大学のバールが新装開店したのは2004年の秋のこと。2人の豪快なおじさんが店を切り盛りしている。世界中を旅して来たという彼らの話は最高に楽しい。ユーゴスラヴィアで大量のキノコを仕入れて来た話や、セルウ゛ィアの刑務所にぶち込まれた話、スロウ゛ェニアで女をたらしこんだ話、ギリシャやトルコ、アジア諸国での冒険談、と次から次におかしな話が飛び出して来ていつも笑わせてくれる。どこまで本当かわかんないけど、ちょっと休憩に訪れる大学の人々にとって、彼らとするアホ話はいい息抜きになっている。クリスマス前には親しい学生や先生を呼んでばか騒ぎしたんだけど、店の主が一番のりのりで、中近東風の音楽に合わせて拳を振り上げ、お腹を突き出し、踊りまくっていました。

 日本人がまだまだ珍しいこの町に住んでいると、何を話しても大きなリアクションがあります。日本の研究環境とか固い話ばかりでなく、トイレのウォシュレットとか駅の検札システム、suicaカードなどについても、物珍しそうに聞いています。例えば誰かにある日本のエピソードを紹介すると、数日後に全然知らない人からそのエピソードを引き合いに出され、本当にそうなのか?と質問されるという具合。私→友達A→バリスタと伝わった話をバリスタがさも自分が聞いてきたかのように得意げにAに話し、「それオレが言ったんだよ」と友達。「ぐわっははは、そういえばそうだったわ(hai ragione)」とバリスタ。適当なんですよね~。ときどきバールに行くと気前よくカフェをおごってくれる彼らだけど、一体どうやって店を維持しているんだろう、と友達一同首を傾げるばかりです。

 ふと立ち寄ってすみの方で静かにカップチーノをすすっていると、「日本ではあれか、こういうので食べんだろ~」と大きな声で箸を握るアクションをしながら話しかけて来る彼らには少なからず恥ずかしい思いをさせられることもありますが、とても気のいい人たち。俳優みたいに豊かな感情表現をする個性的な面々。その一人一人が心に強い印象を残します。彼らが暮らすイタリアの町々の美しさと一緒になって、その一挙一動が心に深く刻み込まれていきます。