電人少女マミリ    第8回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第八回
矢口まみりは夢遊病者のような石川のそでを引っ張った。
そのとき、王沙汰春警部の前に座っていた刑事のひとりが急に真面目な顔になって、王警部の方を向く。
「警部。隠密怪獣王包囲大作戦の準備が整ったそうです。なごみ銀行に向かってくださいという報告です」
「よし」
王沙汰春警部は首をろくろく首のようにゆらゆらと揺らして立ち上がった。
それはまるで亡くなった林家正蔵のようだった。人情噺をよくし、林家彦六と名乗っていたが正蔵をついだ頃から枯淡の味に
さらに磨きがかかり、落語の世界を支えていた老人である。芸の隔世遺伝という話はあるかも知れないが全くの他人にこの首を
ゆらゆらと揺らしながら、水死人が幽霊となって頭を上げていくというわざをよく受け継いだものである。王警部の首は
大まかに巻かれたばねで出来ていて、その頭は中身が空っぽのはりこで出来ているようだった。よしと言った言葉にも
ビブラートがかかっていて、まるで病の床でふせっている百才の老人のようでもあった。
「ついてくるならついてこ~~~~い」
五人が警視庁のパトカーに乗ってなごみ銀行のそばまで行くとそこには世にも異様な光景が広がっていた。
「これはなんなり」
矢口まみりは絶叫した。
「こんなブルドーザー。パパも見たことがないよ」
そこにはキャタピラがあって前の部分に土を押しのける部品のついているブルドーザーが道路の中央にも、
駐車場の中にも、それに人家の庭の中にも、やぶさか寺の墓地の中にも停まっている。その様子は偉観であった。
そしてそのブルドーザーの大きさも半端じゃなく、第二次世界大戦のときに
ドイツ軍が血迷って制作したキングタイガー戦車並の大きさだったのだ。
「なんで、ブルドーザーを用意しているなり」
「フランス人形ちゃん、これがブルドーザーに見えますかな」
王沙汰春警部は得意気だった。
「これが現代の軍事技術の粋を合わせて作られたもぐら退路遮断無限軌道車であります。全部で十八台あります。
敵が地下本営にトンネルを掘って進んで来たとき、そのトンネルを遮断するために制作されたのです。これで三百六十度。
隠密怪獣王がトンネルを掘ってなごみ銀行の金庫までやって来てもこのもぐら・・・・で退路を遮断するのだ。
この全面にある超硬質遮断板で地下十数メートルのトンネルまで二分で達することが出来る。
銀行の金庫の防犯ブザーが鳴ったらこの十八台のもぐら・・・が隠密怪獣王の退路をふさぐのです。
隠密怪獣王はふくろのネズミでありま~~~~す」
王沙汰春警部はいつのまにか、林家正蔵師匠になっていた。
「素晴らしいわ」
チャーミー石川は腕をねじってあこがれの人にでも出会ったように喜んでいる。
「この歴史的捕り物にまみりちゃんと一緒に立ち会うことが出来るなんて幸せだわ」
井川はるら先生は矢口まみりのの手を握った。つんくパパは発明家としての興味からか、
もぐら・・・・のそばに行ってこまごまと観察している。
矢口まみりは人の家の庭にまで、寺の墓地にまでこんなものを置いていいのかしらと思った。
「警部、東京都や国土交通省の許可を得たのですか」
「そんなものを取る必要があるか。相手は十二時間で三キロのトンネルを掘る怪物だぞ。それより、こっちへ」
王沙汰春警部のあとについて行くとテントが張られていて観測機械が置かれている。
まわりには迷彩服を着た自衛隊の隊員が忙しく機械をいじっている。
「このステックをいじくると」
王沙汰春警部がテント小屋の中に置かれている機械をいじくると自走車に積まれている地対地ミサイルが自由に位置を変える。
上下に動いたり、くるくると回転したりする。
その横にはDANGERと書かれた赤いボタンが置いてあってふだんはアクリルのカバーが被さってあるのがそのカバーもはずされている。
ちょうどそのときチャーミー石川の足下にバナナの皮が落ちていた。しかし、その皮も少し厚みがある。
チャーミーの乞食根性にむらむらと火がついた。「そうよ。この厚み。バナナは半分しか食べられていないのだわ。
半分はバナナが入っている。とらなければ。とらなければ」チャーミー石川は落ちているバナナを拾い食いしようと思って身をかがめた。
それをスーパーロボが横から取ろうとした。チャーミー石川は取られまいとして足でバナナの皮を踏む。
落ちている十円を見られずに取るとき足で踏んづけるあれだ。しかし、真実はバナナは皮だけだったのだ。
皮を踏んだチャーミーの重心はゆがんだ。「おっととと」チャーミーはよろけた。そして転ばないために前に移動する。
その方向には地対地ミサイルの発射ボタンがあった。チャーミーはボタンの上に手をついた。
「やっちゃった」
矢口まみりが振り返るとミサイルの噴火口からジェット噴流がほとばしり、筑波山の方に飛んで行った。
王沙汰春は渋面を作った。
「この事実はここにいる者だけが知っている。このことはなかったことにしよう」
こういうのをチャーミー的健忘症というのだろうかと矢口まみりは思った。
井川はるら先生は何事もなかったように雑巾で機械が置かれているテーブルの上を拭いている。
その次の新聞には筑波山の方にある健康牧場というところにある牛小屋に謎のミサイルが飛び込んで牛が十数頭、死んだという記事が出た。 「それより、こっちに来て」
王沙汰春警部が開けっぴろげになっているテント小屋の隣に中が見えないようになっているもうひとつの方の
テント小屋の方に連れて行った。
「潜水艦の中みたいなり」
その中はまるで潜水艦の司令室のよう。
丸いレーダーが置かれてコンパスの針がくるくる回るようになっていてときどきピカピカと光る。
「これが地下探索レーダーである。なごみ銀行の周囲十キロの範囲の異常をすべて映し出す」
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