読了 manga-bookshelf LIFE

 

2024年1冊目の読了本は塩田武士「存在のすべてを」

 

2010年に「盤上のアルファ」で第5回小説現代長編新人賞を受賞しデビューした塩田武士の作品である。「存在のすべてを」に興味を抱いたのは、2016年8月刊行の「罪の声」を読んだことに繋がる。「罪の声」は昭和の未解決事件「グリコ・森永事件」を製菓メーカー「ギンガ」と「萬堂」に置き換えた「ギン萬事件」から31年後、京都でテーラーを営む曽根俊也が父の遺品の中から見つけたカセットテープと黒革のノートが発端になる。そのカセットテープの音声が「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープと全く同じもので、しかも、その声は31年前の曽根俊也自身の声であった。時を経て事件を追う新聞記者がたどり着いた真相がフィクションとノンフィクションの狭間にあるが如く綴られる。

 

作者が再び描いた誘拐事件「存在のすべてを」は、平成の時代、驚愕の「二児同時誘拐事件」発生から始まる。誘拐された少年の一人はまもなく救出されたが、もう一人が戻ったのは誘拐されてから三年後で、しかも自ら現れてこの作品の真髄が描かれる。空白の三年間に少年の身に何が起こったのか。その三年間を共に過ごした人間は誰だったのか。画家と画商、絵画界の重鎮が支配する芸術の世界を書きながらそこに身を置く人々の人生を物語る。