どのくらいぶりだろう。
思い出すのも難儀なほどに、古本屋へ足を向けていない。
そもそもこちらのブログを始めたきっかけも、古本屋へ足繁く通った話を書くことだったのだから、あらためてこの変化に驚くばかりだ。
コロクの散歩を終えた後に、あーだ、こーだと相棒ととりとめのない話をしていたとき、何かの拍子に古本の話が出た。
「そういえば、昔ゴールデンウィークの時に古本屋に行ったことがあったね」
「人が多いときにはどこにも出かけないうちらが、唯一出かける場所といったらあそこしかないよね」
「以前は体力あったから神保町まででかけていったけど」
「今じゃ出かけても、半分は喫茶店巡りで終わりそう」
「まずは”ぶらじる”いって、”さぼうる”、”ミロンガ”のハシゴにになるね」
「なにしに行ったかわからないから、近場に行こう」
と意見が一致したところで、歩いて行ける地元の古本屋さんに二人揃って出かけることにした。
最近は近場の古本屋もめっきり減って、ここを残すのみとなった。
ありがたいことに、日本文学を中心に、濃い本を品揃えしてくれているので、時間を忘れて楽しめるお店なのだ。
以前、某ライターが、「この地域にはもったいない品揃えのお店」という、周辺住人に喧嘩を売っているのか褒めているのか分からない、ありがたい文章を書いてもらったことのある、知る人ぞ知る場所なのだ。
いざ鎌倉、的な出陣式を終え、さあ出かけるぞとはいっても、軍資金は覚束ない。
そこで何事にも遊びにはルールを決めた方が面白いということになり、「お一人様2千円まで」と上限を決めていざ決戦の地へ。
4月だというのに蝉の鳴き声が聞こえてきそうな暑さの中、うきうき、るんるんと古本屋へ向かう。
しかしここで油断してはいけない。
なぜならここのお店オープンは不定期だからだ。
平日定休はもちろん、休日だから開いているとは限らず、時間もまちまちだったりする。
しかも何年かぶりの訪問であるから、散歩のついでに前を通ることはあるとはいえ、お店の形は残っていても、本当に営業しているかは覗いてみないとわからないのだ。
そんな不安と期待を交互に抱きながら、あっという間にお店に着いた。
店先の駐車場にお店の車が鎮座しているので、いやな予感はしたが、店先に「営業中」の看板が掛かっていて一安心。
まずは元気に相棒が先陣を切って戸を開ける。
「こんにちはー」相棒の声が狭い店内に響き渡る。
入口の帳場でごそごそと下を向いて仕事をしていた店主が「こんにちは」とぼそっと答える。
その二人のやりとりを後ろから見て、なんだか嬉しくなってニヤニヤする性格悪い小生。
入るやいなや「それじゃ、解散」とお互いが告げ、それぞれ興味のある棚へと移動する。
どこから見ようかと、しばし放心しながら移動を開始しようとするが、ままならない。
それもそのはず、しばらくこないうちに狭い通路にうずたかく積み上げられた古本の山、山、山。
今までは少々お上品に積まれていたところがあったが、この数年で、何か店主のあきらめに似た、ある種、殻を破ったかのような開放感で満ちあふれている。
そうそう、この乱雑に積み上げられて、もうどうすることもできないと云わんばかりに、日々古本屋のオヤジの心を蝕み、古本毒に征服されていく感じがたまらないのだ。もうこうなったら最後、魔境へと歩を近づけるのみ。
また知れずニヤニヤが止まらない。
いやはや、つくづく性格悪いねオレも。
さて、昭和の日本文学を「わ行」から順に覗いていく。
吉行さんは持っているのばっかりだし、 ひさしぶりに安岡章太郎かなあ、でも古山高麗雄もいいなあ、高畑さんを追悼して野坂さんでも買うかなあ、いやいや読んだことない作家の出逢いも大事だぞと、ひとりごにょごにょ云いながら、蟹のように横歩き進んでいく。
時代を少しさかのぼって、井伏、利一、菊池、川端、多喜二などもちらちら覗く。
多喜二に食指が動いたが、二千円なので一期一会とはいえ今回はやめておこう。
いかんせん、軍資金は限りあるから、おいそれとは買えないのだ。
しかし、古本屋から遠ざかっていた、なまくらの躰に、突然カラータイマーが鳴り出した。
所狭しと居並ぶ古書の山に、古本酔いし始めたのだ。
なんという体たらくであろう、こともあろうに古本にあたるとは・・・・。
「そんななまくら躰で歴戦の猛者のオレたちと対等に戦えると思うなよ」
そんな幻聴まで聞こえたような聞こえなかったような。
こちらを蔑むような強烈な視線の数々に耐えきれなくなったので、そろそろ潮時とばかりに、えいやーと本を二冊選び出した。
一冊目は、中井英夫『地下鉄の与太者たち』(白水社・1984年)千円也。
中井英夫のエッセイ集。ご本人があとがきで書いておられるが、『香りの時間』に続く第五エッセイ集であるらしい。
本来は、カラー写真を沢山入れ込んだカラーエッセイ集にしたかったらしいが、高価になるのであきらめて、口絵だけにとどめたらしい。
竹中英太郎についても作中でふれられているのだが、英太郞の挿絵も入れたかったらしいがこれは叶わなかった、残念。
そしてもう1冊は、獅子文六『ロボッチイヌ』(文藝春秋・昭和34年)千円也。
獅子文六はほとんど読んだことがないので、タイトルに惹かれて購入。
イヌのロボットの話かと勝手に妄想して購入したが、短編なのでそうそうに取りかかると、予想に反して全く異なる話であった。
ロボットはロボットであるが、イヌではなく女性型ロボットを作る話なのである。
ユーモアを交えた社会風刺の話なのだが、まあ種を明かせば、若い青春真っ盛りのもんもんとした男子のために、精巧なダッ○ワ○フを作ろうじゃないかという、とってもくだらなくて面白い話なのです。興味のある方はすぐ読めてしまうのでどうぞ。
相棒はというと、今、どハマリ中の「カレー」本をみつけてうきうき。
こちらは値段がついていないこともあってか、なんと店主がオマケでサービスしてくれのだ、ありがたや。
二人できっちり二千円という落ちまでついて、心中ニンマリ。
「ありがとうございます。又(いつか)来ます」と、心で叫んで、二人スキップしながら帰ったのである。
うちに帰ってくると、二人とも暑さと古本熱で、躰から湯気が出るほど。
「これって熱中症じゃね?」まあ、平たく云えばその一歩手前の症状ということで、さっそくアイスキャンデーくわえて冷やすことに。
ガリガリ君のありがたさを感じながら、小生→相棒→イヌと回し食いしていると、なにやら棒の先っぽから神々しい刻印が現れた。
なんじゃ、なんじゃと皆が覗くと、「ガリ温泉△△当たり」と書かれているではないか!!!
「お、お、お、おっ、温泉に行けるのかー」と早合点している小生を尻目に、スマホで当選内容を調べる相棒。
「ガリ温泉グッズが当たったみたい。タオルとか入ってるみたいよ」とタオル愛が強い”タオリスト”の相棒は冷静な指摘。
今日は色々”あたる”日だと思いながらも、何はともあれ当選したことには変わりない。
深谷市に本社を置く赤城乳業に強く親近感を感じつつ、古本たちからのご褒美だと勝手に解釈して、またの再会の機会を伺うのであった。