皆さんは『老子』という哲学者をご存じですか?

 老子は、紀元前(キリストが生まれる前)571年生まれの中国の思想家で、後に『道教』という教えを説きます。道教の『道』とは、『自然の摂理や宇宙の摂理に基づいた人の在り方』を示す物で、英語では「TAO(タオ)」といいます。

 その中でも私が特に印象に残っている教えが、『無為自然(むいしぜん)』と『上善(じょうぜん)水の如(ごと)し』です。

 まず無為自然とは、『余計な手を加えず、あるがままに任せる』事をいいます。

 皆さんもスポーツなどの大会やコンクールに出場した経験はあると思いますが、その時に練習では簡単にできていた事が、本番になると結果を意識するあまり、本来の力が発揮できなかったという経験はありませんか?

 もちろん本番で理想の形ができるまで徹底的に練習する事は必要ですが、本番になったら『自分の無意識の力を信じ、結果は天に任せ、あるがままの力を出す』事を心掛けた方が、本来の力を発揮する事ができます。「無為」とは作為的な事をせずという意味で、「自然」とはありのままの姿という意味で、作為的な事を捨て物の自然に帰れ、というのが老子の基本的な教えです。

 次に『上善水の如し』とは、『最高の人生の在り方は水のように生きること』という意味です。

 老子の教えの本文には、「上善は水の如し、水は万物を利して争わず、衆人の恵む所にある」つまり「最高の善は水のようでなくてはならない。水は万物を助け、育て、自己を主張せず、誰もが嫌がる低い方へ流れてそこにおさまる」と述べています。

 また水は、 『どのような器でも収まる事ができる素直さ』や時に『岩をも砕き、大地をも削る力強さ』を持っています。

 「無為自然」も「上善水の如し」も、共通するのは力を抜き 、ありのままに素直に生きるという『脱力』の教えです。肩や心に力が入り過ぎている現代人だからこそ必要な教えなのかもしれませんね。