラ松井捕獲の並々ならない意欲を感じたが、
石川梨花は醤油の入った小皿を左手にかかえ、右手には割った割り箸を持って餅が焼けるのを待つ子供のように
死んだゴジラ松井の深海からの使者が食べ頃に焼けるのを待っていた。
 この乱稚気旅行の出発する三日前に、エスパー石川はその百十八の超能力のひとつ、テレポーテーションのひとつを使って、
海底帝国を訪れていた。
大理石の玉座に古代ローマ王のような衣装を身にまとったラー松井八世は金のコップの中に深海葡萄から作った
深海葡萄酒で唇をぬらしながら、地球陸地海底化計画のシナリオを練っていた。
 そこにセーラー服を着た、石川梨花は突然現れた。
「ゴジラ松井くん、いえ、王の中の王、海底原人、ゴジラ松井八世、会いに来ました」
セーラー服マニア石川は女学生が持つような革のかばんを持っていた。
 石川が横須賀のセーラー服パブでアルバイトをしていたときに、持ち帰ったものである。
石川の姿を見ても心の中には、いつも矢口まみりの姿が控えているゴジラ松井くんだった。そのことが石川には悲しい。
しかし、このセーラー服をゴジラ松井くんに気にいってもらえるのではないかという期待もあった。
「ゴジラ松井くん、わたしの姿を見てもあなたはあまり、うれしそうではないのね。今日はあなたを少しでも喜ばそうと思って、
セーラー服を着てきたのよ」
やっちゃった女、石川はすでにゴジラ松井くんになれなれしく声をかけてきた。しかし、そのやっちゃったのも、
変身鬼石川がまみりの顔に自分の顔を変えたからだということを石川は知っていた。
「たしかに、石川、きみの身体は素晴らしい、でも、好きなのはまみりちゃんの顔なんだ」
ラー松井八世はおごそかに言った。しかし、それはラー松井八世の本心ではない。
ラー松井八世が一番、おそれているのは、なによりも貧乏石川のその境涯である。ハロハロ学園在学中、何度も石川が色気を使って、
金のために男を騙してきたのを見たことがある。たしかに、そのときの石川は美しかったが、また、何かに復讐しているようでもあった。
「僕はきみのハロハロ学園にいたときのことをすべて知っている」
そのことは深い意味があった。
もちろん、女詐欺師石川もその意味が分かっている。自分の外見にひかれて近寄ってきた男を騙した思いでが。
しかし、ゴジラ松井くんだけは違っていた。おにぎり事件で凍り付いた石川の心は溶かされたのである。
「松井くん、今はわたしのことを信じてくれなくてもいいの、でも、わたしの、あなたに対する心は真実なの、
これを見て、あなたのために変な虫を使って取ってきたの」
「これは」
ラー松井八世は目を丸くした。ラー松井八世の目の上のたんこぶである、スーパーロボの中枢装置ではないか、
「松井くん、今はこの石川の真心を信じてくれなくてもいいの、わたしはそういう女だから、
でも、三日後、新垣たちは火星ロケットを使って、火星に追放されます、しかし、それはおとりです。
あなたが新垣たちを奪還しようとすればスーパーロボが起動されるでしょう、
しかし、スーパーロボは何の攻撃もあなたに対してすることは出来ません、
わたし、石川はまみりとの友情よりもあなたに対する思いをとりました」
そして、またエスパー石川は超能力を使って海底帝国から消えた。
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