とてもフレンドリーで誰にも話しかけるイギリス出身の友人、M君。最近、外で会う機会がなくなり、お互いが近所に住んでいる事もあり、時に自宅に寄るようになった。家に帰ると、すぐにある方向の窓に行き、しばらく外を眺めている。特に興味がなかった私は、その理由を聞いたことがなかった。ある時、なんとなく、何を眺めているのか興味本位で、外を眺めるM君の窓の方へ行ってみた。特に面白い風景ではなく、単に隣人を眺めていただけだった。
M 『パキはいつもあそこに座って、パソコンで何かやっている。あそこから離れているパキを見た事がない。』デスクトップらしきパソコンの前に座っている男性がよく見えた。
私 『偶然、Mが見た時にパソコンの前にいるだけか、またはあそこで毎日仕事してるんじゃない?』
M 『いや、パキは朝から晩まであそこにいる。離れたところを見た事がない。』
朝から晩までとは、Mもおそらく、起床し、外出前から帰宅時、寝る前、彼をチェックしているに違いないと思った。他人の動向や噂話は、国境を超え万国共通の興味深いトピック、誰でも面白いと思うらしい。
他人の家を覗き見というよりも、Mは、レースがついていない窓から、覗き見ではなく、堂々と隣のビルに住むご近所様を眺め、それが毎日の楽しみになっていた。フレンドリーなMは、万が一、目が合えば手を振って挨拶すらしそうな勢いだった。
私 『ところで、なぜパキなの?』
M 『パキスタン人に見えるじゃないか?!』 と、勝手に隣人のあだ名までつけていた。
パキの家も同様にレースがなかった。
そう言えば、確か海外暮らしでは、どこの国もレースが無いのが普通で、昼は外から丸見えだった事を思い出した。
ある日、会社帰りに、M君自宅近くで軽く一杯して、店を出ようとした時、隣のテーブルに浅黒い肌の男性が座った。M君には知り合いが多い。
M 『オー元気か?久しぶり!』
男性『やぁ!?』
M 『以前会ったよね』と満面の笑み。
男性『そうかなぁ?』不思議そうな表情でMを見ていたが、Mは気にもせず店を出た。
店を去った後、聞いてみた。
私『あの人は誰?』長い友人関係である私達は、共通の知り合いも多いはずだが私はその男性を知らなかった。
M 『誰だろう。見た事あるが名前が思い出せない』って…それでも、自ら声かけたんだ。
M君の毎度の習慣で、家に帰って例の窓を覗いた時、衝撃的な驚きと共に気付きが!
M 『思い出した!あのパキだ。今日は、まだあそこで飲んでるから、自宅に戻っていない』
パキと挨拶した事もないM、もちろん名前を知るわけもない。だが、毎日彼を窓から眺めていた為、知り合いだと勘違いしたらしい。
しかも、Mは、アフリカのマサイ族と争えるほど、恐ろしく視力が良い為、彼の顔をはっきり認識していたらしい。
下の階に住むパキは、毎日眺めているMを知るわけがないわけで…後で思った。
お店を出る時にパキだと分かったらMはどうリアクションしたのだろう?
彼はきっと、パキに、うちから君の家がよく見えるんだ。僕は15階に住んでいると自己紹介するに違いない。
彼の知り合いが多い理由、視界に入る人は、数回見れば知り合いになってしまうからだ。
なんとなく理解できる。