電人少女まみり  第34回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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第34回
夜の国道を覆面パトカーが快適にとばしている。運転しているのはあの王警部である。
そしてその横の助手席にはまみりが座っている。王警部はまわりの景色がうしろに流れて行くのを見ながら、まみりに話しかけた。
「きみのパパには感謝しているよ。スーパーロボを使えば、今度のあの悪魔対策もばっちりだよ」
王警部は少し言い過ぎたかと思った。
「ごめん、ごめん、悪魔だなんて言って、まみりちゃんの未来のだんな様だったな」
「仕方ないなり、そう言われても、海底原人ラー王子はまみりにとっては王子様だけど、ほかの人にとっては悪魔なり、
でも、ハロハロ学園にいたときはまみりのだんな様はヒーローだったなり、まみりが飯田たちからいじめられていると助けてくれたなり、
それにあのハロハロ馬鹿学園のフットサル大会で優勝に導いたなり。まみりは応援に行ったなり」
「ゴジラ松井くんと会えなくなってどのくらいが経つ」
「三週間ぐらいなり、まみりはあの暴れん坊の怪獣とハロハロ学園のゴジラ松井くんが同じ人間だとは信じられないなり」
王警部の心の中にも感慨深いものがあるようだった。
「まみりちゃん、まみりちゃんはゴジラ松井くんにラブレターを渡したんじゃないのかい」
するとまみりはびっくりしたような顔をしてハンドルを握っている王警部の横顔を見つめた。
「いいんだよ。まみりちゃん、何も言わなくて。スーパーロボの正体を知りたくて、まみりちゃんには悪いけど、
いつもまみりちゃんのことを僕は尾行していたんだよ」
矢口まみりはあのゴジラ松井くんに校門でラブレターを渡したときのみじめな気持を思い出していた。
確かにまみりはゴジラ松井くんのことが死ぬほど好きである。ゴジラ松井くんが王警部に逮捕されて、
裁判を受け、刑務所に収監されても、罪のつぐないが終わるまで、
まみりは何年でもゴジラ松井くんが出所してくるのを待っているつもりである。何年でも何十年でも、
なぜならゴジラ松井くんはまみりにとって運命の人だからである。でも、でも、まみりは不安になる。
まみりは確かにゴジラ松井くんのことを死ぬほど愛している。でも松井くんは。
 そう思うとまみりは悲しくなった。王警部はほほえんでいる。しかし、それは人を馬鹿にする微笑みではない、
冷笑ではない、王警部もある意味ではまみりを愛しているのかも知れない。でもそれは男女の愛ではない、親が子供を、
親鳥が雛を、そうなんの見返りもつかない無償の愛だった。
「まみりちゃんが松井くんにラブレターを渡しているのを僕は見ていたよ、そう、突き返されたね、
それから松井くんのかばんの中からは無数のラブレターが出てきた。僕はそのあと松井くんと一緒に川の端を歩いたんだよ」
まみりは何で王警部がこんなことを言うのかわからなかった。自分を笑い者にしているのかと思った。
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王警部は夜の街をハンドルを握りながら疾走して、自分の若い頃を思い出していた。
鏡子夫人にみかんのへたをとってもらったこともあった。そしてそのときのグラビアがみかんのへたを
夫人にとって貰って口に入れている王選手というタイトルでグラビア紙の見開きに載ったこともあったことを思い出していた。
若いっていいな、と王警部は思った。そして若いから不安にもなる、そう、お互いに愛し合っているのに。
「まみりちゃん、僕の話している人物はラー帝国の悪魔王子のことではないよ。
ハロハロ学園のまみりちゃんの同級生のゴジラ松井くんのことだよ。まみりちゃんはラブレターを渡したのに、
ゴジラ松井くんのかばんの中からは飯田さんや、安田さん、それにイワン・コロフやハンス・シュミット、
それにルー・テーズのラブレターが出て来たことや、きみは本当は強いんだろうと言われたことに不安になっているんだろう」
まみりは無言で正面を向いたまま、王警部のほうを見ないでうなずいた。
「そう言ったときの、ゴジラ松井くんの気持の中がわかるかい、そう、いつもハロハロ学園のヒーロー、
ゴジラ松井くんの中にはあの隠密怪獣王としての行動が心に影を落としていたんだよ。自分は人間ではないんだ、
海底原人ラーの生き残りなんだというね、それに、ゴジラ松井くんはあの勝ち鬨橋で戦った巨大ロボットがまみりちゃん、
そのものだと思っていたのかも知れない、だから、きみは本当は強いんだろうと言ったのかも知れない、
でも、まみりちゃんからラブレターを貰っても素っ気なく、それを返したゴジラ松井くんの本当の気持ちがどんなものなのか、
まみりちゃんにわかるかい」
「ゴジラ松井くんは迷惑そうだったなり」
王警部はまた慈愛に満ちた目で矢口まみりをちらりと見ると微笑んだ。
「そのあと、僕はゴジラ松井くんと川の端を歩いたんだよ、そのときのゴジラ松井くんの様子は苦しげだった。
きっと何か、心の中に葛藤があるようだった」
まみりはちらりと王警部の顔を見上げた。
「それから、僕と松井くんは土手に座って少し、語ったんだよ。僕は、まみりちゃん、きみのことを誉めておいたんだよ。
松井くんのお嫁さんには君が一番ふさわしいってね。きみが本当はまみりちゃんのことが好きなら、
まみりちゃんを受け入れて欲しいってね、そうしたらに、ゴジラ松井くんは今までで一番苦しそうな表情をしたんだ。・・・・・・
そして僕は確信したよ、松井くんは、ゴジラ松井くんは、世界中の誰よりもまみりちゃんのことを愛しているってね」
「・・・・・・・・・・・」
しばらく、長い沈黙が続いた。横にいてもまみりの表情に輝きの戻って来たことを王警部は感じていた。
フロントガラスにぼんやりと映った矢口まみりの瞳はきらきらと輝いている。王警部は期待していた。
まみりは第二の父親として自分に甘えてきて、たよりにするだろう。
そして自分と鏡子夫人の新婚の頃を、きっと自分の参考にするためにまみりは、その日々のことを聞いてくるに違いないと、
どうすれば、もっと仲良く出来るかというような秘訣を聞いてくるに違いないと思っていた。しかし、まみりは違うことを聞いてきた。
「王警部」
まみりの声ははずんでいた。
「なんだい、まみりちゃん」
「王警部は算盤が一級なりか」
「そうだけど、まみりちゃん」
「まみりにも算盤を教えて欲しいなり、ゴジラ松井くんと結婚したら、まみりは家計簿をつけるつもりなり」
そのとき、運転している王警部の目の前で大きく手を振っている男がいて、びっくりした王警部は急ブレーキを踏んだ。
止まった覆面パトカーの運転席の横に手を振っていた男が走り寄って来て、顔には困惑と懇願の色が表れている。
「助けてください、助けてください、石が倒れて、石が倒れて、友達が挟まれて動けないんです」
車が止まった横は大きな大木がたくさん植えられている公園になっている。
王警部もまみりもそのただごとでない様子に驚いて車から降りた。
「友達が岩の下敷きになって動けないんです、血も出ているんです」
森のような公園の中にその男のあとについて、王警部とまみりはその中に入って行った。
男は森の中をずんずん入って行く。そのうちに男の姿は見えなくなった。王警部とまみりは名前もわからない男を呼んでみた。
「騙されたか」
王警部は舌打ちをした。
「戻るか」
王警部は公園の入り口の戻った。
「ちくしょう」
王警部は叫んだ。覆面パトカーは走り出して向こうの方へ行った。
「王警部、そこに」
まみりはすぐそばに千シーシーの排気量のオートバイが止まっているのを発見した。
うまい具合にキーも差したままになっている。
「王警部、後ろに乗るなり」
まみりがオートバイにまたがって叫んだ。あわてて王警部が後ろに乗るとオートバイはものすごい勢いで発進した。
王警部は思わずまみりの背中に抱きついた。まみりのドライビングテクニックはすごかった。
あらゆるロードレーサーやモトクロスレーサーも凌駕するものがあった。
あっという間にふたりを乗せたオートバイは逃走車両の背後、五メートルくらいまで近づき、
最後はカーブになっている崖の側面をほとんど水平になって走って行き、覆面パトカーの前方に回り込んだ。まみりに抱きつきながら、
王警部は後ろの逃走車両に威嚇射撃をすると、その車は止まった。
王警部はこのトランジスターグラマーが世界チャンピオンも顔負けのドライビングテクニックを持っていることを発見した。
驚愕の発見だった。
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