私達は、 『諦め』の姿勢になったとき、「どうせ無理だから」とか「どうせ私なんてこんなもんだ」など『どうせ』という言葉を口にします。

 確かに、「諦める」という言葉の語源は、「明らかに見る」からきており、「冷静に現実を見る」という点においては、時に効果的に働く事もあります。しかし、その姿勢が癖付いてしまうと、「無力感」にかられ行動力を失ってしまいます。

 皆さんは、『セリグマンの犬の実験』をご存じですか?

 犬をA、Bの2つのグループに分け、飛び越える事ができない大きな柵の中にいれます。柵の中に電流を流し、Aの方には電源スイッチを用意し、Bの方には何も手を加えず電流に耐えさせます。すると、Aの犬はスイッチをすぐ見つけ電源をオフにしますが、Bの犬はどうすることもできず諦めてうなだれてしまいます。

 次に、A、Bの双方のグループの犬を、 簡単に飛び越える事ができる柵の中に移し、同じく電流を流すと 、Aの犬は柵を飛び越えましたが、Bの犬は何もせず電流に耐えうなだれてしまいました。

 Bの犬のように、諦めの姿勢によって起きる無力感を『学習性無力感』といい、また「どうせ無理」、「どうせ失敗する」などといった「否定的な思い込み」や、その思い込みによって行動力が抑制されている状態の事を『メンタルブロック』といいます。

 これは人間にも当てはまり、学習性無力感がおきやすい職場の環境の条件としては、

 ・ハラスメントが行われている

 ・継続して否定される

 ・成果が実感できない

 ・褒めらる事がない

 ・方針や目標が明確でない

 ・相談できる環境がない

 ・コミュニケーションがとれていない

などがあります。よって、これらを改善すれば学習性無力感が起きにくい環境を作る事ができます。

 また、学習性無力感に陥っている人ができる改善方法もあります。

 ①成功体験を積む

  目標のハードルを低くしたり、大きな目標  を掲げる場合は、何段階かに小さな目標に分けて、小さな成功体験を積み重ねます。

 ②代理経験をする

  うまくいっている人の話を聞いたり、行動の様子を観察すると、「自分にもできるんじゃないか」という自信が持てます。ただし、自分とあまりにレベルが違い過ぎると実感が持てないので、レベルの近い人を対象にするのがコツです。また、ネガティブな事も代理経験をする恐れがあるため、ポジティブな人を対象にする事です。

 ③記憶の仕組みを知る

  人間を含む生物は、同じ失敗を繰り返さないように、成功体験よりも失敗体験の方が鮮明に記憶に残りやすい脳のつくりになっています。この事を理解するだけでも意識は変わってきます。

 私達は生きていると、どうしても学習性無力感に襲われる事の一度や二度はあります。その時は、自分を客観的に観察し、無力感の原因は何かを理解し、適切な行動をとる事が大事です。また、自分がもしかしたら、誰かの無力感の原因になっている可能性もあるので、自分の行動を振り返り、思いやりを持って人と接する事が大事だと、私は思います。