電人少女まみり  第11回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第十一回
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集合と言ってもヤグチマミリの前にやって来たのは一人だった。それは飛んで来た。地表から一メートルぐらいのところを飛んで来た。
飛んでくる途中で銀杏の木を一本なぎ倒して来た。まみりの前で方向を転換して地上に降り立った。
さっきのごたごたしているあいだにいつの間にかロボットの姿が見えなくなっていたことも気づかなかった矢口まみりだった。
「きみは空を飛ぶこともできるかなり。きみのことを忘れていてごめんなり。きみは矢口くんの分身なり」
「どうだ。すごいだろう。まみり。このロボットは空を飛ぶことも出来るんだ」
「でも、なんでスーパーロボを呼び寄せたなり。パパさんなり」
つんくパパはおごそかにのたまった。
「スーパーロボヤグチマミリ二号はまみりがハロハロ学園でいじめられているのを救うよりももっとおおががりな仕事も出来るのだよ。
まみり。パパの頭の中にはある事件の記録が残っている。一九七二年にニューメキシコ州のサウスダコダで怪事件が起こり、
村の住民がすべていなくなったという現象が起こった。その村には保安官がいなくて、
隣の村の保安官が消え去った村へ行くとインディアンの血を引く九十才になる老人がひとりだけ残っていて
空から大きな固い殻を被った丸いさそりが降りて来てみんなの姿を消してしまったと言った。
その土地のインディアンの古老の間ではそういう伝説が昔から何代にもわたって語り継がれて来たから
その話とこんがらがっているのだろうと地方新聞の記者は書いた。たまたま何かの機会でパパはその記事を読んでことの重大性を認識した。固い殻を被った丸いさそり、いろいろな国にその伝説はある。しかし、それは伝説なんかじゃない。空飛ぶ円盤を宇宙人の乗り物だと言って、その中に宇宙人が乗っているなどと悠長なことを言っている人間がいる。空飛ぶ円盤はそんなものではないんだ。まみり、なんだと思う。それは手術室なんだ。遠隔手術がおこなわれる。ああ。パパは考えただけでも恐怖で身が凍るよ」
「パパの言っていることはよくわからないなり」
「こんなおそろしい事実が公になったら世の中はどうなるだろうか。ああ。おそろしい。
ただ言えることは円盤の中には宇宙人がいるなんてことはあり得ないということなんだ。
まみりの心の中に暗い影を落とすのは嫌だからこれ以上のことは言わないけど。みんなが宇宙人を見たなんて言うだろう。
しかし、それはみな地球人なんだ。ああ、恐ろしい。だから円盤はみな破壊しなければならない。そうしなければ地球は滅亡してしまう。
そのための機能もスーパーロボヤグチマミリ二号には持たしてある」
「矢口くんにはパパの言っていることはよくわからないなり」
まみりはまた同じ言葉を繰り返した。
「空飛ぶ円盤も隠密怪獣王も同じものだということなんだ。その腕時計でスーパーロボヤグチマミリ二号を呼び寄せることが出来ただろう。今度はスーパーロボヤグチマミリ二号、巨大化十二メートルと腕時計に向かって言うんだ。それがスーパーロボの操縦機なんだからね」
「パパ、ありがとうなり。スーパーロボットヤグチマミリ二号、巨大化十二メートル」
と矢口まみりは叫んだ。するとどうしたことだろう。目の前にいるスーパーロボはどんどんと巨大化して五階建てのビルくらいの高さに
なった。矢口まみりの前にはスーパーロボのブーツのさきの方が見える。そのブーツも矢口まみりの履いているものとすっかり同じである。
 そのとき墓地の地下倉庫の中に隠れていたお馬鹿三人は何をやっていたのだろうか。まず王警部はやはり五目玉の算盤をはじきながら、
腕を組み、また腕を組みながら、五目玉の算盤をはじいている。そしてときどき天井のほうを見上げて何か考えている。
そして紙のはし切れにちょこちょこと数字を書いて、また鉛筆のさきをなめる。そしてため息をついて、
それから何かに憤っているように口をふくらませる。自分の退職金の中からミサイルを撃つ費用を捻出しようとしているようである。
チャーミー石川は村のはずれの辻堂でひとり仏様を守っている尼さんみたいに数珠をがちゃがちゃさせて神仏に祈りをあげている。
その姿はまるで自転車に乗せられたETのようだった。
井川はるら先生にいたっては見物だった。「羊の血を、羊の血を」と叫びながら地下室の中を彷徨っている。
はるら先生は最近、黒ミサにこっていた。床の上でぶつぶつと言っている他のふたりの間をぬって、いつの間にか魔法陣を描いていた。
その魔法陣の上に王刑事もチャーミー石川も座っている。「あの悪魔を鎮めるためには羊の血が必要だわ。
羊の血が。羊の血がなければ、処女の血が必要」そう言ってチャーミー石川の方をぎろりと睨んだ。
井川先生とチャーミー石川の目があった。「きゃぁー。あの人。わたしを殺そうとしている」
チャーミーは叫んだが、何故か井川はるら先生は矢口を求めて外に出て行った。
「スーパーロボ、右足をあげて、そしておろして」
矢口まみりが腕時計をとおして命令するとスーパーロボはそのとおりにした。どしんと地響きが起きた。
地上にまみりを捜しに井川先生が出て来ただけではなく、王警部もまみりのところにやって来た。チャーミーはまみりの腕にからんだ。
「まみり。あれは。あれは、まみりの親戚の女の子じゃないの」
スーパーロボは五人の前に威風堂々と立っている。
「もう冷凍キングサーモンもたらば蟹も越前蟹もまぐろもほっき貝もあわびもさざえも伊勢海老もオマール貝も、
隠密怪獣王、ただでは食べさせないわ。そんなことをしたら物価指数が上がっちゃうでしょう。
このスーパーロボと矢口さんが許さないわよ」
「まみり、格好いい」
「僕もひとまず応援するよ」
王警部も付け加えた。
黒ミサに凝っている井川先生だけは悪魔に対抗するには近代科学ではだめ。地下からデーモンを呼び出さなければと、
とひとり自分にだけ聞こえるようにつぶやいて、にやにやとまみりの方を見つめている。
「みんな、離れて。スーパーロボが発進するから」
五人はスーパーロボヤグチマミリ二号から離れた。
「はっっっしん」
矢口まみりが命令すると巨大ロボットのブーツの底からジェット噴流が吹き出した。そして重力に逆らって
スーパーロボは空中に上がっていく。千メートルくらい上空に上がってからまた逆噴射しながら降りてくる。
そして五十メートルくらい前方にある築地市場に降り立った。
「さあ、スーパーロボがいれば怖いものは何もないなり。わたしたちも築地市場に行きましょう」
「まみり、前に見たテレビでは巨大ロボットの手の平の中に操縦者が入って空中を移動して行くというのがあったけど、
そういうのはないの」
走りながらチャーミーがぶつぶつと言った。「チャーミー、そんなことでは二十四時間テレビの司会者にはなれないなり」
「なれなくってもいいわよ。まみり」
とっくの昔にスーパーロボは降りたってまみりたちが来るのを待っている。まみりは走りながら汗が出てきた。首筋から汗が出る。
まみりの頸動脈が浮き上がる。それを見て黒ミサの井川先生が無気味に笑った。
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 築地市場の中には二人の巨人が存在している。ひとりは直立し、ひとりは学校から帰ったばかりの小学生が台所の食器棚の中から
奥の方に隠されている饅頭を盗み食いしているみたいである。ふたりのあいだはまだ没交渉である。これがただ一色で出来た
ブロンズ像だったらどこかの建物の前庭にも置いていいようなみごとな組み合わせだ。
ひとりが立っていておいしいものが出てくるのを待っている人、
そしてひとりが立っていてひとりが森の中の根本にあるうつろの中にある隠されている蜂蜜を手探りで掘り出そうとしている人。
そんな自然の中に置かれたふたりの人物の自然に対する営みを表現しているようにも見える。
造形的にも量感のバランスが完全にとれている。しかし、ふたりは敵対関係にある。森の中に住むふたりの兄弟だというわけではない。
その上、穴を掘っているほうは立っている方に無関心だ。そしてふたりの胸のあたりには空があり、頭はビルの高さよりも上にある。
大きな冷凍倉庫が子供のおもちゃ箱のように見える。その地面にありのようなごま粒が移動してきた。
「まみり、あいつ、まだお金も払わないくせにボタン海老をむしゃむしゃ食っているわよ。それになに、あの変な格好。
まるで渡世人じゃないの」
巨人を見上げながらチャーミーが個人的感情をむき出しに言った。チャーミーは自分のポケットの中を探った。
するとYの字をしたものが指先に当たった。二股に分かれているほうのさきにはぶよぶよと太いミミズのようなものがついている。
チャーミーは思い当たるものがあった。「こんなものがあったわ」弟がくれたパチンコだった。
すぐにチャーミーはそこいらに落ちている石を探す。適当なものを拾うとゴムをぎりぎりと伸ばして片目をつぶって照準を合わせた。
「チャーミー、そんなものは全く効果がないなり」
「こんなことでもしなければ、気分が晴れないわ」
矢口まみりの言ったとおり、石川の放ったパチンコの弾は空中をゆるゆると飛んで行った。が、そこで奇跡が起こった。
ゆるやかな放物線を描いた小石はちょうど食事に熱心で横を向いていた巨人の耳の穴の中にうまい具合に入ったのである。
そして築地市場の空気が大きく振動した。
「ふははははは。ふははははは」
耳の穴に入った小石がくすぐったいのか、巨人は立ち上がると笑い人形のように笑い出したのである。
その笑い声は文字で見ると人間の笑い声と同じであるがそれを文字という表現手段をとるならば何十倍の大きさの活字を
使わなければならないだろう。それから変なところをくすぐられて顔の筋肉が弛緩している巨人は
プールで耳の中に水が入った人のように片足でちんちんをして小石の入った耳のあるほうの顔の側面を下に向けると
耳の穴から小石が落ちて来た。もちろん巨人の縮尺からすれば、その小石はほとんど見ることが出来ない。
そして普通の表情に戻ると小石が飛んで来たほうの地面を見つめた。そこにありのごときものがうごめいているのを見つめた。
「まみり、お前の友達は馬鹿だ。馬鹿だ。最低の馬鹿だ。合宿に入れて再教育だ」
「こんな奴、友達じゃないなり。チャーミー、責任をとりなさいよ」
振り返るとそこにはもうチャーミー石川の姿はない。そして王警部の陰に隠れている。巨人はまたぎろりと睨んだ。
東大寺南大門の阿吽の仁王像からかりた仮面の下からのぞく瞳が浄瑠璃の人形のように矢口まみりの方を向く。
その目の玉もまみりなんかよりはずっと大きい。巨人はほっぺたを膨らました。そして口を尖らすと息を吐いた。
市場のその一角だけに最大規模の台風が襲来した。まみりは地面にはいっくばって駐車場の車止めを力いっぱい目を
閉じながらつかんでいたが頭上から天を割くような笑い声が聞こえる。
「ワハハハハハ。ワハハハハハ。クェ、クェ」
「くじら太くんだわ。くじら太くんだわ」まみりは遠い昔のあこがれの人に会ったような気がした。まみりは小さかった。
子供のときから小さかった。小さかったまみりは大きなものに憧れていた。
その憧れの人がくじら太くんである。くじら太くんは現実の人ではない。連続テレビドラマの主人公だった。
くじら太くんは大きい。身長が三メートル、体重は五百キロあった。ドラマの中でくじら太くんは中学校に転校してくる。
まず給食の時間に五十人前のランチを食べた。それから腹ごなしのためにお昼休みにやる
草野球でバットのかわりにそこいらにある電柱を引き抜いてきてバットがわりに使った。飛んで来たボールを撃とうとして
手をすべらしたくじら太くんの電柱は飛んで行き、中学校の正面の時計台に突き刺さり、時計台の上部、三分の一が崩れ落ちた。
しかし、それがテレビドラマでくじら太くんが実在しないとまみりは五歳のときに気づいた。
 まみりは工事現場も好きだった。そこでまみりは第二の初恋をしたのである。
その人はつるはしを親指と人差し指のさきで竹細工のようにして持ち、片手で砂が山盛りになった猫車を持ち上げることが出来た。
その人が歩くと小山が歩いているようだった。そして夜になると中華どんぶりの中にさいころを入れてふっていた。
小学校の行き帰りにその人の姿を見るとまみりの胸は震えた。その人と一度だけ話したことがある。
工事現場に作られた物干しの上にしなびた太い昆布のようなものが干してある。それは長かった。
そのはしっこの方にぶら下がっていると憧れの人が向こうからやって来た。
「嬢、ふんどしに興味があるかい」
その昆布の端には名前が縫い込んであった。おにぎり山。
「それがおいらのしこ名だよ」
まみりは怖くなってその場を逃げ出した。そしてまたその憧れの人に会いたいと思ったが工事は完成して工事現場もなくなっていた。
「だめ、好きになっては、相手は無銭飲食を常習にしている悪人よ。まみり。好きになっちゃだめ」
矢口まみりはきわめて冷静になろうと思って他の連中はどうなったのかと思って振り返ると巨人の息に吹き飛ばされて向こうの方へ行って
腰をさすっている。まみりは自分の体容積が小さかったから吹き飛ばされなかったのだと思った。
 そのとき空中から四つ足の黒いヒトデのようなものが降りてくる。まみりの前に着陸するとヘルメットを
被ったヘリコプターのパイロットのような男が出て来た。
「王警部は」
どうやらまみり達の味方らしい。そこへ腰をさすりながら王沙汰春警部もやってくる。
「だいぶ、待ったぞ」
「警部、残念ですが。この件に関しては警視庁は手を引くそうなので、自衛隊が受け持つことになりました」
「きみ、じゃあ、僕の扱いはどうなるんだね」
「出向扱いということになります」
そこへ巨人の息に吹き飛ばされた連中も集まって来た。
「きみらもこの艇に乗り込むんだ。これは空中でも水中でも三百六十度自由に進むことの出来る自衛隊の新型偵察機なんだ」
四人がその艇に乗り込むといろいろな計測器がピカピカと点滅している。艇の前面はガラス張りになっていて
五人が座ることが出来る椅子がついている。床には黒いゴムシートが貼られている。真ん中の席だけは前面にハンドルだとか、
エンジンの始動装置だとか、ナビゲーターだとかの表示器がついている。
「椅子に座ったら安全ベルトをしめてください。前後左右上下に自由に進みますから、そして裏返しにもなりますから大変危険です。
機器類もみんな据え付けになっているでしょう」
五人が椅子に座って安全ベルトをしめると偵察機は静かに上昇した。そして巨人を見下ろすことの出来る高度まで上がった。
巨人にとってはこの偵察機の存在など眼中にないのか、今は大型の冷凍トラックをおはじきのように指ではじいてトラック同士を
ぶつけたりして遊んでいる。
「矢口まみりくん、きみの出番だ。つんくパパの作ったスーパーロボを使ってあの巨人をどうにかしてくれ」
王警部がいまいましそうに巨人を睨んだ。
「でも、警部。ここで巨人とスーパーロボの戦いを繰り広げさせるつもり、ただでさえ。ビルをいくつも壊して高級食材を
たくさん巨人は食べてしまったわ。これ以上、損失を広げるのはどうでしょうね」
チャーミー石川は社長秘書のかけるようなさきの尖っためがねをかけてやすりで爪の手入れをしている。
「ここでふたりの巨人を戦わせることはまずいか。でも、どうしたら」
王沙汰春警部は頭をひねった。
「人が慣性誘導装置を使って空中移動の道標にするように動物は本能で測地線を選択することが出来ます。
磁石にN極とS極があるのはなぜでしょう。この小さな磁石を小さく小さく分割していってもやはり磁石の両端にはふたつの極が
あらわれます。むかしは空間の中はエーテルで満たされていと思われていましたが、今はそんなことを信ずる人はひとりもいないでしょう。でも小さな磁石が無数に空間に張り巡らされているという比喩はあながち当たっていないということもいえません。動物はこの微少磁石の存在をいつも感じています。動物はそれを移動のための道標にしているのです。だからこの道標を狂わせてやれば巨人はここを去るに違いありませんわ」
井川はるら先生は生物として見た巨人について語った。
「五分の四は何を言っているのかよくわからないんですが、要するに巨人対策としてどうすればいいんですか」
「地磁気を狂わせてやればいいのです。そのためには大量の電磁波を発生させればいいのです。
それの一番簡単な方法はここで核爆発を起こさせるのです」
「ここに核兵器は置いてあるのですか」
「いや、そんなことをしたらわたしたちは死んでしまう」
チャーミー石川が黄色い叫び声をあげた。
「なにを言っているの。チャーミー、人類が滅亡したあとで、大魔王さまがあらわれて地上に新たな秩序を与えてくださるのよ。
ほほほほほほほ」
「そんなことまでしなくても、地磁気を乱すだけなら、この艇の推進装置の一部を使うだけで可能です」
パイロットは冷静に言った。
「この艇の推進装置でそれが可能なら、それでもいいですわ」
「井川先生、もっと具体的にその方法を教えてください」
「強い地磁気の下にいると動物は不安定な精神状態になります。
だから、周囲に強い地磁気の乱れを作ってその中に安定した地磁気の領域を作るんです。
そうするとその中に生物は逃げ込みます。その円を移動させれば巨人も移動するでしょう」
「明快なお答え、ありがとうございました」
「ちっとも明快ではないわ」
チャーミー石川はぶつぶつと言った。
「でも、推進器をその目的で使うということはこの艇が失速するということです」
パイロットが付け加える。
「それなら、心配はないですよ。まみり、説明しておあげ」
「スーパーロボを使うなり。スーパーロボにこの艇を持ってもらうなり。そして地磁気の隙間を作りながら巨人を移動させるなり」
「素晴らしいわ。まみり」
「よし、決まった。その作戦を遂行する。まみりくんスーパーロボに命令してくれ」
「スーパーロボ。この艇を支持するなり」
艇ががくりと揺れた。
「では艇の前方、半径二十メートルに安定した地磁気をつくります」
ヘルメットを被ったパイロットが報告した。そして機械のスイッチ類を操作する。
矢口まみりは腕時計に向かって叫ぶ。
「スーパーロボ。隠密怪獣王を誘い出すなり」
スーパーロボは艇を持ったまま巨人の方に近寄る。動物園のオラウンターの中に新入りのオラウンターが入って来たような
反応を示している。巨人は状況の変化を微妙に感じているのだろうか。小刻みにあたりを見回している。
「スーパーロボ。少しずつバックをするなり」
まみりが言うとスーパーロボもバックする。状況が変わったことを巨人もわかっているのだろうか。
耳を両手で押さえて不快な表情をした。そして艇につられるように前進する。
「成功だわ。まみり」
チャーミー石川がパチパチと拍手する。
「わたしのアイデアだわ」
井川先生は少し不機嫌だった。井川先生の隣に座っているのが王警部だからかも知れない。
「うまくいくな」
王警部は眼下にある巨人の頭部を見ながらつぶやいた。
「スーパーロボ。その調子だわ。そのままバックするのよ」
スーパーロボは慎重にバックする。パイロットは遠い昔にざるを逆さにしてひもでそのざるが落ちるようにして、
下に米をまいて雀を捕獲しようとしたことを思い出していた。
「まみりくん、もっと速くバックすることは出来ないか。巨人はこの艇につられるようにしてついて来るではないか」
「スーパーロボ。バックする速さをあげるのよ」
スーパーロボのバックの速さは倍加した。ロボは後退りしながら築地市場の南の端にある神社を一またぎに越えた。
しかし、巨人は人間の作ったそんなものを踏みつぶすことを躊躇しなかった。巨人の一足でその神社はつぶれてしまった。
「この罰当たりめが」
王警部は吐き捨てるように言った。
「仕方ないなり」
矢口まみりはつぶやいた。五歩くらいでスーパーロボも巨人も築地市場を出てしまう。
交通規制がおこなわれていて自動車は一台も端っていない。
「まみり、大変」
チャーミーが叫んだ。他のみんなは前面の巨人しか見ていなかったがチャーミーは床のそばにある艇の後方を映し出すモニターを見ている。チャーミーの目には勝ちどき橋が寸前の距離で迫っている。
「遅い、遅いわ」
チャーミーが叫んだ。艇の中はひっくりかえり、天と地がひっくり返った。
そして地震のような音がしてスーパーロボは勝ちとき橋の上に倒れかかり、橋は完全に破戒されてしまった。
まみりはひっくり返ったままである。
「スーパーロボ。立ち上がるのよ」
艇の中はまた上を下への大騒ぎでまた立ち上がった。
「良かった。まだ巨人は気づいていない」
「このコースで進むのはまずいですよ。警部」
「どうしてだ」
「こちらは交通規制がなされていないです」
「では、どうやって巨人を始末するのだ」
「対策本部が立てた計画を遂行してください」
「どうするのだ」