羅漢拳  第45回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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第45回
滝沢秀明は下山して菩提樹の木陰にいた。滝沢秀明の懐にはリーダーから授かった原書と山の頂上にいたヨガの行者から受け取った首飾りが入っていった。滝沢秀明は最初ゴータマシッダルータが悟りいう開いたという菩提樹のことしか頭になくてこの村のことは詳しく見ていなかったが、もしかしたらこの村の中に羅漢拳を救う人物がいるのかも知れないと思った。家々は泥で塗り固められた壁で覆われていて日中の強い日差しを遮っている。集落から少し離れたところに田圃はありそこで米を作っていた。日中は日差しが強いので外へ出ている人はいないようだった。あたりを見回してもそれらしい人間は一人も見つからず、滝沢秀明はまた菩提寺の木陰へ行こうと思った。菩提樹のそばまで行くと大きな樹木の背後に人の気配を感じた。滝沢秀明身構えると山の途中で彼を襲った人物が待ち伏せていた。
「おい、まだ生きていたのか。まあいいその原書をこちらに渡せ」
滝沢秀明の前後アンドロイドたちは取り囲んだ。二人のアンドロイドは同時に滝沢秀明に飛びかかってきた。滝沢秀明は二人よりも高く飛ぶと両足をほぼ平行にひらいて二人を蹴った。すると二人のアンドロイドはバランスをくずして地面に落下した。いま一撃でアンドロイドたちは滝沢秀明から原書を奪うことが困難なことを悟った。滝沢秀明が二人のアンドロイドたちとにらみ合いを続けていると急にアンドロイドたちはかけ始めた。滝沢秀明も走り出し、彼らを追った。アンドロイドたちは村を目指していた。村の住人たちは突然のことにあっけにとられていた。滝沢秀明がアンドロイドたちに追いつく前にアンドロイドたちは民家の中へ逃げ込んだ。二人のアンドロイドたちは女と子供を抱えて自信ありげな表情をして外に出てきた。
「さぁ、こちらには人質があるのだ。この人質の命を助けて欲しいと思うなら原書を渡すことだ」
いつの間にか村人たちが集まってきて彼らを遠巻きにとり囲んだ。滝沢秀明は手も足も出ないことを自覚した。今は原書を渡すしかないと思った。そう思って原書を手にとってみると不思議なことが起こった。原書がうっすらとオレンジ色に光っていたのだ。
「さあ、すぐにその原書をこちらに渡すのだ」
アンドロイドたちは催促した。すると滝沢秀明の頭の中に誰かが話しかける声が聞こえた。
{原書を渡すことはない}
{一体、誰だ。誰が話しかけているのだ}
{原書を渡すことはない}
滝沢秀明が手にしている原書はさらにオレンジ色に光り始めた。そしてその輝きはますます強くなった。するとアンドロイドたちはブルブルとふるえ出し、女と子どもを放した。滝沢秀明があっけににとられて見ていると、ますますアンドロイドたちはブルブルとふるえだし、急に頭が破裂して金属部品が四方に飛び散って倒れた。{お前はいったい誰だ。こんな芸当のできるのはお前なのか}
{そうです。私です。私は原書の書き換え、および、源物質の所有者名の書き換えという究極の技を身に付けています}
{もしかしたらあなたが羅漢拳を救ってくださる方なのですか}
{そうです。羅漢拳を救うために私は使わされました}
{あなたはどこにいらっしゃるのですか}
{右斜め後ろに見える家にいます}
滝沢秀明は右斜め後ろの家を見た。何の変哲もない家のようだった。滝沢秀明はその家へ歩みを進めた。不思議なことにその家に近づくにつれて原書はオレンジ色に強く光り始めるのだった。その家の中に入ろうとしたとき玄関のドアのところで老婆に押しとどめられた。
「旅の人、今、ここに入られたら困ります」
「この家の中に私の尋ね求める人がいるのです」
「そんなこと言ってもここの奥さんが赤ちゃんを落としているのですから」
そうやって滝沢秀明と老婆が押し問答している間に奥の方から赤ん坊の鳴き声が聞こえた。
{さあ、お入りなさい。}
滝沢秀明は中へ入った。滝沢秀明が中へ入っていくと生まれたばかりの嬰児がベッドの中に寝かされていた。
{さあ、私があなた仲間です。羅漢拳の本拠地にいきましょう}
羅漢拳を救う人物は意外なことに生まれたばかりの嬰児だった。滝沢秀明は思いもしなかったことに目を丸くした。
{行くといってもどうやって行くのですか。それに貴方生まれたばかりの赤ん坊だというのに}
{私はあなたがここにやって来ることを母の胎内にいる三カ月前から知っていました。私は吉澤ひとみさんのことも知っています。あなたはヨガの行者に会いましたね。ヨガの行者から受け取った首飾りがあるでしょう。それを空に投げ上げ、言われた呪文を三回繰り返せば良いのです。その前に私を抱き上げてください}
そう言われて滝沢秀明はその赤ん坊を抱き上げた。そしてヨガの行者からもらった首飾りを空に投げ上げると三回、呪文を唱えた。すると目の前にいくつもの虹が現れ、滝沢秀明意識を失った。気がつくとを滝沢秀明は懐かしい熊野の奥地、羅漢拳の本拠地に来ていた。石造りの神殿に寝かされ、気が付くとメンバーに囲まれていた。あの赤ん坊はどこかと思うとリーダーの代理の腕の中に抱かれていた。
「やあ、気がついたか。いろいろご苦労だった。すべてのことはこの赤ちゃんから聞いた。今はただ、戦いに備えるだけだ。天空たちもも一時間ばかり前に着いたばかりだ。天空たちをつけていたアンドロイドたちもこの地を探し当てた。もうすぐ総攻撃をかけてくることをことだろう」
滝沢秀明があたり見回すとそこには吉澤ひとみや村上弘明の姿もあった。
「やあ、吉澤さん、羅漢拳の本拠地にこらえて満足かい」
「まあね。しかし救世主がこんな赤ちゃんだったとはね」
{私は赤ちゃんではない。Rー3号ラーマヤーナを撃退するために使わされたものです}
「まあまあ、、こんなところで喧嘩をしていても仕方ない」
そう言ってリーダー代理はアンドロイド軍団を迎え撃つ態勢を着々ととりつつあった。羅漢拳の本拠地の要所要所にメンバーたちは配置された。来るべき敵の襲来を待っていた。偵察に出ていてメンバーが戻ってきて、リーダーの代理のところに行って状況を報告した。
「アンドロイドたちが攻めのぼって来ます」
「それで何人ぐらいいるのだ」
「およそ、三十人くらいだと思われます」
「そうか、では各自戦闘態勢に入るように。じゃあ、この方を頼みます」
リーダーの代理はそう言うとRー3号ラーマヤーナに対するためインドからやってきた赤ん坊を吉澤ひとみの手に渡した。座禅堂を中心として各所にメンバーは配置された。杉木立の中を秋風が吹きぬけていく、メンバーたちの衣のたもとをひらひらと揺らした。メンバーたちは白い帯をきつくしばり直した。やがてアンドロイドたちはゆっくりとこの地に上がって来た。顔の造作もはっきりととわかるほどの距離になっていた。先頭にいるのはのはRー一号ナーランダだった。その横にはRー3号ラーマヤーナもいた。
「ついにお前たちの本拠地を探し当てた。これでお前達もおしまいだ。秘薬をすべて渡すのだ。さあ、みんな、かかれ」
Rー一号がそう言うとアンドロイドたちは蜘蛛の子を散らすように散らばっていった。メンバー二人に対してアンドロイド一人ぐらいで当たっていた。空中を飛ぶもの、杉の木に跳び上がるもの、多くの技が繰り出されていた。大体において羅漢拳の方が戦いを優勢に進めていたがRー3号ラーマヤーナの前に敵はなかった。Rー3号ラーマヤーナに立ち向かっていくメンバーはことごとく空中高くく投げ飛ばされた。老僧の亡き後、羅漢拳の中で秘技を持つリーダー代理がRー3号を攻撃しようとするとインドからきた赤ん坊の声が聞こえた。
{おやめなさい。Rー3号は私に任せなさい}
そのため師範代はRー3号への攻撃をやめ、ほかのアンドロイドたちに矛先を向けた。吉澤ひとみの腕に抱かれていた赤ん坊はR3号に秘技を二つ同時にかけた。Rー3号はぎしぎしという音を立てて動かなくなった。
{だれた。俺の動きを止めを切るものは}
{そんなことはどうでもよい}
Rー3号はあたりを見ました。自分に秘技をかけているものは吉澤ひとみの腕に抱かれている赤ん坊しか見当たらなかった。
{さては吉澤ひとみの腕に抱かれている赤ん坊だな。お前が俺の存在プログラムを抹消しようとしているのだな}
「おい、だれか。あの赤ん坊に石を投げつけろ」
R3号は味方のアンドロイドに命令した。味方のアンドロイドは地面に落ちている石を拾って吉澤ひとみの方へ投げつけた。石は風を切る音を立てながら飛んでいった。赤ん坊はRー3号に向けていた秘技を一時的に解き、念を石に向けると石はポンという音をたてて破裂して粉々になった。滝沢秀明は石を投げたアンドロイドの頭に飛び蹴りを加えると頭の内部でショートする音がして頭部は破裂した。Rー3号そのすきに吉澤ひとみの方へ向かって走って来ようとすると、再び、赤ん坊はまた秘技をかけた。Rー3号はまた静止した。時間がたつにつれてRー3号の各部はきしむ音を立てはじめ、そのうち赤く燃えだし、蒸気となって雲散霧消した。あっけない最後だった。羅漢拳のメンバーは各所で勝利を得始めていた。ところどころにアンドロイドたちの残骸が転がっていた。最後のアンドロイドを倒したとき、メンバーはみな、大理石で出来ている神殿にいる吉澤ひとみのところに集まって来た。
「これですべてが終わったのね」
「長かったかな」
「たったの、四カ後月だった」
「天空、空也ごくろうだった。われわれはお前達の働きを忘れないだろう。それから吉澤ひとみさんと村上弘明さん、あなたたちにも感謝しています」
「そんな」
村上弘明は多いに照れていた。
「兄貴、兄貴に伝えたいことがあるの。いいえ、村上弘明個人に伝えたいことだわ」
吉澤ひとみはポケットの中から口紅を取りだした。そしてそれを唇に塗ると、吉澤ひとみの姿かたちは、川田定男こと、下谷洋子、つまり村上弘明の憧れの人である志水桜に変わってしまった。
「ど、どういうことなんだ。君は志水桜なのか、それとも僕の妹の吉澤ひとみなのか」
「どちらでもないわ。兄貴、いや、村上弘明さん、あなたには妹なんていないの。あなたの記憶の中にインプットしただけ、あなたと一緒に住むために。まだ全然、わからないと思うけど、兄貴と行動を供にしているとき、よく、襲われたわよね。それも兄貴がこの事件に首を突っ込むように仕組んだ芝居だったの」
「ひとみ、じゃあ、君は僕の幻影の記憶なのか、過去にはいない」
「まず、私が何者なのかを言うと五千念の未来からやって来た未来人なんです。私の仕事は極端に間違っているその時代の歴史認識を適当に修正して人類が変な方向に進んでいかないように印刷物とか、記録とか、学説を直すことです。その仕事にとりかかろうと思ってこの時代のこの場所に立ち寄ったら異常な放射能を感じた。それがあの古寺で戦っていたアンドロイドでした。そして、わたしは羅漢拳の存在も知ったの。羅漢拳の存在がこのアンドロイドの戦いで知られることになったら、過去の歴史に少なからず、影響を与えると思ったので、兄貴の記憶をいじって憧れのマドンナの志水桜をつけ加えたり、妹、つまり、吉澤ひとみという私も付け加えた。そして、兄貴の家族の一員となってこの事件の捜査を始めた。最初から松村邦洋がおかしいということは古寺に一緒に取材に行ってカメラだと偽って測定器をもたせたからわかっていたわ。そして兄貴や滝沢くんと一緒に犯罪の捜査をした。アンドロイドたちにとらわれたとき、時計を壊した。あれがタイムマシンなんです。あれを使ってこの時代のこの場所にやって来たのです。今はそのタイムマシンも直りました」
そう言って吉澤ひとみは腕時計を目の前にさしだした。それはアンドロイドにとらわれてからしばらくはしていなかったものだ。
「わたしは自分の時代に戻らなければなりません。兄貴、一緒に盆踊りに行ったわね。あのときは楽しかったわ。でも、この時代を離れるに当たって、ここにいるすべての人々の私に対する記憶をけさせてもらてます」
「ひとみ、そうだったら、僕が目を覚ましたら自分のベットに寝ていて自分には妹がいなかったじ分を発見するというわけか」
「そういうことになります」
「吉澤さん、僕らの記憶を消すことはいいけど、君の記憶はどうするんだい」
「それは職務上の秘密よ。でも、あなたたちのことは一生忘れません。タイムマシンのスイッチはもう入っているわ」
「もう私は帰らなければならないわ。」
そう言うと吉澤ひとみは腕時計のねじを回した。すると吉澤ひとみの姿は足下からじょじょに消えていった。ただ思い出だけを残して。