新しいルームメート、パオラはサルデーニャという自治州をなすティレニア海の島出身の小さな女の子だ。黒髪に小麦色の肌が印象的で、笑うと白い歯が目立つ。南部の人の屈託のない笑顔をゴリツィアのような北の辺境で見ると、なんだかほっとする。彼女は州都カリアリの鉄道員の娘で、お兄さんはニューメキシコやジュネーヴで生物学のポスドクをやっているらしい。
 カリアリからゴリツィアに来たのは単純にいい通訳・翻訳コースがあるのが、ボローニャ、トリエステ、ゴリツィアだったから。ゴリツィアにあるウーディネ大学の少人数かつ実践的な講義は学生達の間でかなり好評らしい。彼女の専攻は英語とドイツ語の通訳で、文学とか哲学とかは全く履修しないでいいんだそうだ。日本の国立大ではちょっと考えられない…。未来の通訳らしく、はきはきよくしゃべる子で、来期からのスペチャリッツァツィオーネではサイマルテイニャスを勉強したいとはりきっていた。
 サルデーニャからゴリツィアに来てもう3年になるというパオラにこの町の印象を聞いてみると「町の人がすっごく閉じてる。いかにも国境っていう感じ。」と、いつもの返事が返ってきた。「もう3年もゴリツィアにいるのにこの町の知り合いが全然増えないの。」とも。サルダのパオラに限らず、州内の別の町からやってくる人も同じような印象を持つらしい。先日近所に引っ越した前のルームメートの家へ行ったら、ヴェネツィア出身の女の子がいて、やっぱり同じことを言っていた。そして、ぶーぶー言っている人達に共通しているのは、近場を精力的に回っていないということ。
 よそからやって来る若い学生達がネガティブな印象を持つのとは対照的に、ある程度のキャリアや経験を積んでからこの町に来る一定の年齢以上の人達は、あまりの居心地のよさにここでの定年後の生活を考えてしまうというのが面白い。ちなみにゴリツィア県は経済紙24 oreのイタリアで住みやすい県ランキングで例年5位以上と上位にランクインすることで知られている。